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エイス大陸クロニクル~死に戻りから始める初心者無双~  作者: 津野瀬 文
第一章 即デス★チュートリアル
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第七話 ボス部屋に入ってみた。


 長かった。

 本当に長かったよ、ここまで来るのにかかった時間は。


 けれど私はやったんだ。

 目の前の扉を開ければきっと、私はこのダンジョンから出られるんだ。




 さて、私の目の前には大きな両開きの扉があります。プレイ開始から二週間。ゲーム内では四週間が経とうとしています。

 そこに来てようやく、私のチュートリアル(笑)も終わりそうです。

 

 いや、最初はエリアの隅にある階段を見つけて絶句したよ。もしかしてこれ、まだ道が続くんかって。

 諦めてその階段を下って、また同じようなエリアで化け物たちと殺し合いをして。時々殺されて上のリスポーン地点に戻されて……いや、本当に大変だった。


 だってこの扉の前に来るまで合計で四つの階段は下りましたよ? 行き止まりへと続くダミーの道もたくさんありました。ゾンビやらゴーレムやら色んなモンスターがいて、ありとあらゆる状態異常も受けたし、倒して来たモンスターの数も死に戻りした数も数えていません。


 一体当たりとの戦闘に一時間以上はかかります。セーフティエリアでログアウトすることを考えると、計画的に時間配分をしないといけませんでした。(まぁ、いざとなれば死に戻ればいいんだけど、あんまり死にたくないしね……)

 嬉しい事に『使役』のレベルは7に上がったけれど、誰も仲間になってくれません。心なしか最近では、モンスターもあまり近寄ってこなくなりました――おい、お前ら。今さらか?


 とまぁ、いろんな思いはありましたが、いよいよこの場所ともお別れです。ついに、ついに私は真の意味でエイス大陸クロニクルを始められそうです。


 両開きの扉を押し開き、中へと入ります。扉を開けるとそこは――そこは大きな広間でした。


「……うん、知ってた」


 いや、いかにもなその扉は、私の想像していたボス部屋の扉と同じだったから、多分こんなことだろうと思った。

 ただ予想と違ったのはその広間には玉座があるだけで、モンスターはいなかったことだ。せっかくだからボス戦でもするかと意気込んでいただけに、少し拍子抜けしてしまった。

 大広間に入って隈なく探索したけれど、何も変わったところは無さそうだ。どこかへと続く扉もないし、本当に単なるボス部屋ってことなのだろう。あっ、玉座の後ろに宝箱はありましたが、中身は空でした。まぁあったところで、私のインベントリとか言うアイテムポーチはいっぱいで、何も入れられないんだけど。

 ボス同様、未だ中身は実装されていないのかな?

 あるいは、私よりも先に訪れた誰かがボスを倒して宝をもっていたったか……そう言えば、ここに来るまでにたくさんの宝箱を見つけたけれど、全部空だったなぁ。それももしかして……。


「ありえるねぇ。だってゲーム時間で四週間だし。リアルでは二週間……うへぇ、夏休みも残り半分くらいかぁ」


 夏休みも半分になるぐらい、時間は経過している。

 私がこの変なダンジョンで時間を食っている間に、みんなはきっと攻略を進めているのだろう。

 この場所を出るまでは一切ネットの情報を見ない。そう決めているのでどこまで進んでいるか分からないけれど、もうほとんどのボスは倒されているかもしれない。VRMMORPGって、一体どれくらいの速度で攻略が進むんだろう。

 初心者の私にはそれすら分からない。


 とは言え、だ。


 私は別に攻略組と足並みをそろえたいわけでもないし、みんなと協力プレイがしたいわけでもないんだよ。

 モンスターと戦ってるだけでも楽しいんだから、別に今のままでもいいんじゃないかな。お母さんがオフラインの格闘ゲームは駄目っていうから、オンラインのRPGをしてるだけだし。


「……けど、いい加減この場所は出たいかな」


 私がRPGの中でもこのゲームをしようと思ったのは、風景の美しさと現実を思わせる鮮やかなグラフィックスに目を奪われたからだ。

 きっとこの仮想世界には、私が見たこともないような奇麗な景色が広がっているはず。モンスターとの戦いも面白いけれど、せっかくこのゲームをしているなら、その風景も見てみたい。


「……はぁ。結局このダンジョンは、出口が下にある塔とかじゃなくて、上にある地下遺跡だったみたいだけれど……もう一回、出口目指して上ってみようかな」


 今度は死なずにどこまでいけるだろう。

 そもそも死んでも四つ上の階に行けると思えば、それもいいか。取りあえず、力試しのつもりで上ってみよう。


 ボス部屋らしきところを出ると、さっそく(そび)え立つような大きな土塊(つちくれ)の人形が現れた。踏み出す一歩は周囲を揺らし、最初は立っているのも困難だった。まぁ、今は随分と慣れたけれど。


『ビー、ガガ、ビー……』


 周囲をきょろきょろと見渡し、スキルの『隠密』で接近していた私の姿を捉えて機械音を立てる。やっぱり何度試しても、このギガース・ゴーレムとか言うロボットっぽいモンスターには不意打ちができない。

 おまけに頑丈だし、このダンジョンで出会ったモンスターの中で一番倒すのに時間がかかる。


『……ガガガ』


 ギガース・ゴーレムが拳を振り上げたのと同時に、私は一気に距離を詰めて足元に木の棒を打ち込む。叩きつけた瞬間に掌が痺れるけれど、怯まず何度もたたき続ける。執拗に足で踏みつけようとしてくるし、その度に大きな振動が襲って来るけれど負けちゃだめだ。

 ゴーレムの足への攻撃を繰り返すことでやがてギガース・ゴーレムの足首の辺りが削れ、そして――。


『ガガギ……』


 ゴーレムが私目掛けて傷ついた足を勢いよく振り下ろした瞬間、ついに耐え切れなくなったその足が完全に千切れ、バランスを崩して転がった。

 さて、ここからは一方的だ。


 一度片足を失って倒れたゴーレムは、これまでの戦いで再び起き上がれたことはない。

 徐々に千切れた足が再生してきているので、放っておくといずれは立ってしまうのだろうけど、もちろんそれを黙ってみているわけもなくて。

 起き上がろうと懸命にゴーレムがもがいている間に、あらゆる箇所をタコ殴りにして倒すのが私の見つけ出したやり方だ。

 当然頑丈だから時間はかかるけれど、じたばたと動かしているゴーレムの手足にさえ気を付ければ、倒すのは比較的容易。

 あと四百回ぐらい木の棒を打ち込めば倒せるだろう。


「ふぅ……まだまだ先は長いね」




 ここまで降りてこれたように、この調子でいつかは出口まで登れるはず……上にも出口がなかったその時は――運営に連絡して助けてもらおう……。



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