3人でダンジョン攻略!(中編)
初音はともかく環奈は『朝井ダンジョン』ぐらいであれば一人でも戦える力を持っているので、俺は途中から少し戦いぶりを静観するようにした。
「えいっ」
ぽこん、という軽快な音とともにスライムは環奈に倒されていく。
魔法の杖は木製だから柔らかそうな打撃音になっているがダメージは強力そうだ。
強いのは環奈の『打撃力アップ』スキルの効果が出ているのだろう。
「環奈、他に攻撃方法ってないのか?」
「残念ながらないですよ。攻撃魔法の適性はどうもなさそうです。しょんぼり」
まあ単独で戦えるのは初心者向けダンジョンぐらいで、あとはパーティーを組まないと難しそうだ。
これは本人の努力なんかではなく、適性のせいだし、回復魔法が得意な冒険者となれば本当に仕方がない。
ただパーティーで回復魔法は必須なので、これはデメリットじゃない。
俺が回復魔法を使うことができない時は、環奈に頼るといった戦法が取れるだろう。
そうこうしているうちに敵の死体はどんどんと山積みになっていった。
血だらけのゴブリンが白目をむいて何十と重なり倒れている。
「あの先輩、そろそろ移動しません?」
環奈は鼻をおさえ、不快そうな顔をしながら言う。
俺も同意見だった。
「そうだな。初音のレベル次第ではダンジョン移動をしてもいいかもしれないな。初音、いま何レベルだ?」
初音を見る。
意外と退屈そうにしているわけじゃなく、真剣に俺たちの戦いを見てくれていた。
心のなかで応援もしてくれてたんだろう。
「あ……えーっと、さっきレベル10になったよ。もう移動するの?」
「ああ、初音のレベル上がったら移動しようと思ったんだ。それにゴブリンの臭いがキツすぎるしな。初音は吐き気とか、そういうの大丈夫か?」
「え、別に? ゴブリンだって生き物だし死んだら死臭ぐらいするよね。臭くないかどうかって言ったら臭いけど、それ気にしてたら冒険ってできなくない?」
「まあ、その通りだが」
「それに彰良くん、ゴブリンだって死にたくて死んだわけじゃないんだから、殺しておいて勝手に臭いっていうのはちょっと失礼じゃない?」
「お……うん、まあそうだな」
初音の言葉はモヤモヤとさせられるが、確かにその通りかもしれない。
今まで考えたことはなかったが、俺たち冒険者は魔物の命をいただいている。
いただきます、ごちそうさま、みたいな気持ちや礼儀があるべきかもしれない。
「火葬ぐらいしてやるか」
せめて出来ることとして、俺はゴブリンの死体に『ファイア』を放った。
盛大に燃えていく。
こんなものでいいか。
俺は環奈たちを見ながら言った。
「そういえばダンジョンの移動なんだが、脱出用のアイテムを買ったからみんなで使おうと思うんだ。そのあと田中さんの所にいって戦利品の鑑定をしてもらったら、次のダンジョンに潜る。今日はそんな所でいいか?」
コクリとうなずく環奈が言う。
「忙しそうな日ですけど、まだ1時間ぐらいしか経ってないですし、体力もまだまだあります。それにしても鮎川先輩、脱出用アイテムって高くなかったですか?」
「ああ、1個5千円。1回限りだ」
「ひえっ、使い切りで5千円ですか、歩いて帰りましょうよ。1万5千円あればすごく美味しいレストランで満腹になるまで食べれますよ」
「それは確かにそうなんだが、よく考えてみろよ環奈。ダンジョン最下層から外までは30分以上かかる。それが0分だ。次のダンジョンで余った30分を使ってより多くの魔物を倒す。そこで戦利品を獲得する。経験値はもちろん、戦利品で2万円ぐらい稼げると思う。だとすればこの1万5千円はむしろ得だと思わないか?」
「なるほど……なるほど? まあ先輩がそう言うならお任せしますよ」
あ、思考放棄したな。
まあいい。
戦利品で2万円いくかどうかは運次第だが、俺はそれほど損じゃないと思ってる。
そもそも早く初音のレベルを上げるためには、これぐらいしなければいけないだろう。
俺はアイテム『リープの羽』を使ってダンジョンから瞬時に脱出した。
目の前に広がっていた火葬されるゴブリンたちは、目の前から消えた。
ちなみに火葬されたゴブリンたちだが、そのまま骨が半永久的に残るのではなく、これらはダンジョンに吸収され、跡形もなく消える。
そして次のゴブリンの誕生に繋がる。
冒険者たちがいくら狩っても減らない理由はこのメカニズムにあるし、俺はそのことを知っているから死んだゴブリンに失礼とも何とも今まで考えなかった。
だがまあ、生きていること、痛みがあることには変わりないから、ここは初音の感覚が正しいと思う。
ちなみに『朝井ダンジョン』の戦利品は5千円程度だった。
予想以上に少なかったが、まあ次のダンジョンで稼げばいいかな、などと思う。
※
次のダンジョンはお馴染みの『丘の上ダンジョン』にしたかったが、それはできなかった。
1層目の推奨レベルがソロだと40と高いため、10レベルの初音では冒険者ギルドから許可が下りない。
そのためレベル100にもなった俺がやることとしてはおかしいが、ここにきて新しいダンジョンに挑戦することとなった。
ダンジョンランクは『朝井ダンジョン』と同じくFだが、推奨レベルはソロ10~30に収まっている『タワーダンジョン』。
ここに挑戦する。
場所は田中さんのいる冒険者ギルドから歩いて20分ほどと少し遠いが、電車を使うほど遠くなくて助かった。
100レベルの俺を筆頭に、レベル18になった環奈とレベル10の初音、3人パーティーでの『タワーダンジョン』攻略だ。
※
「わあ、こんなダンジョンあるんですね」
そのビジュアルは圧巻だった。
それほど注視することはなかったが、これまでのダンジョンも1つ1つ個性があった。
冒険者登録をしつつ写真だけ撮る人も多いが、こういう景色を収めたいのだろう。
この『タワーダンジョン』はその名の通り、塔がある。
周囲は草が生い茂る崖に覆われているので、この塔はまるでボトルシップのような存在感を放っている。
その塔はかなり高い。
塔の最上層は天井からの光と霧の反射によってかすんで見えないが、低くもないだろう。
階層自体は20層と聞いているので、各フロアの天井が高いことが想像できた。
今、俺たちがいるのは1層目の入り口だ。
もちろんダンジョンの中と外との空間が歪み切っていることは、言うまでもない。
そうでなければダンジョンにこのようなタワーは立てない。
外に飛び出してしまう。
かつて冒険した『丘の上ダンジョン』の平原も同じだ。
あそこに昇る太陽は太陽なのではない、解明なんてされていない別の光だ。
「とりあえずぱぱっと中の魔物、倒してレベル上げるぞ」
1層目。
別のパーティーが戦っているので、それの邪魔にならないよう魔物を探す。
とはいってもフロアは想像以上に広く、しかも壁すらないので、魔物は何匹も視界に入ってきた。
定番のゴブリン、そして骸骨戦士のワイトだ。
「俺が適当に敵を倒していくから、二人はついてきてくれ。もう少し上層を狩場にしよう」
初音と環奈はコクリとうなずいた。
俺はとりあえず『ファイア』を唱えた。
頭より大きな火球が手のひらに生まれる。
レベル20の『ファイア』になったおかげか、火球の大きさは以前より大きい。
バスケットボールぐらいには、もう大きくなってる。
成長の証だ。
「ぎゃぎゃああ!」
ワイトは叫ぶことなく自身を構成する骨が崩れていく。
ゴブリンは燃えて灰になった。
焼け焦げるのではなく、灰になるということは、明らかな強さを感じる。
「さ、上に行くぞ」
そうして俺たちは大きな塔の中のフロアを歩き続け、2層、3層、4層へと上がっていった。
敵はだんだん強くなっていくはずだが、俺はどれも一撃で倒せた。
……自慢ではなく、それは事実そうとしか言えなかった。
『アイス』『ウォーター』『ウィンド』……久しぶりに放った魔法は敵を一撃で倒していった。
そんな雑なレベル上げをしていくうちに、俺たちは18層目へとたどり着く。
「彰良くん、ずっと戦ってばかりだけど疲れない? てかMP底つかない?」
「全然。疲れはないし、MPは4分の1も消費してないぞ」
「すごいね、レベル75」
まあレベル100なんだけどな。
「ところで初音はいま何レベルだ?」
「いまさっき20になったよ。さっきいたダンジョンよりも経験値めちゃくちゃもらえるんだね」
「まあ推奨レベル全然違うからな。ところで初音、そろそろ戦ってみるか?」
「え? 戦うって、ここ推奨レベルソロで30レベルとかなかった? 攻撃全然通じないんじゃ……」
「魔法だけでいいし、ダメージは入らなくてもいい。肩慣らしって考えてくれればいいよ。もちろん相手が狙ってきたら俺が全部受け止める」
「わ、わかった。そこまで彰良くんが言うなら、なんかやってみるよ」
「わ、私もサポートしたいです!」
と言ってきたのは環奈だった。
「もちろん環奈にもお願いしたい。レベルはいくらぐらいになった?」
「レベル26ですね。私も魔法で先輩の手助けしたいです……と言っておいてなんですが、先輩ってダメージ全然受けてないですよね」
「まあさっきから遠距離でしか攻撃してないからな。回復魔法を受けても無意味だとは思う。初音を守ってやってくれ」
「わかりました。私なりに頑張ってみますね」
まあさっきのダンジョンで大量にゴブリンを倒してくれてたし、ちょうどいい休みにはなるんじゃないだろうか。
それに参戦しなくてもきっちりと経験値は入る。
何も問題はないからな、と俺はあとでフォローを入れた。
次の後編でこのエピソード群はおわりです。




