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目指すべきフロアボスと封印されしダンジョンボス

 ワイルドシープは耳をつんざくような鳴き声を発した。

 うっ、と反射的に耳を手でふさいだが、それこそ奴の作戦。

 こちらがひるんだ隙に突撃し、自慢のツノで攻撃するという習性をもっている。

 ワイルドシープはセオリー通りこちらに向かってやってきた。


 だが俺はあまりひるまなかった。

 鳴き声は確かにうるさく、耳障りだった。

 だがそれだけだ。


「おいおい、今のでひるむと思ったのか?」


 耳を塞いでいたがすぐにロングソードを構えなおす。

 猛烈なスピードで走っているワイルドシープは途中まで突撃の姿勢を続けていたが、こちらに気付いたのだろう。すぐに減速しはじめた。


 だが、もう遅い。

 俺は腕をいっぱいに伸ばし、頭上にまでロングソードを持ち上げていた。

 あとは力いっぱい振り下ろす。

 スピードを落としきれないワイルドシープは、その大剣の切っ先が通るところにいた。


 スパッ――


 ロングソードは重さを利用した武器だ。

 上手く斬るために作られた武器ではない。

 だから俺は頭部へのダメージ、あわよくば頭蓋骨の破壊ぐらいを考えていた。


 だが斬られたワイルドシープは、縦に真っすぐ斬られ、身体が左右半々に分かれた。

 うしろでドチャ、と鈍い音が聞こえた。


「あ……ええ?」


 あまりのことに俺は驚愕した。

 てか軽く引いた。

 確かにロングソードは想像以上に軽かった。

 レベル5時代の俺なら持ち上げることすら不可能だっただろう。

 それがやすやすと持ち上がった。

 加えて『攻撃力1000』という数値がさらに作用したのだろう。

 軽く、まるでケーキをォークで切り分ける時と同じような感触で、スパッと斬れてしまった。


「中身スポンジじゃない……よなあ」


 と、俺は半分になったワイルドシープを見ながら言った。

 もちろんスポンジなどではなかった。


「俺、もしかしてめっちゃ強いのでは?」


 今の俺のレベルと、ここの推奨レベルはたった10の差。

 それは結構大きなことなのか?

 このロングソードは想像以上に優秀なのかもしれない。

 出費をケチらなかったのは正解だったな。



 平原を一周していると、様々な魔物に出くわした。

 スライムやゴブリンの亜種、毒をもつヘビ、ビッグヴァイパーなど、見たことのない魔物だらけだった。

 だが、どれも弱かった。

 試しに大剣ではなく、腰に装着した短剣、ダガーでの攻撃を試みたが、それでもスライムなんかは一撃で「キュ~」と言って、魔石だけ残して消えた。


 少し容量の増えたアイテム袋も、腰のポケットにある魔石入れも、まだ1層目だというのにいっぱいになってくる。

 それにしてもレベルが上がらない。

 1層目のソロ推奨レベルが40なのだから仕方ないか。


「いい加減、下層に降りてみるか」


 父には悪いが、少しムチャをしてみよう。


 目指すは最下層。

 ソロ推奨レベルは70。

 やりすぎな気もするが、やはりエリートオークを倒したときに近いレベルの上がり方をもう一度体感してみたい。


 そこを目指して俺は一歩踏み出す。

 この明るく居心地のよかった平原からおさらばして、次のエリアへと。



 ※



 ダンジョンへ入るときに許可はいるが、下層へ降りる際に許可はいらない。

 なぜなら下層に降りてムチャをするような人間はいない、とみなされているからだ。

 なので俺はとてつもなく例外的な行動を取っていることになる。

 自分で言うのもなんだが。


『丘の上ダンジョン』の最下層である15層目に到達した。

 1から14層目まで、魔物との戦いは血みどろで殺伐としていたが、それでも平原であったり、なかには川が流れているエリアもあったりと、牧歌的なビジュアルが記憶に残った。


 だがここはどうだろう。

 どこかの遺跡に迷いこんだかのような、石造りの人工物がある。

 それはただの壁だったり、登れそうにない段差になっていて、これまでのダンジョンとは違いすぎている。

 人が整備したとは思えない。ゴブリン文明か?


 それにしても静かだ。

 風の音がかすかに聞こえるだけで、魔物が歩いている気配がない。

 レベル上げ、出来るのだろうか。

 もっとも俺はここに来るまでレベルが3上がって、53になった。

 13、14層の魔物も、1層とたいして変わらない強さだったので経験値は少ない。

 だがレベルはちゃんと上がっていってる。


 ということで『ステータスオープン』。



 ————————————————————————————


 鮎川彰良アユカワ アキラ


 レベル:53

 HP:8300/8300

 MP:850/1600

 物理攻撃:2530

 物理防御:1920

 魔法攻撃:1540

 魔法防御:1430

 すばやさ:1020

 異常耐性:1010



 攻撃魔法:ファイア(レベル10)、アイス(レベル10)、ウォーター(レベル10)、ウィンド(レベル10)

 補助魔法:アクセル(レベル10)

 回復魔法:リカバー(レベル10)、デトックス(レベル10)

 スキル ;不死(レベル10)、カウンター(レベル10)、恐怖耐性(レベル10)


 ————————————————————————————



 最初の頃のような衝撃がそろそろ欲しい。

 あの、レベル5→50の時のような衝撃。

 いま敵は1匹あたり800とか1000ぐらいしか経験値をもらえない。

 レベルアップとともにステータスが10倍になるあの感触が恋しくなってきた。


「にしても最下層のわりに、敵いないな……」


 俺の声が反響する。

 ひらすら歩く。

 奥へ、そのまた奥へ。

 だんだんと道は狭まっていく。

 最下層の奥、ゴールが近くなっていくことを実感する。

『朝井ダンジョン』を2層目までしか歩いてこなかった俺からすれば、それは未知の感覚だった。

 興奮する。


「なんだこれ?」


 歩いていると不思議なものに遭遇した。

 テーピングされほとんど見えなくなった扉。その周りを囲うフェンスに、等間隔に赤いコーン。赤いコーンも黄色と黒の縞々のテーピングが施され、繋がっている。

 どう考えてもそこだけは人間の手が加えられていた。

 そしてじっくり眺めてから思い出した。

 ここはダンジョンボスが封印された部屋だ。



 ※



 まずダンジョンには二匹のボスがいる。フロアボスとダンジョンボスだ。

 この二匹は混同されそうで混同されない。

 冒険者が出会うのはフロアボスだけで、ダンジョンボスとは決して出会わないからだ。

 いや、厳密に言うとダンジョンボスとは出会うことができない。


 フロアボスは最下層にいるダンジョンの守護者になる。

 こいつはダンジョン各層にいる魔物の中でも二番目に強く、最下層の一番奥の広い部屋にいる。部屋からはなぜか出てこない。

 倒すと珍しい戦利品や巨大な魔石を獲得できる。しかも一度倒されても何度も復活する。

 別に『不死』のスキルを持っているわけじゃなくて、他の魔物と同様、再び生き返るだけだ。

 なお以前俺が倒したエリートオークは『朝井ダンジョン』のフロアボスではないらしいので、復活することもないのだとか。ますます存在が分からないが、今は置いておく。


 ところがこの封印されしダンジョンボスは違う。

 ダンジョンボスは最下層に限らず、どこかの層の部屋にいる。部屋にいる点はフロアボスと同じだ。

 ただ強さがケタ違いで、ダンジョンの中では最も強い魔物だと言われている。

 例えば冒険者三十人が一瞬にして消し去ったとか、溶けたとか、精神だけ破壊してダンジョンの入り口に転移させられた、など強さとともに色々な逸話が多い。

 ただ、これはもう確認するすべがない。

 なぜなら10年前のダンジョン誕生早々、ダンジョンボスは封印されてしまったからだ。


 封印の理由は2つ。

 ダンジョンボスと戦うと死者が必ず多数出るから。

 そしてダンジョンボスを倒すと、ダンジョンが消えるから。

 死者を多数出すこともそうだが、ダンジョンが消えると、その経済で成り立っている商業施設が困ってしまう。

 そこで出た経済と安全性を備えた妥協案が、こうした封印だった。

 こうして実物にお目にかかるのは初めてのことなので、俺はじっと見ていたが、怖くなって足早にそこを去る。

 ダンジョンボスもまた部屋から出てこないが、命の危機を俺は生理的に感じ取っていた。

 スキル『不死』『恐怖耐性』、両方が備わっているにも関わらず……。

夕方か夜にも更新します。

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