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再会した少女とパーティーを組む!

「一緒にパーティーを組んで欲しいんです。お願いできませんか?」


「え?」


 少女はか細い震える声で言ってきた。

 そ、そうきたか!

 なんか相談ごととかアドバイスとか、そういう軽いものを想像していたが少し甘かった。


「ダメですか……?」


 少女は念押ししてくる。

 ダメだと言えばこの少女は引き下がってくれるだろう。

 そんな気がする。

 だが性格的に、俺はそう強く言える人間じゃない。


 そもそもパーティーを組むことのデメリットは戦利品を山分けすることぐらいしかない。

 まず経験値は平等に入る。

 山分けにならない。

 例えば経験値20を持つゴブリンを2人で倒しても、1人で倒しても、1人がもらえる経験値は20と変わらない。

 戦利品に関して言うと、俺は1000万円の使い道が分からないほどなので『朝井ダンジョン』程度の戦利品を山分けされても特に不満はない。

 というか俺は戦利品目的で『朝井ダンジョン』にもぐったわけではなく、ちょっとフロアボスが見たくなっただけだ。


 強いて言えば、女の子と組むことに若干の緊張と戸惑いがあった。

 ソロ大好き人間にとって、色々と障壁がある。

 それだけが今、引っかかってる。


 だが断る理由はそれ以外に思い浮かばなかった。


「わかった、パーティーだな。いいぞ」


「本当ですか、ありがとうございます!」


 喜ぶ少女を見て、少しだけ俺はいい気持ちになる。

 なんかいいことをした気になったからだ。

 ただそれでも、聞くべきことは聞いておいた方がいいと思った。


「パーティーを組む代わりに教えてくれ。ソロでもレベルを上げることができるはずだが、それでもパーティーを組みたいのは何故なんだ?」


 そう、彼女は俺をなぜ強く誘うのだろう?

 こんな低いランクのダンジョンで、どうしてそこまで必死なのだろう。


「レベルを上げたいんです」


「それは急ぎか?」


「はい」


 はい、と来たか。

 しかも決意の眼差しが鋭く俺を刺す。

 本気だ。


「自分より高いレベルの人とパーティーを組むことはズルいっていう自覚があります。私のレベルはまだ6で、あなたのレベルが高いことを見越して頼んでいるので……だから本当は断ってもらってもいいんですが、でも、私はそれでもレベルを上げたいんです!」


「俺は断らないから、ほら、声のトーン落として……落ち着いてくれ」


 興奮気味になってきた少女の本気っぷりに、俺はちょっとだけ引きそうになる。

 確かにレベルの高すぎる人とパーティーを組むことは少しズルいとされている。

 他人の努力で自分が強くなるということなのだから、そう思われるのは仕方ない。


 だが俺自身はその辺、どうでもいい。

 すでにチートスキル『不死』を所持したり、田中さんに便宜を図ってもらっていたりと、俺の方がすでにズルの塊だ。

 パーティーぐらい組んでもいいと思う。

 だが、


「言いたくなければ言わなくてもいいんだが、目的を聞かせてもらってもいいか?」


 ちゃんとした理由は聞くべきだろうと、ここまでくると思った。

 鬼気迫るような雰囲気を持ち出されて、素直に受け入れる気分でもなくなってきた。

 レベルを上げたい。

 それは彼女にとって通過点にすぎない。そういう気がする。


 少女はつばを飲み込み、少しだけ深呼吸をし、ゆっくりと言った。


「回復魔法『リバイブ』を使える人を探したいんです」


「『リバイブ』?」


 そんな魔法、聞いたことがなかった。

 いや、俺だってこの世に存在するスキルや魔法を全部知っているわけじゃない。

 知り合いから聞くもの、ネットで見るもの、図書館の本に書かれているもの、冒険者ギルドが把握しているもの……それですらすべて記載されているわけではないのだから、俺の知らない魔法があってもおかしくはない。

 例えば俺の持つ『不死』のスキルはそのどこにも書かれていないレアスキルだ。


「聞いたことがある魔法ならなんか力になれたかもしれないが、それは知らないな」


「あ、いえ……風の噂程度にしか聞かないような魔法で、実現しているのかどうかすら分からない魔法なんです」


「ふむ。ちなみにその魔法ってすごいのか?」


「はい、この魔法を使うと、人を生き返らせることができるんです。『リバイブ』は回復魔法というより、蘇生魔法なんです」


「え……」


 俺は驚く。二重に。

 そんな魔法があるという事実に対する驚き。

 そして不死スキルに似ている魔法が他にもある、という驚きだ。


「どうかしましたか?」


「あ、いや、別になんてことはないぞ。蘇生魔法なんてすごいものがあるんだなーと驚いてただけだ」


 今度は俺の声の方が興奮しておかしくなってきてる。

 実は俺も似たスキルを持っているんだ、なんて言えない。

 蘇生魔法ですら噂レベルなんだから、『不死』なんてもっとありえないスキルだ。

 この少女にはやはり不死スキルについて、教えられない。

 申し訳ないが。


「なるほどな、目的はわかった。だが『リバイブ』を使う人を探すことと、レベル上げとは何の関係があるんだ?」


 そもそも、ダンジョンで出会いを求めるのは間違ってはいないが、正しくもないと思う。

 ダンジョンの外で出会いを求めた方がいいだろう。


「それは単純に冒険の範囲を広げたいからですよ。高レベルダンジョンになればなるほど『リバイブ』を使える人が出てくるかもしれません。それに戦利品でお金が貯まれば行けるダンジョンの範囲だって広げることができると思うんです」


 なるほど。

 ただ、同じぐらい奇跡のスキルを持つ人間が目の前にいる。

 まあ黙っておくのだが。


「なるほどな、何となくわかった。よし、じゃあここのフロアボスでも倒しに行くか」


「えっ……最下層10層目の魔物を狩るだけじゃなくて、フロアボスも倒すんですか?」


「レベルを上げるんだから、当たり前だろ?」


「でも、フロアボスとなると、さすがに2人じゃ厳しいような……」


 確か『朝井ダンジョン』の最下層のソロ推奨レベルは10、フロアボスは15だったか。

 今の俺のレベル75からすれば、とてつもなく低い。

 だが彼女はレベル6。敵のレベルの方が圧倒的に高い。

 彼女は俺のことを強いとは思っているが、そんなにめちゃくちゃ強いとまでは思っていないのだろう。

 そういや最初に出会ったダンジョンが『朝井ダンジョン』なのだから、強いと想像する方が難しい。


 ……本音で言えばレベルを隠したいところだが、仕方ない。

 一部を適当に誤魔化して、事実を伝えよう。


「俺のレベルがそれより低いと思ってるのか? 心配するな、レベル75だ」


「え、75!? 嘘ですよね?」


「嘘じゃないぞ、ほら」


 と、冒険者カードを少女に見せた。

 いや、強さ自慢のように感じるから、見せつけたという気持ちの方が強いか。


「はー……ホントだ。高いとは思ってましたが、こんなに高いんですね。ていうかレベル75は高すぎませんか!? ここダンジョンランクFですよ!? 何の用事があってこのダンジョンに来たんですか?」


「あー……うん、まあフロアボスを見たことがなかったから、見たくなったんだ。それだけだよ」


「そうなんですね。それにしても、納得です。オークに立ち向かえる力があった理由、こういうことだったんですね」


「あ、えーっといや……それほどでも?」


 あの時は君と同じでレベルは低かったよ、とはちょっと言えなかった。

 まあ、謎の必殺技(嘘)も含め、高レベルならではのものだと解釈してくれたように見えた。

 ホッとする。

 2回も『朝井ダンジョン』に潜っている訳なんかを聞かれたら、嘘に嘘を重ねなければならなかったが、そうせずに済んだようだ。

 まあ信頼してもらえた、ということだろう。


 とにかく不死スキルの説明をすることなく、レベル75であることを伝えることができて良かった。


「そういえば君は何ができるんだ?」


 俺は彼女の杖を見ながら聞く。

 彼女は杖を持っている。

 ということは魔法が得意なのだろうが、その系統までは杖だけで推測できない。


「魔法ですか? 回復魔法とかですね。『リカバー』と『デトックス』を……あ、でもいまの戦闘でMPが尽きてしまいました。MP200もあったのに、これではこの先はお荷物です」


 しょぼんとする少女。

 俺は頭を撫でないまでも、「別にいい」と言ってなだめる。


「まあ強くない敵をその魔法の杖で叩くとか、それぐらいでいい。あとは俺がやる。ちなみに俺も『リカバー』と『デトックス』覚えてるから、ケガの心配はそんなにしなくていいぞ。

 じゃあ、最下層まで行こうか」


 本来なら彼女のような人は低層まで行かない。行くことは奨励されない。

 だが今はレベル75の俺がいるから大丈夫だろう、という目算があった。

 彼女もそれを分かってくれたのか、大きくうなずいて見せた。


「はい、よろしくお願いします!」


 そして俺たちは歩き出した。

 少女と俺との、レベルでこぼこパーティーの結成だ。


 ところで、


「名前聞いてなかったよな。俺も聞かれてないけど」


「あーそういえば、そうでしたね。私、寺井環奈(てらいかんな)と言います。野淵(のぶち)中学に通う3年生で、14歳です」


「俺の名前は鮎川彰良だ。浜澤高校に通う高校1年生だ。俺は15歳だから1歳年上ってことか」


「じゃあ鮎川先輩って呼んでもいいですか?」


「いいぞ。俺はなんて呼ぼう……えっと、寺井さんとか?」


「それは硬いので、環奈でいいですよ」


「え、下の名前を呼び捨て? それはなんか、アレじゃないか?」


 さすがに親しすぎるというか、友達未満恋人以上的なものじゃないのか?


「だって寺井って呼び方、なんだか硬くないですか?」


「そう言われてみると、そうか……そうかな? うん、じゃあ環奈、改めてよろしく!」


 そうして俺たちはパーティーを組んで最下層へと目指した。


 ちなみに彼女が『リバイブ』を探す理由はあえて聞かなかった。

 死んだ人間を生き返らせたいのだろうが、それは軽く語られるものではないと、さすがの俺でも思ったからだ。


 死は重い。

 今の俺だけは不死スキルのおかげで軽すぎるが、本来はそういうものだ。

夕方か夜にも更新します。

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― 新着の感想 ―
[一言] カンナさんは生き返らせたい人がいるようですね。
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