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VSフロアボス リビング・スタチュー!(前編)

前後編です。

「我の名はリビング・スタチュー。また我と戦う冒険者か?」


 巨大な石像であるリビング・スタチューの声は胸に響くほどの低音でかつ大音量だった。

 部屋の天井は高く、広く、支柱も太い。

 リビング・スタチューはまだ遠くにいるので、はっきりと輪郭が見えない。

 見たい気持ちはあった。

 だが近づけば戦闘だと思うと、今はまだ動きたくなかった。


「そなたは1人か?」


「1人じゃ悪いか?」


「舐めれていると感じる。非常に不愉快だ」


 強敵相手になんでこんな口悪く言えるんだ、と自分でも思ってしまう。

 だがこれも『恐怖耐性』が作用しているのだろう。


「早くこちらへこい。そなたを殺したい。我の落とす戦利品に興味があるのだろう? それにこの部屋から出るのであれば、我を倒す必要があるぞ……」


「わかったわかった、そっちに行くよ」


 だが、ただ歩いていくだけではダメだ。

 そうやって正々堂々と戦える相手ではない。

 間違いなくレベルが違う。

 だから俺は踏み込み、その勢いに任せてロングソードで攻撃を仕掛けた。

 だが、


「これが貴様の武器か。なんとも弱く、もろい……」


 俺のロングソードはしゃがみこんだリビング・スタチューに指でつままれた。

 いつの間に現れた!?

 それに両手で持っているロングソードをつままれているせいで、身動きがとれない。


 それにしても一瞬で距離を詰めているつもりだったが、逆に距離を詰められてしまうとは。

 こいつは力もスピードも、両方兼ね備えている。


 気がつくとロングソードにヒビが入り、音を立ててあっけなく破砕した。


「冒険者は武器により強くなる。なら武器から破壊しよう、というのが我の考えだ。悪くはなかろう?」


「武器を破壊してもまだまだやれることはあるぞ? 『ファイア』」


「ぬうっ……? だが魔法なぞ、斬ればよい」


『ファイア』が消されてしまった。

 俺には何が起きたのか分からなかったが、リビング・スタチューの姿がようやくはっきりすることで理解ができた。


 リビング・スタチューの腕は4本ある。

 そしてそれぞれに曲剣が握りしめられている。

 最初から握っていたとは思えないが、現にいまあるのだから、4本の曲剣の存在は否定できない。


 それで魔法を斬ったのだ。

 魔法を斬るだなんて、常識外な気がするが、無効化できるような特殊な武器なんだろう。

 フロアボスなんだから、それぐらいあってもおかしくない。


 なんだかムチャクチャな初見殺しを感じるが、そう不快に感じている余裕はなさそうだった。


「一人で来た勇敢さは褒めてやろう。ただ、愚かが過ぎる。死んで悔やめ」


 間近にやってくるフロアボスのリビング・スタチュー。

 やつはニコリとしたわけではなかった。表情が動いていない。

 石像だから喋っていても口すら動かない。


 だが体はしっかりと動き、曲剣が俺に迫る。

 痛いどころじゃすまな――



『不死スキル発動』



 一瞬にして俺は呼吸を整えた。

 そして現状把握。

 装備している物は『不死』スキルとともに復活する。

 だからロングソードは復活した。

 そして一部のステータスだけ見る。



 ————————————————————————————


 レベル:57

 HP:8750/8750

 MP:1800/1800


 ————————————————————————————



 HPはもちろんのこと、MPも全回復だ。


「ぬ? 死なぬ体か?」


 ただ『不死』については気付かれたらしい。

 人語を話すだけあって理解が早い。


「そうだよ。だから降参するのも手だぜ?」

「我にそれを言うか。呆れたものだ。死なぬのであれば、生き地獄を味わえばよかろう」


 リビング・スタチューは4本の曲剣をクロスさせる。

 俺は周りにある支柱を背にしてしゃがみこんだ。

 きっとロクでもない攻撃がくる。


「はあああああ……っ!」


 その声と同時に、天井や床の破砕音が聞こえてきた。

 何をやっているのか最初は分からなかったが、俺の目の前の床がボコッと破壊されたことで分かった。

 4本ある曲剣がこの部屋のなかを自由自在に飛び回っている。

 狭い部屋なら即死していたが、この部屋は広いので急いで支柱を背に隠れた。


 支柱越しに、同じ場所へ何度もぶつかる曲剣が見える。

 俺のいるところにはまだくる気配がない。

 軌道を読んで対処しなければと思うものの、軌道が読めないほどに早い。

 完全なランダムなら面倒だな……。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン。

 目で追いかけてみるものの、本当に早い。

 見えないほどではないことが救いだ。

 だが同時に、これ以上考えても無駄だと思った。


 俺は支柱に隠れることをやめ、飛び出した。

 4本の曲剣が飛んでいる。

 つまり相手は武器を持っていない。

 これはチャンスなんじゃないか?

 ロングソードを肩で支えて、俺は斬りこむため、走った。


「……ガハッ!」


 突然の吐血。

 4本の巨大な曲剣は俺の体にすべて刺さった。

 ランダムじゃなく法則性があったのか?


「愚かなり」


「くそ……ずっと適当に飛んでろよ」



『不死スキル発動』


 目を開けるとそこには大きな何かがあった。

 それが何か把握するまでには時間がかかった。

 だが把握すればなんてことはない。

 曲剣の刃だった。

 俺が息を吹き返せば、すぐにでもとどめを刺すつもりなのだろう。

 空中で待機していやがる。

 呼吸を止めて、目はうっすらと開く程度にとどめよう。


 …………。

 にしても参った。

 さすがにこの殺意には俺の『恐怖耐性』であっても苦しいらしい。

 心臓がバクバク激しく鼓動している。

 だが俺は動かなかった。

 そしてとても長い時間が経過する。


「うむ……死骸となったか。回数制限の蘇生は哀しい」


 曲剣がゆっくり動く。持ち主のリビング・スタチューのもとへと戻ろうとしている。

 そんな巨大なリビング・スタチューは俺をとても近くで見ていた。

 石像のクセに顔を近づけて死にざまを確認している。


 ああ、これは。

 言ってしまえば油断だ。

 恐怖はあった。

 だがリビング・スタチューのこの油断に気付けば、恐怖は消える。

 曲剣はゆっくりと戻ろうとしているので、チャンスはまだある。おそらく数秒。

 ロングソードの準備をしている余裕はない。

 だから、これしかなかった。


「『ファイア』」


 魔法は唱えればすぐに攻撃が飛ぶ。

 相手は素早く曲剣を動かそうとする、がもう遅い。

 俺の唱えた『ファイア』がリビング・スタチューの顔に襲いかかる。

 それも一発ではなく何発も。

 俺の5倍以上あるリビング・スタチューの顔が『ファイア』の火球で爆発し、石像の体全体も燃え上がった。


「ぐ……生きておったか」


 少しだけひざをガクリと曲げ、地面につける。

 効いている。

 だがダメージが大きいかというと、とても怪しい。

 もっと魔法を放つほうがいい。

『ウォーター』も『アイス』も『ウィンド』も。

 どれかが弱点かもしれないからだ。


 だが俺が次に使う魔法は『アクセル』だ。

 素早さを上げる補助魔法。

 俺はこいつをつかっていったん逃げた。


「逃げるな。卑怯なやつめ」


「逃げるなって言って、それ守っても俺を殺すんだろ! だったら逃げるだろ」


 いったん支柱に隠れること。それが先決だった。

 追いかけてくるのであれば、また支柱に身を隠せばいい。


 リビング・スタチューはきっと追いかけっこを望まないだろう。

 俺よりはるかにでかい図体。

 つまり支柱がどうしても邪魔になる。

 支柱がなければ出会ったときのように、高速に動いて俺を狙ってくるはずだが、それをしてこない。

 だから4本の曲剣を操るのだろう。


 そして案の定、曲剣はヒュンヒュンヒュンと音を立てて飛んでいた。

 俺を探している。

 これはチャンスだ。


 リビング・スタチューに『ファイア』を当てたことで確信に至れたが、奴は油断すれば魔法ぐらい通る。

 それに曲剣が飛んでいるということは、魔法を斬って守るという術をそもそも持たない。無防備。

 魔法攻撃なら倒せる。


 あと、『アクセル』の効果を俺は甘く見ていた。

 この魔法はかなりすごい。

 この魔法は自分が早くなることで、相対的に早い物の動きが見えるようになっている。

 つまり、いま俺には4本の曲剣の動きがすべてしっかり見えている。

 だから曲剣がすべてランダムに飛んでいるわけではなく、減速していないことも分かるし、壁や支柱にぶつかってようやく方向転換ができることも分かる。


 となると、こちらへ向かってくる曲剣を避けることも可能だ。


 見つかると曲剣は俺のもとへと集まってくるが――これこそ単純に対処可能。

 そもそも支柱から魔法を撃てば、何の危険性もない。


 色々難しく考えたが、遠距離で魔法撃ちまくって倒せば、すべて簡単に終わる。

 そう単純にいかなくても、勝利の法則はこうして存在する。


 あと1、2回は死ぬかもしれないが、何とかなりそう。

 倒すと何レベル上がるのか、今から楽しみだ。

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