不死スキルの大勝利!
数十分だけ表示されたタイトル・あらすじから少し変えました。
脳内で流れたアナウンスによると俺は不死のスキルを獲得したらしい。
いや、クソスキル『???????』が死んで変化しただけだったか。
それにしても驚いたことに、俺の体は完全に回復しきっている。
両腕はちゃんとついている。
顔に傷もまったくない。
目で見えるし、耳で音は効けるし、口で呼吸ができる。
「不死スキル、一体なんなんだよ」
俺はステータスオープンをして、それからスキル『不死』を確認した。
————————————————————————————
スキル:不死(レベル1)
→絶対に死なない。
→蘇生後は全回復状態になる
→レベルが上がると蘇生スピードは早くなる
————————————————————————————
なるほど、いや、マジか。
すげー。
絶対に死なないって、ざっくりすごいことが書いてある。
これってもしかして、噂に聞くチートスキルというやつじゃないか?
とはいっても、この不死スキルなんていうものを俺は聞いたことがないが。
「すげー……すごすぎて俺がチートスキル持ちっていう実感が湧かねえ」
俺はゴツゴツした岩に座りこんで自分の手のひらを見る。
手のひらに何か書いてあるわけじゃないが、なんだか力を感じる気がする。
「不死スキル……絶対に死なないスキル、か。でも死にたくはないな。痛くならないわけじゃないし。ソロダンジョンまったり攻略勢として、使うことは今後ないだろう」
俺は強敵のオークと遭遇したが、そもそも命がけの冒険をするような人間じゃない。
ソロダンジョンでまったりとレベルを上げて、戦利品で小遣いを稼げればいいとしか考えてない。
そもそも死ぬこと前提の戦い方なんて思い浮かばない。
宝の持ち腐れ感はハンパないが、仕方がない。
「じゃあ生き返ったことだし、今日はスキル覚醒が収穫ってことで家に帰るか」
そう思って立ち上がったときだった。
手のひらにベッタリと血がついた。
斬られたときにたくさん出た、俺の血だ。
気持ちわるっ。
……と思うと同時に、俺はスキル・インフォメーションの『蘇生スピードが早くなる』という一文を思い出す。
そういえば俺が死んでからどれだけ時間が経ったのだろう。
血がまだ乾ききっていないということは、それほど時間は経過していないということだ。
つまり、
「まだオークは近くにいるかもしれない、ってことか」
もう死ぬことはないと分かっていても俺はあのオークと二度と戦いたくなかった。
不死だろうが何だろうが、嫌なものは嫌だ。
そもそも死ぬまでには痛みが必ず伴う。
予防接種の針すら嫌いな俺がそんな痛みに耐えられるわけない。
忍び足。
そんなスキルを俺は持っていないが、そんなスキルを持っている気持ちになってダンジョンの入り口を目指した。
オークとは出くわさなかった。
基本、魔物は自分の陣地であるダンジョンから出ることはないので、俺を殺して戻っていったのだろう。
ホッとする。
あのオークが誰かを襲うかもしれないと思うと、少しだけ気分は暗くなる。
でもそれは弱い俺がどうにかできる問題ではない。
俺にできるとすれば、冒険者ギルドにこの事態を伝えて、強い冒険者やダンジョン管理人を派遣してもらうことだけだ。
俺にはちゃんと役割がある。
弱いなりの役割が。
「きゃあああああ!」
ダンジョン内に悲鳴がこだました。
若そうな女性の悲鳴だ。
俺の心臓は早鐘を打ちはじめる。
悪い予感しかしない。
「誰か……助けて……誰かああああああ!」
悲鳴が断続的に聞こえる。
草木がほとんどない岩だらけの洞窟だからか、その声は反響して耳に入ってくる。
逃げているのかもしれない。
さっきの俺と同じように、走って逃げているのだろう。
声は小さくなる、ということは、入り口とは逆の方向だ。
どうする、俺?
……と考えたときに、ふと死体が目に入ってきた。
体が半分になった、同じぐらいの年齢の男の死体。
彼はオークにやられて、生き返らなかった。
俺との違いはチートスキル『不死』を持っているかどうか、ぐらいだ。
彼のような死を、看過すべきだろうか。
「よくないよな、そういうの。寝ざめが悪そうだ」
俺は死体の彼に向けて言った。
「そんじゃあ、まあ、勝てるかどうかわからないけど、俺、全力でやってくるよ」
そして俺は駆けだす。
片手剣をもって、ダンジョンの入り口とは逆、悲鳴の聞こえた方へ。
※
忍び足なんてしている余裕はなかったので、音を立てて俺は走り続けた。
そしてすぐに奴の姿が見えた。
両手に斧を持つ、俺より倍ぐらい身長のある規格外すぎるオークだ。
そしてオークが追いかけるのは魔法の杖を持つ少女。
これまた同じ年齢かもしれない。
俺の高校とは違う学校の制服を着ている。
ひじやひざにプロテクターがつけてあるから、冒険者らしい雰囲気になっているが、いかにも初心者といった感じの安い装備だ。スカートから素足が見える。
まあ俺も同じ装備になっているのだが、そんなことを気にしている場合じゃない。
それだけ防御力が低いと、食らうダメージも大きく、死から逃れられない。
とりあえず少女に気を取られたオークはこちらに気付いていない。
チャンスだ。
「よし、首に一閃……一撃で仕留める!」
片手で振り回せるブロードソードを握りしめ、俺はオークに突進していく。
狙うは首!
ブロードソードを勢いよく振り上げたその先にはオークの首があった。
その切っ先が、オークの首の皮膚に触れた。
突き刺され!
「ア……アア?」
オークは振り返り、俺を見た。
痛みを感じたのだろう。
ただ、切っ先はほとんど埋まっていない。血も出ていない。
オークの皮膚は思った以上に厚かった。
だが、倒せずとも目標は一応達成していた。
「お前、今のうちに逃げろ!」
オークは少女のことをもう見ていない。
見ているのは俺だけだ。
「え、でも、あなたは……」
心配する目つきで少女は俺のことを見る。
すかさず首を振った。
「俺のことは心配しなくていい! 強いし、チートスキル持ってるから!」
「このオーク、強いですよ」
「だから特大のスキルでこいつを一掃するんだ。巻き添えなんて食らいたくないだろ?」
少女はコクリとしぶしぶうなずくと「どうがご無事で」と言って、俺のそばを通りすぎて去った。
通りすぎるとき一瞬だけ近くで見えた少女の顔は、涙で目を赤く腫らしていたが可愛かった。
涙で目を赤く腫らして可愛いだなんて、なんて下品な考えなんだと思ってしまう。
だが助かったから良いとも思う。
さて。
特大スキルなんてない。虚勢を張っただけだ。
そして俺はもう逃げられない。
大見得を切ったのは良かったが、オークは待ってくれない。
若干動きが止まったのは、殺したはずの相手が復活したことに戸惑いを感じたからだろう。
だがそれは少女を逃がす時間にすべて使った。
オークはもう斧を振り下ろそうとしている。
対する俺は、オークの皮膚に一応刺さった切っ先を押し込めるのみ。
攻撃向けのスキル『カウンターLv1』を発動する余裕はなし。
うん、これは勝てる気がしない。
『不死スキル発動』
今度はうつぶせになって倒れていた。
痛い、死ぬの怖い、とうめきたくなるが、それは死ぬ直前の痛みや恐怖でしかなく、今はもうない。
そのことを冷静に考え呼吸を整えてから、俺はチラリと顔を横に向けた。
するとそこには、オークの足があった。
しかもめちゃくちゃ近かった。
拳一つ分の距離しかない。
蘇生までのタイムラグはそれほどないらしい。
数十分とかであればオークが去っていることも考えられたが、どうも数分とかそのレベルだ。
うつぶせになっていることが功を奏した。
俺は腰から短剣、それも毒が塗りたくられているポイズンダガーを鞘から抜いて、オークの足に刺した。
今度は近い分、思いっきり刃を刺しこむ。
ぶ厚い分、力はいるが、どんどんと埋まっていく。
そしてエグいぐらいに、血が出る。
「やったぜ、ざまあみろ!!」
別に勝ったわけじゃなかったが、俺は叫んだ。
案の定、痛みを感じたオークは雄たけびを上げ、俺の顔を踏みつぶした。
それにしても顔。
踏みつぶされるまでは、めちゃくちゃいた――
『不死スキル発動』
ダンジョンの壁にもたれかかっていた。
死ぬのは慣れない。
呼吸が荒くなる。
だが、俺は戦っている最中だということを思い出す。
壁にもたれかかっていたのは、どうやら俺(死体)を蹴ったせいらしい。
また生き返ると面倒だから蹴ったのだろうか……不快すぎる。
ダンジョン内の平和や弔い以前に、殺してやりたい。
だがまたもオークは俺の蘇生に気付いていない。
絶対に死なないなんて思っていないんだろう。
いや、常識的な生き物がその考えに至るわけがないのだろう。
ならここは、その常識の思考を利用させてもらうことにする。
手元にまだあったブロードソードをしっかりと持ち、突撃。
そして一番狙いやすいオークのふとももめがけて突き刺した。
「グ、グオオオオオオオッ!!」
「分厚い皮膚だが、さすがに痛いか、オークさんよ!!!」
一見、優勢のように思えた。
が、オークの斧は振り降ろされ――
『不死スキル発動』
「ぶはっ……死ぬのってやっぱ気持ちわるいな。だが復活だ! もう一度お前に攻撃をしてやる!」
「グゴ!?」
さすがのオークも生き返ったことに驚いたらしい。
俺はさっきよりも『死』に慣れてきたからか、蘇生と同時に動けるようになっていた。
『不死スキル発動』
「……はあはあ、なんで俺は壁にもたれかかってるんだ? ああ、そうか。生きかえって気付かれて、すぐに殺されたんだ。声上げたからしょうがないか。そしてオーク、お前俺の死体をまたも蹴ったな? 悪趣味にもほどがあるぞ」
効率よく戦うにはどうすればいいか。
死なないよう戦うにはどうすればいいか。
普通なら考えそうなことだが、俺はもう考えていなかった。
一度死ぬまでに、どれだけ攻撃が入るか。それだけを考える。
踏み込んで、地面を蹴って、オークのふとももを斬りこんだ。
何度も攻撃しただけあって、出血はもう目で見える。
オークの足取りも怪しくなっていく。
いや、ひざをついた。
「よし、これで勝機は見えて――」
斧の刃の表面が迫る。
……これ、斬られるより痛いんじゃないか?
『不死スキル発動』
折れた歯が気になった。
斧の広い表面で顔面をつぶされたのだ。歯どころの問題じゃない。
だがそんな歯も回復しているし、今は気にしている場合じゃなかった。
生き返ることを想定していたのか、オークは口を開けて俺を待っていた。
「なっ……!」
バリ、という音とともに、俺の右腕が消える。
こいつなりに頭を使ったんだと思うが、ムチャクチャだ。
そして左腕も消える。
痛みで頭がだんだん働かなくなる。
死ぬことはもうないとはいえ、死の恐怖だけはしっかり襲いかかってきた。
そしてオークの大きな口は、無抵抗な俺の頭にかぶりついた。
真っ暗だ。
まあ、口の中だから当たり前――
『不死スキル発動』
……不死スキル発動?
だが、暗いままだ。
死後の世界ってわけじゃないよな……?
ただ少しして、俺はその居場所を察する。
臭さ、熱さ、狭さ、暗さ。
あらゆる不快が、この場所が何なのか俺に教えてくれた。
オークの胃だ。
俺は食べられた。
だから胃のなかで蘇生したんだ。
オークなりに考えたのだろう。
胃の栄養分にしてしまえばもう復活はしない、と。
もしくは胃のなかで動きも封じてしまうとか。
どれだけ胃酸や臓器に自信があったんだろうか。
やれやれ。
俺は腰に手をあて、武器の所在をイチかバチかで確認する。
すると普通にある。
驚きだが、これを利用する手はなかった。
これは逆転の一手だ。
厚い皮膚を斬るより、柔らかい内臓の内側を斬る方が俺にとってはたやすい。
「グゴゴ……ゴッ!?」
オークのうめき声がくぐもって聞こえる。
苦しいのだろう。
そりゃそうだと思う。
なぜなら俺はお前の胃のなかで暴れているからだ。
それもポイズンダガーをもって暴れているのだから、なおさらだ。
なぜポイズンダガーをオークの胃の中に持ってこれたか?
どうもこの蘇生は服とか身につけているものも便利に再生されるらしい。
腰につけていたポイズンダガーも綺麗なまま、腰の鞘におさまっていた。
これはオークにとって大誤算だっただろう、御愁傷様だ。
ポイズンダガーで内臓の内側を切り裂くと、すぐに血が流れてきた。
生暖かく、吐き気がするし、血の量はハンパないので、俺はなんとか内臓のその先、皮膚まで切り込みを入れようとする。
「グオ、グオア、アアア!!」
「いて……なにしてるんだ、こいつ」
体に衝撃が走った。
どうやら俺が胃のなかで暴れていることが分かったらしい。
たぶん自分の腹を殴っている。
気持ち悪さと痛みで意識が飛びそうになるが、ここで諦めるわけにはいかなかった。
「おおおお!」
俺は暴れる。とことん暴れる。
脱出するために、ひたすら突いて斬って破る。
大量の血にも決してひるまず、前へと進んだ。
そして――
「グオオオオオオオオオオオッ」
「うらああああああああああっ!! しゃああああ! 大勝利!!」
俺はオークの体から飛び出し、地面へと落ちた。
そして俺が倒れている間に、脳内アナウンスが流れた。
『エリートオーク討伐成功。経験値3万5千獲得。鮎川彰良のレベルが5から50に上がりました』
読んでいただきありがとうございます。
続きは明日、朝か昼ぐらいに投稿します。