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十畳長屋のトランキライザー  作者: 松田ゆさく
5/5

5 埠頭にて

「阿妄さん、行先に心当たりあるんですか?」


助手席に座っている桜花は、相変わらずトランキライザーを齧りながら運転する阿妄を不安げに見つめた。


「問題ない」


車は都内の品川埠頭に止まった。


「あれ。ここですか? 誰もいないように思えますが」


阿妄と桜花が車から出た瞬間、


『バチッ』


複数のヘッドライトが桜花たちを囲んでいた。

ヘッドライトの脇には黒服の男たちが立っている。


「ふえー、囲まれてますよ阿妄さん、どうするんですかー!」


「問題ない」


そう言うと阿妄は黒服たちに向かって、


「つかぬことを聞くが、死んだ安住健吾の嫁と娘はどこへやった?」


「貴様、何者だ」


黒服は答えない。


「なに、通りすがりの探偵だよ」


「何カッコつけてんですか! めっちゃ追いかけてたでしょ! あと、あずみけんごって誰ですか?」


桜花がすかさず突っ込んだ。

阿妄は仕方ないといった雰囲気で桜花に向き直った。


「安住健吾はこの前見た死体だ。そんなことより、お前、ピストルはまだ持ってるな?」


「持ってますよ」


「貸せ」


「ええ、わかりました」


桜花はバッグからピストルを取り出し、「はい」と阿妄に渡した。


『パアン! パアン!』


そして躊躇なく黒服へ向けて引き金を引く。

片っ端から倒れていく黒服たち。


「ふむ。安住はさすが、射撃の名手だっただけのことはあるな」


『カチッカチッ』


「しかし弾は切れたな。弾倉の弾は六発しかなかったのか。急所ははずしてある」


八人いた黒服の六人を発砲で倒し、あと二人が残った。


「残りの二人はどうするんですか?」


「こうするんだよ」


おもむろに銃からマガジンを取り外し、銃とマガジンを黒服に投げつけた。


『ゴッ』


と、いい音がして黒服が倒れた。


「ああー!私のピストルがぁ!」


「貰いもんだろ。あとで弁償してやる」


「言いましたね? 絶対ですよ!?」


「こんな状況でよくピストルの心配が出来るものだな」


阿妄は倒れている黒服の一人を引っ掴み、起こす。


「答えろ。安住の妻と娘の行方だ」


「へっ、女房のほうはもう死んでるぜ」


『ボコッ』


阿妄は黒服を殴った。


「ほ、ホントだ。嘘じゃない」


「なら娘はどうした?」


「……」


阿妄は懐から拳銃を取り出し、


「死にたいようだな」


と、黒服の頭に突き付けた。


「あッ、阿妄さん、拳銃もってるんじゃないですか!? なんで自分の使わないんですか!?」


桜花は憤慨した。


「で、娘はどうしたって?」


「……、歌舞伎町のプリムローズって店でヤク漬けになってるよ。今からじゃ助けても手遅れだろうよ」


「そうか、わかった」


阿妄は黒服を銃で殴って気絶させた。


「だ、大丈夫ですか?」


桜花は阿妄に恐る恐る聞いた。


「問題ない。それより歌舞伎町行くぞ」


「あ、はい」


「急ぐぞ」


二人は車に乗り、歌舞伎町へと向かった。




そして、歌舞伎町のキャバクラ、プリムローズという店にたどり着いた。


「ここにいるんですか? 娘さん」


「だといいがな」


店に入るとボーイが、


「いらっしゃいませ、二名さまですね。ご案内させていただきます」


阿妄はいつのまにか拳銃をボーイに向けていた。


「必要ない。安住の娘はどこだ。出せ」


「あれ? お店の中にウチの銀行の上司がいますよ」


桜花は目ざとく見つけると上司へソファー越しに駆け寄った。


「お久しぶりです。こんなところで会うなんて奇遇ですね。」


「おや、桜坂桜花君か。久しぶりってほどじゃないだろう。なぜこんなところにいる?」


桜花の登場に上司は驚いていた。


「ああ、ちょっと野暮用で。それじゃ、忙しいので、また」


たたたっと、駆け足で阿妄のもとに戻る桜花。


「銀行の頭取がいたか?」


阿妄が桜花を見て言った。


「はい。ほんと偶然ですね」


「偶然ならいいがな」


阿妄は意味ありげな事を言いつつ、ボーイに拳銃をつきつけて案内させていく。

店の奥にいくと、娘を見つけることが出来たが、どことなく様子がおかしかった。


「こいつが安住の娘だな?」


「そうだ」


ボーイが言うと、別室から強面のまるでゴリラのような男が出てきた。


「わー、阿妄さん、ヤバい人でてきましたよー!」


桜花は阿妄の背中に隠れた。


「大丈夫だ」


「ちょ、何が大丈夫だですか! このままじゃ、やられちゃいますよ!」


「そこに滑川が来ている」


「えっ」


という間に、どこからともなく現れた滑川によって強面の男は取り押さえられた。


「まったく、阿妄さんは人使いが荒いんですからー」


「どうせそいつも叩けばホコリが出てくるだろう」


「はいはい。現場は押さえました。ここからはコチラにお任せください」


滑川は女の子のほうを見た。


「あ、でも、女の子は連れていけませんよ」


「仕方ない。十畳長屋に連れていくか」


「それがいいと思います。都合のいい医者もいますしね」


「しかし、コイツはデカいヤマだな。背後には銀行やらヤクザやら政治家やらが関わっているんじゃないか?」


「ええ、仕事が増えて大変です」


そう言って、滑川は連れて来ていた私服警官たちとともに証拠品の押収などを始めた。


「阿妄さん、バイト代は?」


「ああ。ほら、受け取れ」


阿妄は桜花に一万円札を何枚か握らせた。


「ふへへー、ピストルもなんとかしてくださいね」


「元は貰ったものなのにガメついな」


「なんだかもう、持ってないと不安になります」


「現金なヤツだ」


桜花はぼけーっとしている娘に視線を向け、


「この子、元に戻りますかね?」


「うちの医者は非合法だが一流だ。大丈夫だろう」


「うわ、なんだか不安ですね」


「帰るぞ。すぐに診てもらう」


「はーい」


桜花は娘を背負って車まで運んだ。






「うーん、この薬を抜くには、もっと非合法な薬を使うしかないわね」


十畳長屋に戻り、遥に診せると、そう言われた。


「え、クスリにクスリ使うんですか?」


「当たり前じゃないの」


「だ、大丈夫なんですか?」


「んー、むしろクスリを使わないほうがヤバいわね」


「えー、じゃあ、早く使ってください」


「桜花ちゃんはもう休んでいいわよ。疲れてるでしょ? ここからはあたしの仕事」


「あー……、じゃあ、休みますね」


遥の部屋から出ると、朝日が眩しかった。


「徹夜になっちゃった。なんだかいろいろありすぎて頭パンクしそう」


桜花は、このままの調子で阿妄さんに着いて行ったら死ぬんじゃないかと不安になりつつ、自室に戻る。

本棚はずれていて、阿妄が見えていた。


「もう寝ていいですか?疲れました」


「ああ、よくやった」


本棚を元の位置に戻し、ぱたりと夢の世界へと旅立つのであった。




つづく

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