発動、チートスキル『不死』!
「はあ、はあ、はあ……くそっ!」
俺は情けないことに、逃げている。
息を切らして、汗と血を大量に流して、こけそうになりながらもノンストップで走っている。
「聞いてなかったんだけどな。ここってソロ向けの弱小ダンジョンじゃなかったのかよ!?」
虚空に叫ぶが俺の言葉なんて誰も耳に届かない。
ソロダンジョンはすぐ卒業するもの。
だから、同じような冒険者と遭遇することはほとんどない。
――何か間違えたんじゃないか?
俺は走りながら、このダンジョンに入ったときの手続きを思い出す。
ダンジョンに入るため、家の近くにある冒険者ギルドに立ち寄り、冒険者カードを見せた。
そのチェックで彰良は「ダンジョンに入っても大丈夫なレベル」という了承を得ていた。
だとすればここは、ソロ向けダンジョン『朝井ダンジョン』で間違いはない。
間違いないはずなのだが……。
ドス、ドス――
俺の右腕を斬りおとした魔物の足音は、ずっと聞こえてくる。
『朝井ダンジョン』のダンジョンランクはF。
最底辺のダンジョンだ。
そしていま俺がいる階層は2層目。
1層目より少し強いが、それでも2層目の適性レベルは5だ。
そして俺のレベルも5で間違いはない。
今はステータスオープンをする暇はないが記憶違いでなければ、ステータスはこうだった。
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鮎川彰良
レベル:5
HP:5/300
MP:0/100
物理攻撃:100
物理防御:50
魔法攻撃:60
魔法防御:35
すばやさ:25
異常耐性:20
攻撃魔法:ファイア(レベル1)
補助魔法:なし
回復魔法:リカバー(レベル1)
スキル :???????(レベル1)、カウンター(レベル1)
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回復魔法を駆使したためMPは底をついていた。
かろうじて残ったHPも5だけ。
右肩から流れる血を止血しなければ、いつかはHPが0になる。
昔から気になっているスキル『???????』はいまだにその正体が分からない。
だから役に立たない。
発動すらしないので、ハズレスキルどころじゃない。
ドス、ドス、とダンジョン内に響く足音が大きくなる。
近づいてきている証拠だ。
もう、追いつかれる。
「ヤバ、死ぬ……逃げなきゃ……」
戦って勝てる相手じゃない。
出会って2秒だった。
全快だったHPは武器の一振りでほとんど奪われていた。
気付いたら右腕が地面に落ちている始末だ。
その右腕を奴はじっと見ていた。
その隙に俺はここまで走ってきたが、逃げきれていない。
「あいたっ」
何かに引っかかり、つまずく。
こんなところで、つまずいている場合じゃない。
そう思いつつも俺は何につまずいたのか確かめた。
そして見たことを後悔した。
「死んでる……?」
声はかけてみるものの、それが死体であることは明らかだった。
上半身と下半身が離れてしまっている。
魔物に襲われた人間の死体だった。
この男は、俺とさほど年齢は違わない。
高校生ぐらいの男子だ。
ちがう学校だが、制服とか体つきから何となくわかる。
もしかしたら俺を追いかけている魔物にやられたのかもしれない。
「俺もそうやって死ぬのか……?」
急にめまいが襲いかかってくる。
死にたくない、と体が言っている。
そして気分が悪く、歩みが思ったように進まなくなった。
ドス、ドス……。
ゆっくりと、魔物がきた。
息を殺しながら後ろを振り向くと、その恐ろしい相貌が目に入った。
顔全体に深いしわ。口からは2本の牙が上に向かって生えている。俺より倍ぐらいある身長。
そして両手に斧。
殺意をむき出しにした、悪魔のようなオーク。
『朝井ダンジョン』にはどの階層にもオークなんておらず、スライムとかゴブリンとか、小さな魔物だけだと聞いている。
やはり何かがおかしかった。
だがそうは言っても、目の前にいるオークは消えてくれない。
なら……!
「……っへ、戦うしかないみたいだな。おいオーク! 仕留めそこなった雑魚オーク! どこからやってきたかは知らないが、俺に会ったことを後悔させてや――」
残った左手で鞘から片手剣のブロードソードを出し投げつけてやろう、なんて考えていた矢先だった。
オークの斧はいつの間にか振り下ろされ、俺の左腕は地面の上でピシャリと音を立てて落ちた。
地面に血が広がる。
俺は痛みに耐えられずバランスを崩し、地面へと倒れ、仰向けになった。
「ああああああああああああっ! いってえええええ! くそおお、反則だぞ、クソオーク! 殺してやる、殺してやるからなああ!」
と叫びつつも俺は分かっていた。
両腕がない状態ではどうしようもない。
だが俺は諦めたくなかった。
死んだらおわり。その事実を受け止める気はさらさらなかった。
オークがこちらをにらむ。
そして奴の斧が身動きの取れない俺をめがけて、振り下ろされた。
『特殊条件「死亡」を確認。これによりスキル「???????」は「不死」へと変化しました』
『不死スキル発動』
死んだはずの俺の頭にアナウンスの声が響く。
不死……不死ってなんだ?
「不死って、もしかして死なないことか?」
気がつくと俺はそう声に出していた。
いや、それだけではなく目も開くし、痛みもない。
呼吸もできるし、耳で音を聞くこともできる。
信じられないことに、俺はどうやら生き返ったらしい。
数時間後に2話目も投稿します。
いくらか書き溜めがあるため、しばらく更新はできるかと思います。
よろしくお願いします。




