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十畳長屋のトランキライザー  作者: 松田ゆさく
4/5

4 水道橋ドーム公演

『ワァアアアアアアアア!!!』


水道橋ドームで行われる総合格闘技「ダイジン」は大熱狂に包まれている。

中央のリングでは二人の格闘家が拳と拳をぶつけあっていた。


「すごい! ダイナミックですよ! 阿妄さん! 血沸き肉踊りますね! タダで見られてラッキーです!」


選手の技、パンチやキックが相手選手に入るたびに桜花は「おぉ~!」、「キャー!」というリアクションをとっている。


「ああ、そうだな」


桜坂桜花と阿妄京介はジミーハーンに招待されてドームに来ていた。


「阿妄さんも意外に、こういうのに興味あるんですね」


桜花がリングから阿妄に視線を移すと、相変わらずトランキライザーを齧っていた。


「まあな。俺としてはお前がそこまで興奮してるほうが驚きだよ」


「そうですか? いけー! そこだ~! やっちゃえー!」


「やれやれ」


ふうとため息をつく阿妄。

桜花はその態度にムッとした。


「なんなんですか?」


「いや別に。それよりあそこを見てみろ」


桜花は阿妄の視線の先を追った。


「うわー、なんだか怖そうな人たちがいますね」


「ハーンの試合のあと、八百長試合の疑惑がある。その疑惑に関わってる奴等だ」


「うえー、なんでそんなのがいるんですかぁ!」


場内は更に白熱していく。鬼人・ザ・ブラックの登場である。


「わー! 阿妄さん! ハーンさん出てきましたよ!」


「ああ、すごい人気だな。声援で耳が痛い」


阿妄は大きな歓声に対し、手で耳を覆っている。


「それにしても、ハーンさん、プロレスラーなのに、なんで総合格闘技に出てるんですかね?」


「ヤツの中でプロレスが最強だと思ってるんだろう。実際あいつは強い」


「そうなんですね! ああ! でもやられてますよ! ぼっこぼこにされてます。見てられません!」


桜花はハーンがパンチされるのを見るたびに「キャア!」と叫びながら目を手で覆う。


「あれはやられてるフリだ。相手の見せ場も作って場を盛り上げる。ハーンの得意技だ」


「ええ、でも、めっちゃ血出てますけど……」


「大丈夫だ。やられたフリをしながらも急所は的確に外して避けてる」


「よくわかりますね、阿妄さん」


「ハーンに毎日カタコトの日本語で聞かされてるからな」


「仲がいいんですね」


「見ろ。ハーンのバックブリーカーだ」


阿妄が言った瞬間、ハーンの技が決まりKO勝ちになる。

ハーンは雄たけびをあげ、観衆の大歓声で試合は終わった。


「ふあー、すごいですね。あくまでプロレス技で勝ちました。どうなることか、めっちゃドキドキしましたよ~」


「ハーンが勝つことは分かっていたからいい。それより次が問題の試合だ」


「そうなんですね。でも、そんなに注目されてない試合ですよね」


「バレずに使途不明金を動かすために、ワザと弱い選手を使ってるんだ。ま、いろいろ理由があるんだ。こういう格闘技の試合は誰がオオトリとか決まってないから操作しやすい」


入場してくる二人の選手。

ハーン達ほどではないが歓声が巻き起こる。


「あれ、あの人、うちの銀行がスポンサーしてる選手ですよ!こういう大会に出てたんですねー」


桜花はちょっと知ってる選手の入場に嬉しくなった。


「うちの銀行って、お前追いやられてるじゃないか」


「まあ、そうなんですけど」


「その銀行でもって使途不明金の横領を見つけて追いやられたんだろ?この件には銀行、ヤクザ、政治家が絡んでいる」


「う。私そんな大きい事件に首を突っ込んでたんだ。知らなかった」


桜花は背筋が凍る思いだった。


「お前がこの前見た死体にも関係しているようだぞ」


「え、そうなんですか?……、なんで殺されたんですかね、あの人」


「見ちゃいけないものを見たんだろうな」


『カンカンカンカン』

ゴングが鳴り、桜花のいた銀行がスポンサーしている選手がKO勝ちする。

すると会場はざわめいた。口々に「大番狂わせだ」「これは予想外だ」などと声が聞こえてくる。


「お、奴等が動いた。追うぞ」


「え、私もですか?」


「当たり前だ。何のために来たと思ってる」


「え、遊びに……、」


「ほう、では、行かなくていいんだな?」


「だー! もう! わかりました! 今回も頂けるんですよね!? バイト代!」


さっさと席を立って歩いていく阿妄を急いで追いかける。

玄関口を出ると奴等は大型のリムジン車に乗るところであった。


「車を回してくる。お前は奴等がどっちに行ったか見ていろ」


「ええ!? 怖いから早く来てくださいね! 見てますから!」


阿妄が去ると、入れ替わりにチャラいホスト風の男が桜花に近寄ってきた。


「お、可愛いおねーさん、今ヒマ?お茶しない?これから僕と遊ぼうよ」


「い、今忙しいんで結構です」


「えー、いいじゃない。お茶だけでもいからさ」


「他を当たってください」


それでもグイグイ来る男に、


「いい加減にしてください。声を上げますよ」


と、男を突き飛ばそうとした瞬間、


「危なかったですね。桜花さん。こいつは奴等が雇ってる殺し屋です」


いつのまにか居た滑川が男の関節を決めていた。


「ええー。そうなんですか! 危ない所をありがとうございます。滑川さんってホントは強かったんですね」


「ええ、まあ。それなりに」


滑川はトスッという音とともに男を手刀で気絶させる。

桜花はあまりにも鮮やかで流れるような動きに見惚れている。しかし、滑川は見れば見るほど没個性であった。気を抜くと存在しているかも怪しかった。

すると阿妄が乗る車が近寄って来て窓を開ける。


「桜坂桜花、早く乗れ。ん?滑川か」


「こんばんは。阿妄さんは今日も危ない橋を渡っていますね」


滑川は言いながら隣に来た私服警官に殺し屋を預けた。


「滑川さんが助けてくれたんです」


「そうか。なら、俺達の動きは奴等にバレてるな。まあいい。行くぞ」


「それって大丈夫なんですか?」


言いながら桜花は阿妄の車の助手席に乗った。


「問題ない。それより奴等はどっちに行った」


「あ。チャラ男のせいで見てませんでした」


「まあいい。検討はついている。」


阿妄は桜花から滑川に視線を移し、


「俺達はもう行くが、滑川はどうする?」


「私はまだ残ります。こっちにまだ用があるので」


「そうか」


滑川はドームの入口へと消えていった。


「じゃあ行くぞ。掴まっておけ」


阿妄は大通りへと車を走らせた。




つづく




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