表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/38

ダンジョンボス ザアラム

 ドバイにあるダンジョンの上空は真っ赤に光っていた。

 その光は明るく、ドバイ特有の高層建築物を赤く照らしていたが、砂塵に隠れる太陽の光ではなかった。

 むしろ太陽の光は黒々とした煙に包まれ、完全に見えなくなっている。

 では、何が真っ赤な光を照らしていたか?


 それは魔物だった。

 ダンジョンの外に出た魔物。

 真っ赤に光ながら大量の煙を吐いていたので、その全容を見るまで時間はかかったが、強風が吹くことで、一瞬だけ魔物は人々の前に姿を現した。

 人々は一様に恐怖した。

 魔物慣れしている冒険者も同じく恐怖した。


 その大きさは積乱雲のように巨大で、縦に異様に長かった。

 そしてドバイのどこにいても目に入ってくるほどだった。

 だが人々が恐怖したのは、その大きさだけではなかった。

 その魔物には人のような顔があった。

 1つ1つが実際の人間の数十、あるいは数百倍ほどの大きさを持つ顔。

 それがどの角度から見ても存在した。


 その顔はどれも眉間に皺を寄せ、険しい顔をしている。

 瞳には虹彩も瞳孔もない。

 だが白目ではなかった。

 それは、その目こそ赤い光の光源だったからだ。


 空に浮かぶ巨体の魔物に対して、誰もなにもしなかった。いやできなかった。

 刺激を与えてはいけないと誰もが本能で感じていたからだ。

 だが、その魔物は動いた。


 魔物は口を開ける。

 そこから無数の腕が伸びてきた。

 その腕の一つ一つが人々に近づき、トン、と軽く触れた。

 まるで何かを触れて確かめるかのような、そんな優しい接触だった。

 そして触れられた人間はその感触に気付くこともなく、死んだ。


 魔物から出た腕は乗り物に乗る人々にも及んだ。

 腕は窓や壁をすり抜けて、乗り物を壊すことなく人々に触れる。

 電車や飛行機といった乗り物には、無数の腕が入り込んでいた。

 人が多いところには、それだけの腕がやってきた。


 運転手が命を失い、制御も失った乗り物が暴走する。

 まだ腕に命を奪われていなかった人々に、アクセルだけ踏まれ続ける車がやってくる。

 あるいは、建物のなかで身を潜めていた人には、コントロールを失った飛行機がやってきた。


 外に出てきたダンジョンボス、ザラアムはドバイの上空にとどまりながら、人の魂を今も食らい続けている。



 ※



「ザラアムは正体不明というわけではない。ドバイにある超高レベルダンジョン『ファナルダンジョン』のダンジョンボスとして知られてはいた。10年前、戦った人たちが、ダンジョンボスの部屋からネットを介して動画を送信していた。ただ、誰も倒せてはいない。こんな非情な攻撃のせいでね」


「で、この昼飯時に、財善寺は俺にこのドバイの惨状を見せてどうしたいんだよ?」


 昼飯時、なぜか俺はまたも財善寺に絡まれて、スマホで無理やり動画を見せられた。

 それも人がたくさん死ぬドバイの映像だ。

 なんで昼飯時に見なきゃいけないんだ。

 そもそもニュースでも見たし、ネットの動画でも何度も見た話だった。

 ザアラムの憶測についても、今さら財善寺の教えを乞う必要もないぐらい情報を収集したつもりだ。


 魔物が出てくるのは『地下街ダンジョン』に続き2度目。

 だが今回出てきたのは見たことのない魔物ではなく、ダンジョンボスだ。

 ダンジョンボスは誰も挑戦できないよう封印されている。

 いや、ボス自身が部屋の外に出ないよう、魔物は自分の場所から離れないという特性を理解していても、念のために封印もされている。

 だが、それでも出てきてしまった。


 誰かが封印を解いたのか、もしくは自らの意志で封印を破ったのか、それは分からない。

 そしてそんな魔物は異様に強く、どう考えても倒せるように見えない。

 不死スキルがあったとしても、今の俺では勝ち目がないだろう。


「明日、僕たちはこいつの討伐に行く。だから1週間ほど学校はお休みする」


「は……? 財善寺たちがこれと戦うのか?」


「僕たちは他の冒険者よりも強いみたいだから、戦わないっていう選択は取りたくなかったんだ。とはいえ、戦うのは僕たちだけじゃなくて、世界中の冒険者みんな集まってくるわけだけどね」


 財善寺たちは確かに強い。

 財善寺なんかは特にパワードスーツを着こなし、背中から生えた機械の腕2本を駆使した4刀流の使い手だ。

 だが、それでも空中に浮かぶ巨大なザアラムと戦うビジョンは浮かんでこない……。


「ノブレス・オブリージュだっけ。それってそこまでしなきゃいけないのか?」


「いや、そんな必要はないよ。強い者の責務はあっても、自由意志は尊重される。これはあくまで僕たちの志願」


「そうなのか。でもあんなやつ、勝算はあるのか?」


「ある。僕が見つけたわけじゃなくて、フランスの冒険者部隊が見つけた必勝法がある。過去の動画から弱点を見つけ出したんだ。ただこれには空を飛ぶ魔法か、もしくは上空からの高高度降下が必要になる。だからフランス軍のお世話になるかもしれない」


「勝てそうならいいか。まあ、死ぬなよ」


「うん、死なないよ」


 正直、俺はどうコメントしていいのかどうか分からなかった。


 フランス軍? 高高度降下?


 現実味があまりにもなさすぎる。

 そもそも、同じ冒険者とは思えない次元がある。


 だが俺は、強くなるのであれば、この財善寺ぐらいの強さを持ってみたい。

 いや、持たなけれならないのだろう。


「ところで立木直人っていう人が言っていた破局、とうとう来てしまったね」


 昼飯の時間が終わろうとしていたとき、去り際に財善寺は言った。

 破局。

 リバイブ使いの立木直人が言っていた、フロアボスから聞いたという話。

 ダンジョン王の降臨ともにやってくる、現象。


「まだ俺には実感湧かないけどな」


「ダンジョンボスが現れているというのに?」


「ああ、この土地が平和すぎるんだと思う。いや、魔物の騒動のことを思うと、全然平和じゃないはずなんだが、でも街の上空に巨大な魔物は浮かんでないから実感がない。悪いけど」


「考えすぎるとしんどいからね。それぐらいでいいと思うよ、彰良くん」


「そりゃどうも」


 俺は苦笑いを浮かべてみせた。

 なんか試されてる気がする。財善寺の言葉にチクチクと心に刺さる。


 とはいえ、俺のやることはだいたい決まっている。



 ※



「私が強くなりたくないのって言っておいてなんだけどさ、彰良くん、最近ちょっと根を詰め込みすぎじゃない? レベル、もう100どころか、120なんだね」


「平日も『不死』を使ってレベル上げしはじめたってだけで、別にしんどいこととかはないですよ」


「ホントに?」


「本当ですって」


 田中さんは俺の冒険者カードを見ながら言う。

 田中さんに逐一レベルアップ具合を報告しているわけではないが、確かに俺のレベルの上がりっぷりは他の人より圧倒的に早いと思う。


『リバイブ』の騒動があったときはレベル103だったが、2週間経った今でレベル120。

 恐怖耐性スキル付きの不死スキル使用のおかげで、次々と特攻みたいな攻撃でムチャができる。

 しかも人がいない場所を運よく見つけることができるので、堂々と不死スキルが使えている。


 まあ、死ぬのは痛いし気持ち悪いのは変わらないので、ダンジョン以外でそんな真似は相変わらずしない。する気もない。


「で、今日行くダンジョンは……『丘の上ダンジョン』? 随分前にソロでフロアボス倒してたよね。なんでまた? まさか、アイテム袋の時みたいにレアドロップ狙ってたりする? ぜーったいそんな運よく落とさないと思うよ」


 そこまでの強運はさすがにないと俺も思う。

 まあ、今の貯金500万……いや、あれからあらゆる戦利品を売って増やしたから600万円か。

 俺が求めている武具を買い揃えようとすると、600万円では足りない。

 まさか600万で足りないと感じる日が来てしまうとは思わなかった。

 金銭感覚が狂いそうだが、それでも資金調達は後回しだ。


「いやいや、そんなことじゃないですよ。そのフロアボスにもう一度会ってみたいなと思ったんです」


「へえ、それじゃどうして?」


「ちょっと話してみたいんです。『丘の上ダンジョン』のフロアボス、リビング・スタチューと」

この話数の話ではないんですが、2話ほど訂正をしました。

『ダンジョン王の復活』を『ダンジョン王の降臨』にしてます。1か所はサブタイです。

文字数的には計4文字の修正のみとなりますが、復活に沿った展開ではないため、それを期待していたら申し訳ないな……と思い、後書きにて修正を告知とさせていただきました。

なおこの言葉以外、本編は変わってません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レベル120! 財善寺くんの背中が見えてきましたね。 しかしダンジョンボスはそんなにケタ違いの存在なわけですか。そんなヤツが複数現れたらどうしましょう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ