戦利品鑑定! そして俺の家族の話。
「彰良くん。そのスキルの扱いについて理解があるからこそ、こういう個室での話し合いを望んだんだと思うけど、不死スキルの情報を冒険者ギルドがどう扱うか、気になってたりするのかな?」
田中さんの言葉に俺はうなずく。
これから不死スキルを使って無双するとか、そっちの決意をさせられてしまったが、俺が不死スキルの話を打ち明けたのは、情報の取り扱いについて聞きたかったからだ。
「いわゆるチートスキルは知られたくないっていう考えは正しいね。ギルドはこれまでもそういう人たちをサポートしてきたよ。悪用する人が現れるかもしれないしね」
「俺は誹謗中傷のことを考えてたんですが、そんな悪用なんて……できますかね? 死んだら蘇生するスキルですよ?」
「うーんと……私が悪い人なら、君に魔物かどうか分からない危険な宝箱を開けさせたり、食べ物の毒味を頼んだりすると思うなあ」
「うわあ……。俺、田中さんとパーティー組むことがあっても、絶対組まないでおきますね」
「ちょっと、私は善人だから安心しなよ。とにかく、これは二人だけの秘密ね。とはいえ別のダンジョンに行くことになって、冒険者ギルドに冒険者カードの提示が求められても、幸いスキルまでは知られないから安心しなよ。まあ、迷ったら連絡頂戴」
そして俺は田中さんとSNSサービスのチェインのアドレスを交換した。
年上とはいえ、女性とチェインのアドレス交換をするのは生まれてはじめてだったので少し興奮する。
「女の子とチェインのアドレス交換をするのは生まれて初めてだな、って感じの赤面が見えるけど、気のせいかな?」
「気のせいですよ。田中さん失礼すぎます」
※
相談を一通りおえて、しょうもないことで談笑したあと、俺はズタ袋を開けることにした。
すっかり忘れていたが、エリートオークの戦利品をさばかなければならない。
俺は机の上に、戦利品を一つ一つ並べていく。
あとは田中さんが鑑定に入る。
鑑定スキルのようなレアスキルではなく、目で見るだけの鑑定だが、冒険者ギルドの人たちは鑑定のプロでもあるので、鑑定スキルとは無縁に上手く鑑定してくれる。
田中さんが手に持つ虫眼鏡が光る。
「これはすごいなあ。オークの牙から色々な調度品が作れそう。10万円でいいかな?」
「そんな高額で買ってくれるんですか、やったあ」
「ふふ……でも君がもってきた戦利品のなかでも一番高額なものは、これだよ?」
と、指で示してくれたのは魔石だった。拳大ほどある魔石だ。
いつもは小粒程度の魔石しか入手できない俺だが、強敵を倒したので今回は大きな魔石を手にすることができた。
さて、お値段は?
「50万円」
「ご……ごじゅうまん!? 田中さん、そんな金額払っても大丈夫なんですか?」
「払うのは公共機関の冒険者ギルドで国でもあるから、私の財布は痛くないよ」
「そりゃそうですよね。でも50万円と10万円……俺に使えますかね?」
「そこはほら、50レベルらしい装備揃えるために使うべきだよ。50レベルから装備の値段がグンと跳ね上がるからね」
「なんだ、少しガッカリ」
とはいえ、机に並べた戦利品はすべてで80万円になった。
田中さんに見積もってもらったレベル50向けの装備の値段は60万円。
装備の金額は高校生が買う値段じゃなかったが、それを買ったとしても20万円あまる。
ゲーミングPCぐらい買えるだろうか?
「装備の見積りはしたけど高額だし、実際に買うのは彰良くんなんだから、じっくり考えるといいよ。それに今日は疲れてるでしょ? おうちに帰って寝なさいよ」
気が付くと部屋にある窓からは夕日が差し込んでいた。
夜の帳が降りる時間も近かった。
日曜日の午前からダンジョンにもぐって、こんな時間になるとは思わなかった。
そういえば腹も鳴っている。
「ありがとうございました」
一礼をして、俺は部屋から出た。
田中さんは手を振って俺が去っていくのを見送ってくれた。
※
歩いて、少しだけ電車に乗って、また歩いて。
そうすることで俺は家についた。
「ただいまー」
「あれ、お兄ちゃん? おかえりー」
屈託のない笑顔で迎えてくれたのは妹、ココロだ。
ココロは小学5年生の10歳で俺とは5つ歳が離れている。
でも仲は良い。
「めちゃくちゃ遅かったけどお兄ちゃんなに……て、うわくさ! 本当に何してたの?」
「いや、ダンジョン潜ってただけだよ」
「ダンジョンってそんなにくさかったっけ!?」
まあ、そういう反応になるのも仕方がないか。
結構入念に洗ったんだがな。
「うん、ダンジョンは時々くさいぞ」
「えーひくー。とにかくお兄ちゃんはお風呂に入って、その服、手洗いしてよね。あ、絶対洗濯機に入れないでよね」
「はいはい」
俺は風呂に入る。
さっきシャワーを浴びたばかりだというのに、生き返ったかのような心地よさがあった。
「風呂で生き返る分にはいいんだがなー」
1人風呂なので、もちろんこの言葉に突っ込む人はいなかった。
風呂からあがると、夕飯の支度が済んでいた。
母、父、妹、みんなダイニングテーブルについている。
「ダンジョンに潜ることは聞いてたけど、少し遅くなるなら言って欲しかったわ」
と、母。
母は若い頃に俺を生んだからか、まだ肌艶があって美しい、と近所で評判らしい。
俺にはよくわからん。
「ゴメン、母さん。実は強い敵が出てきて帰りにくかったんだ」
「その敵と戦ったのか?」
と、父。
父はそれほど若くない。昔はバスケットをしていたので、ガタイがいい。
「まさか! ダンジョン管理の人たちが倒してくれたんだよ」
「そりゃあ、そうか。彰良はまだレベル5だったか?」
「う、ううん、一応レベルは6になったよ」
本当は50だが、いまそれを言うとこじれるので嘘をついた。
「レベル6か。じゃあまだ強い敵と戦うときじゃないんだな」
そして家族のみんな、俺含めてテレビの画面にくぎ付けになる。
ニュース番組で知っている場所の話が流れたからだ。
若い冒険者の死と、『朝井ダンジョン』に現れた謎の魔物の話。そしてしばらく休業のお知らせ。
「お兄ちゃん、これのせいで帰るの遅くなったの?」
「うん、まあ」
「やっぱり冒険者、危ないよ。ねえ、普通に学校行くだけじゃダメなの?」
ココロは涙ながらに訴えてきた。
うう、つらい。
今までも鮎川家では似たようなやり取りをやってきたが、ここまで深刻な事態をニュースで見ることなんてなかった。
さあ、どう切り抜けよう。
俺は頭のなかで言葉を紡いだ。
「中2の時に冒険者の適性があるって分かったんだ。それを無視するのは気持ち的に無理だったって前も言っただろ?」
冒険者としての適性はたまたま見つけたものだ。
2年前、遊び半分で適性試験を受けてみたら、魔法が使えることが分かり、両親にお願いをして冒険者としての資格を獲得。
そのまま俺は我慢しきれず冒険者ギルドに登録して、まったりと『朝井ダンジョン』付近でレベル上げをしていた……というのが今日までの流れだ。
スライムに苦戦していた日々が懐かしい。
「だが俺は絶対にムチャはしない。同級生にすごいやつはいるが、そいつのことは気にしない。それに今回の出来事は前代未聞だったんだ。ギルドも再発防止に努めると言っている。だから安心しろ」
「ホント? ホントにそれで安心できる?」
「俺はできる。だからココロも安心してくれ」
ココロは納得してくれた、だろうか。
いや、やはり少しだけ顔が険しい気がする。
ニュースは天気予報を映していた。そろそろ9時のドラマがはじまる。
「ココロ」
と、妹の名前を呼んだのは父だった。
食事に箸をつけず、言った。
「これは父さんの意見なんだが、彰良の冒険者でいたい気持ちを今も昔も尊重している。それにスポーツが苦手な彰良が強くなっていく様子を見てると、親としては少し安心するんだ。それは母さんも同じだ」
そうよ! と言わんばかりに母はうなずいた。
そして父は言葉を続ける。
「もちろんココロの気持ちもわかる。だが私は彰良を信じている。誘惑に負けずムチャもしない。その約束があるから私もお母さんも許可をした。そもそも死の危険顧みず行動をしようだなんて彰良が考えるはずがない。そうだよな、彰良?」
「あ、うん。もちろんだよ。俺はケガだってしたくないんだぜ、ココロ? お兄ちゃんを信じろよ!」
返事がやや歯切れ悪くなってしまった。
そうだよなぁ、と問いかける父は笑みを浮かべているが、俺は苦笑いするしかない。
父は俺のことを本当に信じてくれている。
「まあ、お兄ちゃんもパパもそう言うなら、信じてあげないこともないけど?」
ココロは機嫌を取り戻したようだ。
流れていたニュースに感化されることもなく、少しホッとする。
「さ、お味噌が冷めちゃうからさっさと食べましょ」
「そうだぞ、冷めた料理はまずいからな」
「お父さん、私の料理がまずくなるなんて、言わないで
母が父を指でつっつく。
これで話はおしまいという、いつもの俺の家の光景だった。
まあ、わかってはいる。
いつかきっと、どこかのタイミングで言わなければならない。
だが今は少し、冒険をしてみたい。
俺だけの『不死』の冒険を。
ブックマーク、評価ポイント、ありがとうございます。がんばります。
あと夜にも更新します。