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デートの約束!

 初見のダンジョンのことを知らないまま冒険に出ることは無謀だ。

 フロアボスのことをまったく知らずに戦ったとき、それは痛いほどよくわかった。

 今回はそのときの反省を生かして、『渚ダンジョン』について検索している。


 だが、いくら検索しても情報があまりなかった。

 企業の冒険者向けサイトはいくつかあるが、そこでの記述は一切なし。

 検索サイトで『渚ダンジョン』と検索すると、ヒットはするものの情報が怪しかった。



『立原海岸にあるダンジョン。渚と言いつつも海水浴ができそうな海にダンジョンはない。どこ?』

『場所探ししようにも、バスが2時間に1本しか通らない上に、コンビニも自販機もない過疎地』

『冒険者ギルドの建物すら見当たらない』

『枝が顔に見える木がある。そこからダンジョンの入り口が見える』

『道なき道を歩いて積み石空間が出たら勝ち』

『着替えは外。女性には厳しい』

『頭おかしくなるダンジョン。クソ。入ってすぐ後悔して扉開けられる時間まで待った』

『少なくとも飲料が必要。登山道具はいらん』

『フロアボス見たことあるやついるのか……?』



 これはもしや、隠しダンジョンというやつではないだろうか?

 噂ばかりが目立つ、都市伝説級のダンジョン。

 着替えは外とか、飲料が必要とか書いてあるあたり、実在はするんだろうが、たどり着ける気がそれほどしない。

 リビング・スタチューも『南へ60キロ』としか言わなかったしなぁ……。


「なんかヤバそうだが、俺には合うダンジョンなのか……明日の放課後、行ってみるか」




 ※




「彰良くん? 平日、いつもどこ行ってるの?」


「え?」


 放課後、そろそろ『渚ダンジョン』に行くぞっていうタイミングで初音は声をかけてきた。

 2週間前のリバイブの騒動以来、俺は初音とそれほど言葉を交わしていなかったので、こういった初音らしい問いかけは久しぶりだった。


 日曜に環奈も交えて行っていたレベル上げも、世間のざわつきやリバイブ騒動の疲労からお休みをしている。

 環奈とは学校が別なのでチェインで「まぁ今はダンジョン行きにくいよね」という会話ぐらいしかしてない。


「私たちと冒険に出ないって決めても、なんだか彰良くんは冒険者として動きまわってる気がするんだよね。平日も。どうかな?」


 それにしても困る質問だ。

 初音の言うことは事実だからだ。

 相変わらず勘が鋭いらしい。

 隠しているのは不死スキルを使ったレベル上げについてバレたくないからだ。 

 不死スキルを使っていないと言っても、レベルが120になっていることを知れば、チートスキルのことを疑うだろう。

 そんなスキル、例え身内であってもバレたくはない。


「いや、そんなことはないぞ。平日はソシャゲで時間が潰れるからな」


「ふーん、じゃあ暇ってことなんだね」


「今日はさすがに別件がある」


「明日は?」


「明日は土曜だし、学校も休みだから……」


「用事ないよね?」


 初音の声のトーンが少し低い。

 明るさが取り柄の1つだった気がするんだが、怖いぞ、初音。

 そして初音のことに少しビビった俺は素直に言った。


「なにも、ないな……」


 すると初音は満面の笑みを浮かべた。


「うー……やったあ! じゃあ彰良くんと土曜日デートできるね!!」


「……は?」


 周りにいるクラスメイトたちだけでなく、俺も唖然としてしまう。


「いや、デートってなんだよ、初音。突然すぎるだろ!」


「突然かな? でも私の悔しい気持ちを考えたら、デートも当然かなって思うよ」


「どういうことだよ」


「環奈ちゃんとは一度、デートしてたよね?」


 地下街ダンジョンの騒動のときのことか。

 あの日の出来事は悲惨すぎて、楽しい思い出として記憶してないが、騒動が起こるまでは恥ずかしかったり、楽しかったり、色々あった。

 ただあれはデートじゃない。買い物の付き添いだ。


「環奈のあれはデートじゃないと、何回言えばいいんだよ」


「いや、私にはデートにしか見えなかった」


「見てたの一瞬だけじゃん……」


「話を色々と聞いてるとデートとしか思えなかったよ。デートと思わせてしまった時点で彰良くんの負け。……ってことで私とも付き合って!」


 ここまで来ると拒みようがない。

 俺はやれやれ、と思いながら首を縦に振った。


「分かったよ。じゃあ明日な。今日は俺、本当に忙しいから、そっちで時間と場所決めていいよ」


「え、こういうのって男の子がリードするものじゃないの?」


「あー……そう言われるとそうなんだが、忙しいのはマジだから、返信とかいつになるか分からないぞ?」


「いいよ、彰良くんがちゃんと考えて選んでくれた所なら、どこでもオッケーだよ。ただ、めちゃくちゃ遠いところは……次の日が日曜だから、ありかな?」


「1泊とかそんなこと、さすがにないからな!?」


 そして俺たちは学校から出た。

 まさか都市伝説級の隠しダンジョンに挑む直前に、こんな話が出ることになるとは。

 俺は初音とのデートプランを考えながら、ダンジョン攻略をしなければならないのか……。




 ※




 バスを乗り継ぎ南下していくと、田んぼの広がる土地が見えてきた。

 それ以外に見えるものは探偵事務所の電話番号や、見たこともない調味料が載っている看板、そして視界いっぱいに広がる地平線ぐらいだった。


「終点~終点~。このバスは車庫に入ります。お忘れ物のないよう、気を付けてお降りください」


 乗り継ぎこみで1時間は乗っていた、2時間おきにしかやってこないバスが去っていく。

 帰りは家族に心配をかけないよう、午後9時頃には帰りたい。

 今はまだ午後4時。

 知り合いとの勉強会、買い物、ゲーセン、図書館での勉強、読書……色々な言い訳を使ってきたが、そろそろ家族全員俺の嘘に気付いているだろう。

 もっともダンジョンに平日ももぐっているとは思っておらず、デートぐらいに考えてるだろう。

 明日はその嘘が事実になるのだが。


 ……考えると頭が痛くなる。

 さて、『渚ダンジョン』を探すとしよう。


 バス停から見えるのは広々とした海岸だ。

 夏になると花火やバーベキューが盛んになり人がやってくるのだが、今は時期が違うので閑散としている。

 てか誰もいない。


「本当にダンジョンあるのかよ」


 海風が心地よく肌をなでていく。

 波の音も耳に心地よく響く。

 加えて岩肌や海岸線沿いに広がる森林を見ると、穏やかな気持ちになるが、俺は何としてでもダンジョンを探さなければいけない。

 噂話の中にあった場所に関するヒントは、結局この2つしか見つからなかった。


『枝が顔に見える木がある。そこからダンジョンの入り口が見える』

『道なき道を歩いて積み石空間が出たら勝ち』


 とりあえず積み石空間って所か。

 道なき道はおそらく森林か何かだろう。

 だとすれば、森林のなかへと足を踏み入れるしかなさそうだ。

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