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間話 あいつが受けるはずだった依頼どうするよ?

「よおし、乾杯だあ!」


 ギルドの一角……酒場でグラスをぶつけ合わせる複数の音が鳴り、その場にいる全員が大笑いをしていた。


「ノアのやつ今頃ベソかいて逃げ帰ってるところですかねぇ」

「あいつのことだし、道中のゴブリンにでもやられてるかもしれんな!」

「ゴブリンにビビってたら大笑いものですわね! 実際、ワタシも見たことありますわぁ! あれは傑作でしたの!」


 そこで小柄な男がゴブリンの真似をして間抜けな顔をし、女性に襲いかかるフリをする。魔法使いなのであろう女性はうふふと笑いながら「こんなハンサムなかたがゴブリンなわけがありませんわ?」と、彼の手を取って膝上で握り込む。


 お世辞にもハンサムとは言えない小柄な男は、それだけで顔を真っ赤にしながら鼻の下を伸ばした。


「こうしてリリン嬢の証言もあることだし、嬢がアドバイスしてくれたおかげですっきりあいつを追い出すことができたなあ。いやー、爽快! 爽快!」

「きっとギルドマスターも分かってくださいますわぁ! あらあらガルゴ様? お触りはお高くつきますわよ?」


 ガルゴと呼ばれたギルドマスター代理がリリンの肩を抱いて引き寄せる。

 酒臭い息を吐かれながら絡まれたリリンはほんの少しだけ眉をしかめたが、それも一瞬のこと。自ら身を寄せて彼をおだてだす。


「ワタシはアドバイスをしただけですわぁ? 追い出せたのは、あなたのおかげよ?」

「そうだそうだ! しかしアドバイスがあったとはいえ、追放までこぎつけたのはガルゴのおやっさんだろう! アルフィンの姐さんがあんな臆病者を残しとく理由がまるで分からなかったからなぁ! よく追放してくだすった! さすがだぜ!」

「仕事の邪魔にしかならねぇからなあいつは!」

「それに不正も本当のことでしょう?」

「おおともよ! 証言は上がってんだ!」


 やいのやいのとグラスの酒を飲み干しながら、盛り上がる。


 彼らが話しているのは数時間前に追い出したばかりの男――ノア・レルヴィンのことである。


 青い雷のようなメッシュの入った灰色の長い髪で、肩の辺りで緩く結び黄色い蜘蛛の髪飾りをつけている気弱そうな男は、ギルドマスター代理の言葉に従い、すごすごとギルドを出て行った。


 この、ギルド併設の酒場に集まっているメンバーは、それを酒の(さかな)にして大笑いしているのである。


「あの子ぉ、ベビーフェイスで可愛いんだけど、あんなに臆病じゃあねえ〜。それに、髪飾りの趣味も悪いし!」

「蜘蛛だもんな! そりゃセンスねぇや! あっはっはっは!」

「本当、あの『ホコリ男』がいなくなってすっきりしたよ!」


 彼の髪を『ホコリ』と揶揄(やゆ)しながら細身の男が酒を飲む。

 グラスやジョッキはどんどん中身が飲み干されていき、酒場は大繁盛である。


 しかし、このギルド中が追放を歓迎する空気にも嫌悪感を示す人間はいるものだ。そんな冒険者達は用事を終えるとそそくさとギルドから出て行ってしまっていた。


 だが、ガルゴはそれを気にせず大声で話を続けている。


「あの腰抜けを採用していたギルマスもよく分かんねぇよなぁ! 幼馴染なんだっけかあ? 情だけで採用してるんじゃあ、あの嬢ちゃんも親の七光りだったってことだぁな! 信頼してるやつが不正してるなんてよぉ!」


 話がギルドマスター『アルフィン』にまで飛び火しそうになったとき、彼らをおだてあげていた魔法使いが首を傾げて疑問を口にした。


「でもでもぉ、ギルドランクを不正で上げることって、本当にできるのぉ? どうやっているのかしら。許せないわねぇ」

「ああ、許せないな!」


 そこで、ギルドマスター代理であるガルゴが得意げにギルドランクについてを講釈し始めた。


 ギルドランクというものは、依頼を達成するとギルド側から払われる『ギルドポイント』の総数によって上がっていく。


 難易度の高い依頼を達成すれば、それだけ大量のポイントが入り、一定のポイントに達すればEランクから徐々に上がり、D、C、B、A、そして最高峰のSランクに到達することができるのだ。


 もちろん、Sランクになるには相当な数の依頼をこなし、高難易度の魔物を倒さなければならない。


 しかし、このギルドポイント制には穴があった。

 依頼を受けたパーティ単位でポイントが入ってきてしまうのである。

 故に、なんの活躍もしていないものも、優秀なパーティにさえ入っていればランクは徐々に上がっていくのだ。


「これを、俗に『寄生式ランク上げ』って言われてるぜ。これをやってるやつのことは『ヤドリギ』なんて呼びかたもする。あの野郎も多分ヤドリギだったんだろうな」

「やだー、こわーい!」


 ギルドマスター代理は真剣な顔で考察している。

 複数のパーティから「役立たずでなにもしなかった」という証言が入っているため、そう判断したのだ。


 確かに、ノアはパーティ単位では上手くやれない人間である。

 ただし、ガルゴはひとつだけ見落としていた。自身で言っておいて、忘れている事実があった。


 それは、ノアが『ソロでSランクになった』冒険者であることだ。

 しかしこの事実を思い出したとしても、ガルゴは頑なに「なにか小細工をしたんだろう」で済ませてしまう。


 彼は、己の目で見たものしか信じられないのだ。


「で、ガルゴの旦那ー! いや、ギルドマスター代理! ノアが受けてた依頼どうしますか? まだいくつか残ってますよね?」

「あー、それか。ちょっと見せてみろ」

「へーい!」


 小柄な男が依頼書のコピーを彼にわたす。

 ギルドマスターが管理している、受注済み依頼の写し書きである。本体はノアが持っていて、達成した際に二枚をまとめて魔法の印をつけるのだが……ノアが置いて行かなかったため、今はコピーのみが存在する。




【盲目のバジリスク 討伐】


 アルマ大湿原東にて、二十メートル級のバジリスクを発見。討伐に乗り出したが、惜しくも取り逃し境を越えてしまった。


 現在はアルマ大湿原西に潜んでいると思われる。こちらのギルドの管轄地区から離れてしまったため、そちらのギルドに討伐をお願いしたく存じます。


 備考 バジリスクの瞳は両眼とも剣で突かれて失明しています。




 依頼書を読んでガルゴは「なんだぁ?」と声を出す。


「あの臆病者、手負いの魔物の依頼ばっか受けてやがったのかぁ? しかも、バジリスクはそれなりに高ランクの魔物だよなぁ。簡単に高ランクの魔物を殺せて、ポイントも貯まる。なるほど、これも利用してやがったのか」


 それから納得したように頷き、依頼書を持ってきた小柄な男に「おい、準備しろ」と伝えた。


「あいつの残した依頼は俺直々に片付けて来よう。他のやつらに迷惑かけられねぇからなぁ! ま、手負いの毒蛇一匹だけだ。失明してるんじゃ石化の魔眼も意味がなくなっているだろうしな」


 一拍置いて、しかし彼は顎髭をさすりながら思案する。


「だが、念のため武器防具はピカピカに磨いとけ! 鏡みてーにな! 魔眼の効果はもう消えてるだろうが、万が一のことがある。用意は周到にするぞ!」

「応!」


 酒場で再びグラスのぶつかる音が響き渡る。

 先に勝利の祝杯を! そう言わんばかりに。



 この出来事は、ちょうどノアがゴブリンと対峙している時間帯に起こったことであった。


 ギルドマスター代理達は知らない。

 なぜ手負いのバジリスク討伐依頼が彼に回されていたのかを。


 その危険度、死亡率があり得ないほどに高いということを。

 それがどんなことを招くのかを。


 ◇


「じゃあ、ワタシィ、ちょっと用事があるから先にあがりますわねぇ?」

「おう、リリンちゃんもう行くのか? あんたに格好いいところを見せてやりたかったんだが残念だなぁ!」

「あははっ、ワタシも残念だわぁ。でもでも、リリン応援してるから! ギルマス代理さん、頑張って!」

「ああ!」


 そう言って、魔法使いリリンだけがギルドの外へ去っていく。

 その口元は……なぜだか、吊り上っていた。


「ノアくんは今頃ピンチかしらぁ。うふふ、追放させてぇ、ピンチのところをワタシが助けてぇ……惚れてもらってぇ、それでいっぱいお金をむしりとってあげなくちゃねぇ?」


 消音魔法を用いながら、ルージュを乗せた唇を歪める彼女。

 魔法使い……否、『詐欺師』リリンは蠱惑(こわく)的な表情をしながら妄想にふける。


 今度はどんな宝石を買おうかしら、と。


 けれど彼女は知らない。

 己が陥れ、ハメた男がどれほど強いのかを。


「ま、いなかったらぁ……そのときはアレミアス水晶洞窟から国境を越えて逃げるだけだけどねぇ〜?」


 彼女は知らない。

 因果応報というものは、どれだけ逃げても振り切れるものではないと。

因果応報の度合いはそれぞれで違ったり。

それから感想をくださった人達、本当にありがとうございます! 特にずっと私の作品を応援してくださっているかた達! ありがとう!


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