一気にレベルアップ!
『エリートオーク討伐成功。経験値3万5千獲得。鮎川彰良のレベルが5から50に上がりました』
『攻撃魔法ファイアのレベルが1から10になりました』
『回復魔法リカバーのレベルが1から10になりました』
『スキル不死、カウンターのレベルが1から10になりました』
『攻撃魔法アイス、ウォーター、ウィンドを覚えました。アイス、ウォーター、ウィンドのレベルが1から10になりました』
『回復魔法デトックスを覚えました。デトックスのレベルが1から10になりました』
『補助魔法アクセルを覚えました。アクセルのレベルが1から10になりました』
『スキル恐怖耐性を覚えました。恐怖耐性のレベルが1から10になりました』
脳内に女性の声のアナウンスが流れてくる。
「すげえな、なんだこのステータスアップ」
何度も死にまくって、今まさにオークの血肉で体がベトベトでくさいというのに、俺は不快感より喜びが先に出てきた。
冷静に考えると吐き気がこみあげてもおかしくない所だが、その気配はまったくなかった。
スキル『恐怖耐性』が生きているのだろうか。
スキルレベルの最大値は50と聞くのでまだまだだが、それでも相当な効果はあるようだ。
体にしみついた臭さを気にしつつも、俺は座り込み休みながら、レベルのことや覚えた魔法やスキルのことを考えた。
まずは経験値3万5千。
いくらなんでも多すぎる。
この『朝井ダンジョン』のダンジョンランクは底辺のF。2層目となれば他の敵の経験値はせいぜい50まで。
やはり異常なのでこれは冒険者ギルドに報告しなければならないが、おかげで俺はレベル50になった。
そういえばレベル50は高レベルダンジョンをパーティーなど複数人で攻略するレベルだ。
少なくともソロダンジョンでレベルをちまちま上げる領域ではない。
だが、
「いきなりパーティー組めって言われてもな」
学校の授業で「二人組になりなさい」というのは苦手だ。
別にコミュ障とかそういうわけじゃないが、チームプレイというのがあまり好きじゃない。
だからこそ俺はソロ冒険者としてまったりレベル上げをしていたのだ。
ということで、しばらく高レベルなソロダンジョンに潜るか、ソロダンジョンの深層へ潜るかしなければならないが、それはそれで準備がいることになるだろう。
高校生の身分としては、家の近くに適切なダンジョンがあることを祈りたい。
「それにしても他のステータスはどうなったんだろうな……どれどれ。『ステータスオープン』」
そう言うと俺の目の前に、レベルアップで頼もしくなった俺のステータスが表示された。
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鮎川彰良
レベル:50
HP:8000/8000
MP:1500/1500
物理攻撃:2400
物理防御:1800
魔法攻撃:1500
魔法防御:1400
すばやさ:1000
異常耐性:1000
攻撃魔法:ファイア(レベル10)、アイス(レベル10)、ウォーター(レベル10)、ウィンド(レベル10)
補助魔法:アクセル(レベル10)
回復魔法:リカバー(レベル10)、デトックス(レベル10)
スキル ;不死(レベル10)、カウンター(レベル10)、恐怖耐性(レベル10)
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強い。
10倍どころじゃない強化だ。
自分のステータスなのかと疑ってしまうほどだ。
HPの最大値は99999、MPや攻撃の最大値は9999、レベルの最大値は999になると聞いている。
それほど強くなれば、自動車の衝突であってもかすり傷すらつかないかもしれない。
異常耐性なんかは最大値からはまだ遠いが1000もあると、多少の毒は体内で中和できてしまうだろう。
ちなみに回復魔法『デトックス』は毒といった状態異常を回復できる魔法だが、異常耐性の数値がこれだけ高いと、使うことはないのかもしれない。
「にしても魔法増えたなー。上手く使いこなせればいいが」
攻撃魔法の『ファイア』は火、『アイス』は氷、『ウォーター』は水、『ウィンド』は触れると切れる鋭い風が放たれる。
レベルが上がったことで攻撃範囲は広がっただろう。
ただ俺はどちらかというと魔法攻撃より物理攻撃の方が合ってる体質なので、魔法を得意とする人たちのように活躍することはないのかもしれない。
物理が効きにくい相手に重宝する予感はあるが。
だが補助魔法の『アクセル』や回復魔法の『リカバー』は活躍しそうだ。
『リカバー』は傷の即時手当、『アクセル』は行動の一時的な加速効果をもたらすと聞く。
これらの中衛、後衛魔法はソロの俺にとって、間違いなく重宝するだろう。
いやパーティーでも活躍する素養はあるはずだ。
これで戦術の幅が広がった。
が、使いこなせるかどうか、実戦で試していかないとわからなさそうだ。
ただ、やはり冒険の幅を広げるスキルとなると『不死』だろう。
聞いたこともないレアスキル。
絶対に死なない、なんていうとんでもないチート効果。
そのうえ、今回レベルが上がったことで蘇生スピードが早まったはずだ。
前はオークとの戦闘を思い出すと、きっと5分とかその程度だ。
この蘇生間隔がどこまで縮んだのか検証してみたい気はする。
「『恐怖耐性』はあるけど、死ぬことや痛みに恐怖がないかっていうと、そうでもないからなー」
この『不死』を使えば冒険の幅はさらに広がるが、今は保留だ。
ステータスの考察でもして体を休めた俺は、さっそく戦利品の回収に向かった。
エリートオークの大きな死体。
そこからめぼしい物だけを持って帰る。
奴が使っていた斧といった道具はもちろん、腰に巻かれていたアクセサリーも拾う。
アクセサリーはキラキラとして、3センチほどの大きさがある。
いかにも値打ちもの、といった感じがする。
鑑定スキルがあれば詳しい使い方も分かるのだろうが、俺はまだ覚えていない。
鑑定スキルなんて便利なものをいつ覚えるのか、今後覚えることがあるのか、一切分からない。
知名度は高いがそこそこのレアスキルでもあるので、『不死』がすでにある以上、覚えてない気もする。
もし覚えることがあれば、それは運がいいか、なんかの導きでもあると思いたい。
あとは魔物が必ずもつ魔石を回収した。
拳大ほどの大きさの魔石だ。
これは生きている間であれば体内の心臓近くにあり、死ぬと同時に体外へと排出される。
そしてそんな魔石は大きさと強さは比例する。
このエリートオークの持っていた魔石は拳大ほどなので、とても強いことがわかる。
俺がいつも拾う魔石は指先でつまめるほどの大きさしかない。
……さて。
体液の悪臭はひどいから風呂に入りたいし、戦利品が思いのほか増えてしまったのでさっさとずらかることにする。
戦利品はすべてアイテム入れ用のズタ袋に入れて肩にかける。重い。
容量無限のアイテム袋があれば重たさからは解放されるのだが、レアアイテムを持っていないのは仕方ない。
道中、ぷるんぷるんと震えるスライムが俺の近くにやってきたが、すぐさま逃げていった。
ゴブリンも「ぎゃっ!」とか叫んで逃げていった。
レベル差を感じているのかもしれない。
うーむ、彼らを倒した日々が遠い過去のように思えてきた。
出口に近づくと死体があった。
オークに殺され、上半身と下半身が別れてしまった、同じ年齢ぐらいの男子の死体だ。
再会だ。
「足、ひっかけたこと、謝ってなかったな。すまん。あと、仇は取った。遺品整理はギルドの連中に任せるから、今度こそ安心して眠ってくれ」
手を合わせ、祈る。
安らかにお眠りください。
「さて、出るか」
俺は久しぶりに日の光を浴びる。
いや、実際には2時間ぐらいしか経ってなかったと思うが、随分と久しぶりの光だった。
ダンジョンランクF『朝井ダンジョン』から俺は出た。
今日はもう1度更新したいと思います。