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財善寺響真たちの戦い

回想回っぽい感じです。この戦いは1話でおわります。

 財善寺響真たちが『地下街ダンジョン』の魔物を倒した一部始終の様子は動画としてアップロードされていた。

 俺はその動画をたまたま見つけた。

 いや、わざわざ探した。

 見なければならないと思ったからだ。



 ※


 財善寺響真たちはすぐさま『地下街ダンジョン』へと向かった。

 フードコートのそばにある階段で地下3階にまで降りていくと、すぐ近くに『地下街ダンジョン』がある。

 お店が立ち並ぶなか、1か所だけダンジョンに続く穴がある。

 そこが『地下街ダンジョン』の入り口だった。

 そんな入り口は地獄になっている。

 事切れた人々が倒れ、近くにいる冒険者たちは武器を帯刀しつつも近づけずにいた。

 目の前にいる魔物の異様な格好に怯えているように見えた。


 体中が溶けかかっており、内臓だって見えている魔物。

 だが死にかけているわけではなく、しっかり2本の脚で立っている。

 その様子からゾンビだろうと推測できたが、いずれにせよエリートオークのような未確認の魔物ではあった。


 そして、魔物が入り口にまでやってくることは異例だった。


「ダンジョン王は降臨する! 人間ども、今からエサとなるため震えるがいい、ハハハッ!」


 ダンジョン王とは何のことか。

 今になっても分からない。

 もちろんダンジョンボスであれば分かる。

 ダンジョンのどこかにいる、フロアボスよりはるかに強い魔物の総称。

 危険であること、また倒すとダンジョンが消えてしまうことから、人工的に封印されている。

 ダンジョンボスの親玉だという推測はあがっているが、それ以上の想像は誰もできていない。


「随分と興奮しているようだね」


 財善寺がゾンビの魔物にも、そして視界に入る死体にも動揺せずに言う。

 魔物は財善寺たちをジッと濁った目で見つめて言った。


「そりゃ興奮するさ! 終末、崩壊、カオス……それはもう目の前までやってきてるのだからな!」


「へえ、それは具体的にいつ頃になるのかな」


「……お前、なめてるのか?」


「普通に気になるんだよ。魔物と人間の時間感覚は違うと思うから、明日だったら嫌だなって」


「嫌だなって、それだけかよ!」


「うん、それだけ。それ以上の、例えば1年とかあれば、人間は何とでも対策できると思うからさ」


 ゾンビの魔物の青筋が浮き立つ。


「……ダンジョン王を倒せるとでも思ってるのか?」


「倒せると思ってるよ。というか戦ってもいないのに、倒せないとか僕は考えないかな?」


「なら俺がここでてめえと、お友達全員殺してやるよ!」


 ゾンビの魔物は溶けかけている腕、脚、胸から武器を出した。

 現れたのは体液でベトベトになったボウガン、大砲、そして短剣の数々だった。

 そしてノーモーションで両腕からの矢が放たれる。

 矢は財善寺の眉間に、飛んだ。

 だが、


「おっと、すごいな。武器人間ならぬ武器魔物って感じじゃないか」


 財善寺は1本の剣を手放し、あいた手の指先で矢を2本つまみ、そして折った。


「つ、つまんだ、だと?」


「ほら、鎧とか大剣とかで重いからさ、避けるより体力いらないんだ。で、君とダンジョン王ってどれだけの戦力差があるのかな?」


 先ほどまで威勢の良かったゾンビは、少しだけダンジョンのなかへと後ずさりする。

 それを財善寺は黙って、そして余裕の笑みを浮かべながら見ていた。


「なあ響真? お前、こいつ倒さないのか?」


 そう言ったのは阿川吉時あがわよしときだった。


「もちろん倒すよ。逃がすわけがない」


「でもお前、こいつで遊ぼうとしてるだろ?」


「そんなことないさ」


「じゃあさっさとその刀とか大剣4本で倒せよ! あれか? また敵の技を観察したいとか、そういう欲求が現れてるのか!?」


 阿川の声は動画越しでもうるさい。


「うーん、そこは否定できないな」


「その性格、いや能力か? いい加減パーティー組んでるときはやめろ! っていうわけで、俺がこいつを倒す! いま、倒す! 異論はないな?」


「吉時くんがそう言うなら、譲る――」


 財善寺と阿川が喋っている最中だった。

 敵から放たれた矢、鉄球、短剣、石、針——あらゆるものが財善寺のパーティーを襲おうとした。


「おや?」


 財善寺は笑みを浮かべながら、両手でもった2本の剣と、背中から生えた腕2本を駆使し、ほとんどの攻撃を斬り落とした。


 それでも残った投擲物は阿川がすべてつかんだ。

 両手でつかんでやっとの大きさの鉄球は、すべて指がめりこむ形でつかまれていた。

 そんな阿川の両腕に装着されていたのは、黒く光るガントレットだった。


「つ、つかんだだと!?」


「驚愕の類の語彙が少ないなあ、ゾンビさんよぉ? ま、学校出てないからしゃーないか。俺のガントレットは日本最強のガントレット『極拳』!! つかめないものはこの世に存在しないんだよ!」


 そう言うと阿川は踏み込み、飛んだ。

 飛んだといっても縦にではなく、正面。

 ゾンビとの距離を一気につめ、瞬時に首をつかんだ。


「おごっ!?」


 首をつかまれ、宙へと持ち上げられたゾンビは足をジタバタと揺らしている。


「ゾンビのクセに苦しいのかよ。まあ、不意打ちの罰はちゃんと受けるべきだぜ? おらよっ!」


 ガントレットの指先が光る、と同時に爆ぜた。

 その爆発音と、ゾンビの悲鳴が地下街に響く。

 ガントレットはそれからも光り続けた。

 阿川が、おりゃ、そりゃ、うりゃ、と声を上げるたびにガントレットは光った。

 そして、


「ありゃ、ゾンビ消えたわ。どこいった? まさか逃げたか!?」


「よしとき~……お前、ボコボコバカバカ爆破させすぎ。うっせえよ」


 と、口を開いたのはダルそうに戦いを見ていた藤寺恭二だった。


「それより恭二、ゾンビは?」


「爆発四散したよ。その辺の肉塊がそうなんじゃない? 知らないけど」


「おおっ、つまり極拳ガントレットパワーが凄まじすぎたということか! 魔物があの程度で消し炭になるとは思わなかった!」


「いや、なるでしょ、ふつー。魔物っつっても生き物なわけだし、ゾンビって言っても俺らが勝手に言っただけで本当にゾンビじゃないだろうし」


 藤寺はアクビをしながら言った。


「で、うちら女子組の出番ナッシングだったんだけど、響真なにかした方がいい?」


 そう言ったのは和田朱音だった。

 他の女子組である富田恵は隣でうんうんとうなずいている。

 乙矢芽衣はケガした人たちを大勢回復させていたためか、首を縦には振らない。


「とりあえず魔物は倒したから救護。ノブレス・オブリージュ。これは守らなければいけない義務だからね」


「りょ。にしても響真なんかその言葉好きだねー」


「大切な言葉だからね」


 ダルそうに答える朱音だったが、周囲のケガ人を見つけるやいなや、即座に解毒薬を施した。

 ゾンビの魔物は単純な物理的ダメージだけでなく、状態異常も引き起こしていたらしい。



 ※


 ――財善寺たちの活躍を収めた動画はそれで終わりだった。

 画面は少しブレていたが、輪郭ははっきりと見え、しっかりと財善寺たちや魔物の言葉も拾っていた。


 俺はこうして動画を見ることしかできないのだろうか?


 無力感が俺を攻める。

 別に責任とかは背負う必要もないものだと思いたいが。



 しばらくスマホの画面を見続けていると、チェインのポップが上がってきた。

 グループチャットではなく、俺個人宛てのものだった。

 初音からだ。


『元気―?』


『今日、学校で会っただろ』


『じゃあ元気じゃなさそうだね?』


『そうでもないが』


『ううん、たぶん彰良くんは元気のなさを自覚してないよ』


『他人に自分のメンタルがどうとか言われたくないんだが』


 とは言い返すものの、指摘されるまでもなく元気がないことは自覚していた。

 瞼を閉じれば、あの光景を思い出す。

 まだ忘れることができていない。


『その通りだよね。でも心配しちゃったんだ』


『心配してくれてありがとう。でも俺は自分で何とかするよ』


『そう、彰良くんは彰良くんで何とかしなきゃいけない。だからアドバイス! 彰良くんがもっともっと強くなればいいと思うよ』


『なんだそのアドバイス。そりゃ財善寺ぐらい強くなれば、もっと何とかなったと俺だって思うよ』


『ううん。もっと。響真くんよりもっと強く。はるかに強くなればいいんだよ。そうすれば彰良くんがこれから見る悲劇をすべてなくして、たくさんの人を救うことができるはずだよ。だから落ち込んでちゃダメなんだよ』


 なんかイラっとする。

 初音にしては、ぐいぐいと俺の触れて欲しくない所に迫ってくる。

 こんな奴だったか?


『財善寺より強くって、難しいだろ。俺がどれだけ苦労してレベル75になったと思ってるんだよ』


『ゴメン、それは知らない。でも彰良くんには絶対にその才能がある。私、ずっと思ってるんだ。彰良くんには響真くんにはない隠された才能があって、いずれ響真くんを超えるすごい冒険者になれるって。……あ、これ響真くんには内緒ね。響真くんを落ち込ませたくないから』


『あいつ、そんなこと言われてもいちいち落ち込まないだろう。それよりなんか、今日の初音、変だぞ。俺の才能のこととかさ』


『でも才能は確実にあるでしょ?』


『才能はこれから出るかどうかって感じだろう。あ、それも、もしかして得意の勘ってやつか?』


『そう。勘』


『勘かよ。なんでもかんでも勘って言う癖、やめた方がいいんじゃないか? ……やっぱり初音も疲れてるだろ』


 既読。そして少しの間。返答なし。

 仕方なく俺の方から返事を書いた。


『まあ初音の言ってることはよくわからないけど、心配してくれてありがとう。才能の有無とか救うかどうかもともかくとして、まあこれまで通り強くなってみせるよ』


 既読。

 そしていいね。

 会話の終了を意味するスタンプが押された。



 それにしても初音のアドバイス、なんか心がざわつく。

 ようは強くなれる才能があるから強くなろう、そうすれば気になってた救済もできるよ、ということだ。


 才能については自分で言うのもなんだが認める。

 不死スキル、恐怖耐性スキル、鑑定スキル……どれもこれも希少価値のあるもので、ここまで揃っている人間はそういないだろう。

 きっとレベルが上がればもっと強くなれる。

 それは人の役に立つ。

 初音の言い方には余計なものがあり、モヤモヤとさせられたが、事実だ。


 強くならないと、強く。

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― 新着の感想 ―
[一言] 財善寺くんはヒーロー然としてますが、この人もなんかこう、鼻につくところありますね。
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