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VSフロアボス リビング・スタチュー!(後編)

 勝利のための条件はすべて揃った。

 まずは支柱のかげに隠れて魔法で攻撃だ。


「『アイス』」


 氷の柱がリビング・スタチューに向かった。

 奴の体にぶつかった氷たちがはじけていく。


「ぐおおお……どこだ!? どこにいる!?」


 リビング・スタチューが氷の柱を腕ではじく。

 だが俺は『アイス』を唱え続けているので、はじかれた数より多く生成している。

 弱点とは少し思えないが、ダメージは確実に蓄積されていっている。

 やはりこのまま勝つこともできるのでは?


 ……と思ったが、ランダムに飛び続ける曲剣がこちらに向かっていた。

 速度アップの補助魔法『アクセル』のおかげで、俺は曲剣の動きを読むことができる。

 なのでギリギリだが、避けた。


「そこか!」


 リビング・スタチューに見つかる。

 4つの曲剣は一時停止し、俺の方へと向かっていく。

 さっきはこれをピンチと俺は思っていた。

 だが今はチャンスだと思った。

 狙ってくる曲剣の動きは、より単純だ。


 俺は曲剣の1本目をなんとか避ける。

 続けて視界には2本目、3本目がやってきていたが、これはあえて避けなかった。

 なぜなら『アクセル』で加速した俺は、2本の曲剣を当たらないようにしたからだ。


 ガキ、ガキキンッ!

 曲剣同士がぶつかり、はじけ、空中で一時停止した。

 誘導成功だ。

 そこに4本目が突っ込んできて、避けた1本目も戻ってきたので、曲剣たちが俺の目の前で大渋滞を起こしはじめた。


 4本も同じ方向に物飛ばしたら、そりゃいずれぶつかる。

 そのことをリビング・スタチューは分かっていなかった。

 頭が悪いというより、攻撃を受けて冷静さを失っていたんだろう。

 それに曲剣のない奴は、攻撃を動いて回避するしかないのだが、曲剣と自分の体、両方動かす姿を俺は見ていない。

 たぶんできないのだろう。

 だから曲剣のない奴はいま、無防備だ。


「『ウォーター』、『ウィンド』!」


 MPの負担は大きいが、俺は気にせず魔法を連呼した。

 重く、スピードを増して鋭さも兼ね備えた『ウォーター』は石像にぶつかりはじけた。

 そこに『ウィンド』の風が奴の硬い表皮を傷つける。

『ウィンド』は風の魔法だが、風は見えない硬質のものに変化して、当たったものを切り裂く力があった。


「ぐ、あああ!! 水が、水があああっ!」


 弱点は水らしい。

 俺はあっけないフロアボスのおわりを見ることになるかもしれない。

 それは少し残念なことだったが、ゴブリンから続くしんどい連戦に疲れていたので、さっさと終わらせたかった。

 だから『ウォーター』を唱え続けた。


「ぐおおおおおおおお!!」


 もう相手の動きはない。曲剣もデタラメには動くが俺には当たらない。

 俺はギリギリだが、避けることができる。

 これがパーティー戦になると、誰かが傷ついて回復の必要が出てきて厄介なことになるのかもしれない。

 だが俺はソロなのでその心配はなかった。

 案外、ソロ向けのボスなんじゃないだろうか。


 そんなことを思っていた時だった。

 脳内にアナウンスが響いた。


『魔法を放つにはMPが足りません』


 は?

 と思ったので俺はMPだけ『ステータスオープン』をする。



 ————————————————————————————


 MP:0/1800


 ————————————————————————————



 ああ、本当に使い切ってる……。


「魔法はおわりか? MPが尽きたか?」


 リビング・スタチューは大きな身体を曲げ、ひざをついている。

 少しだけだが焦る。ここで死ぬのか?

 とりあえずロングソードを構えて抵抗を試みようとするものの、


「華奢な体でどこを斬ろうというのだ? 笑止」


 猛烈なスピードでやってきたリビング・スタチューの蹴りは凄まじかった。

 腹の骨がバキバキに折れていく。口から大量の血が出る。

 いくら『恐怖耐性』があっても痛いものは痛いし、『恐怖耐性』は痛覚を遮断してくれない。

 痛すぎてキツい。

 いっそのこと殺して欲しい。

 その願いが通じたのか、曲剣の一つが俺の額に迫った。



『不死スキル発動』



 …………。

 ……うーむ。


 今の俺は仰向け状態。目をほっそりとだけ開けて現状を確認した。

 一度目に目覚めたときとはちがって、曲剣は俺の近くにいない。

 やはり曲剣は魔力でできていたんだろう。

 最初から持たず、突然出てきたのは魔法の産物だったからだ。

 そんなリビング・スタチューも体力を減らして、魔力も減って、曲剣を出し続ける余裕がなくなったのかもしれない。 


 まあそこが奴の油断だ。


「『ウォーター』!!」


 ぐるりと身体を回転させ、リビング・スタチューの姿を視認してから魔法を放った。

 やはり曲剣は見当たらない。

 そのまま攻撃は直接、奴の体へと命中した。


「『ウォーター』!『ウォーター』!『ウォーター』!『ウォーター』!『ウォーター』!『ウォーター』!!!」


「な、なぜまだ魔法が使える!?」


「MPがあれば魔法なんていくらでも使えるぞ!!」


 俺の『不死』スキルはHPだけでなく、MPも全回復する。

 だから今『ステータスオープン』をすると、



 ————————————————————————————


 MP:1200/1800


 ————————————————————————————



 になっていた。

 全回復からの『ウォーター』連続使用で600MP消費。


「リビング・スタチュー、お前意外と弱いんじゃないか?」


 俺は『ウォーター』を唱えながら言う。

 今の俺に一切余裕はないが、自分を奮い立たせるためだ。


「弱くは、ない……小僧め!!」


 空中に出現するのは8本の曲剣。

 それらは俺に向かって飛んできた。


「なんで全部の曲剣を飛ばすんだ? 頭に血がのぼりすぎて、頭が悪くなったんじゃないか?!」


『アクセル』を唱えたのちに、俺は1本ずつ曲剣を避けていく。

 すべて完璧に避けることは無理なので切り傷はたくさん増えていく。

 ただ『ウォーター』だけは欠かさずに撃ち続けた。


 それにしても8本も出した曲剣をなぜ1本もガードに回さないのだろう。

 感情的になるということは、こういうことなのか。

 いや、死に物狂いというやつだな。


「ぐっ……」


 胸に1本の曲剣が刺さった。

 体にものすごい痛みが走る。

 これが体を貫くと死ぬが、まだ表面に刺さっているだけなので死なない。

 だから『ウォーター』をやめる気はなかった。

 リビング・スタチューは立っているだけでやっと、といった雰囲気だ。


 もう少しで倒せる。

 残りのMPはあとわずかといった所だろうか。

 ちょうど死んでMP全回復してもいいかもしれない。

 死ぬのは慣れたとはいえ、好きじゃないが。


 だが、


「ぐあ、あ、あ、あ……ぁ」


 体に刺さっていた曲剣も含め、8本あったすべての曲剣が消えた。

 そして巨大なリビング・スタチューは石像らしく体にヒビが入った。


 倒した……?

 倒したんだ!!


「見事なり、不死の冒険者よ」


 ヒビから光が飛び出す。

 もう奴の命は尽きる。


「見事なり」


「よせよ、リビング・スタチュー。お前がもう少し理性的だったら勝ち目、俺の心が折れるまで延々とバトルできたと思うぞ?」


「ふふ……」


「なんで笑う?」


「理性が飛ぶのは我の悪い癖。だが、いずれにせよ貴様の死なない体には敵わなかっただろう」


「それは……なんかチートスキルすぎて申し訳ないな」


「謝るな、誇れ、冒険者。そして強くなり、さらに難関なダンジョンを攻略せよ」


 リビング・スタチューのヒビから出てくる光は強くなり、そしてはじけた。

 目を覆うほどの明るさが部屋を照らす。

 そして奴がいた場所には、大量のアイテムが落ちていた。


『リビング・スタチュー討伐成功。経験値18万獲得。鮎川彰良のレベルが57から70に上がりました』


 エリートオークの5倍近い経験値だ!

 やったぜ。

 それにしても「誇れ」「難関なダンジョンを攻略せよ」だなんて……フロアボスとはいえ魔物は魔物なのに……なんだか調子がくるうな。

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