命の危険がなくて遊びながらできる仕事って最高!
「いやあ、アルフィンはいつも悪いなあ。あんたがめげずにオレを送り出してくれるから、オレすっげー頑張れるしさあ。ギルマスとしての手腕だってすげーんだ。いつも隣にいるオレが断言するよ。アルフィンはこの世で最高のギルマスだって! いつもありがとなぁ」
「あり、がと……うう、これだから嫌だって言ったのにぃ……!」
あれ? なんでアルフィンは俯いてるんだろう? 落ち込んでるのか? 今回のことが落ち度になっちまうからか? 協会の連中にまーたネチネチ言われてんのかな。
気になって顎の下に指をそっと添え、くいっとあげる。あれ、涙目だ。誰だよこの子を泣かせたのは。オレの幼馴染を泣かせるやつは万死に値するんだからな!
「よしよし、大丈夫だ。アルフィンのことは、ちゃんとオレが守るからさ。塞ぎ込んだり溜め込んでばかりいないでオレにぶちまけてくれよな」
「も、もう勘弁してちょうだいよぉ……」
あれ、今度は顔まで覆ってしまった。うーん? なんでだろう。
「んぐ、ガルゴ、パス!」
「はあ!?」
アルフィンに腕を掴まれたと思ったら、いつのまにか目の前にガルゴのおっさんがいた。んー、そうだ、おっさんも頑張ったんだから褒めてあげないと。
「あんたも頑張ったよなぁ。あんなやべー事態になったのは、確かにあんたの責任だけどさぁ、あそこで逃げずに立ち向かったんだから大したモンだよ本当。オレなら漏らしちまってたね! あっはっはっはっ!」
「お、おう。いやテメー、強いんだからそんなことにはならんだろ」
思わずその言葉にキョトンとする。
「いやいやいや、オレだってこえーモンはこえーから! それでも頑張るのが兄貴ってもんだからな。照れるじゃん……」
チラッとユラを見ると、微笑ましげにオレを見ていた。
もういっぱいグラスに入ったお酒を飲んで、目を細める。
「んー、いや、でもやっぱりガルゴは格好いいよ。あんな状況で馬鹿な部下を守れるんだからさ。いい子、いい子」
「や、やめろぉ!!」
おっさんの寂しい頭を撫でてやるとすげー拒否された。
いいじゃんいいじゃん、こんなでっけー体しててさ、普段絶対人に甘えたり褒められたりすることなんてないだろ。こえー顔してるから余計にさ。人から近寄られないだろうし。こいつ一人っ子っぽいしなあ。
「泣き上戸ではなく褒め上戸……か?」
「んー?」
「ね? あんまり褒めてくるから恥ずかしいのよ。こっちが照れてもうやめてって言ってもやめてくれないし……」
んあー、なんかアルフィンが言ってる。
なんとなく、眠くなって来たような……酒がまわっちまったかなあ。度数高めのやつ五杯めで酔うってことは、多少酒には強いってことだよな。
「もう、一口でこうなるくらい弱いのにお酒なんて飲むから……ユラちゃんは毎日こんな感じで辛くない?」
「えっと……兄さんはいつも優しくて格好良くてすごいですよ……?」
「なるほど、兄妹ね」
だんだん眠く……なってきた。
「ユラちゃん、まだ冒険者の基礎学があるからちょっと退席しちゃいましょうか。ご飯は食べられたでしょう?」
「はい! 村ではこんなにたくさん食べられませんから、嬉しいです!」
「……もっといっぱい食べさせてあげますからね。隣の部屋に移るから、好きなものを持っていってちょうだい!」
「いいんですか! ならデザートを少しいただきます!」
「いいのよ〜」
ん? ユラは別室移動か。そうか、まだ冒険者に渡される魔導具の使い方とか知らないもんな。その辺の基礎は普通、空いている人材が教えるもんだからオレが教えようと思ってたけど、アルフィンが直々に教えてくれるんなら間違いないだろう。
「さて、そろそろレビン、よろしく頼むわよ。消音かけておくから」
「あーイ」
ユラ達が別室に移って、扉が閉まる。
あれ? 今なんて言って。
「うぼあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
金色の電撃が迸り、オレの視界を焼いた。
「オレの脳みそを沸騰させる気かぁぁぁぁ!?」
全身から煙が上がる。おっさんは突然の電撃に驚いたのか、思いっきりグラスを倒してあわあわしていた。
っていうかなに!? なんなの!? なんで今! オレ攻撃されたの!? それも自分のペットに!! なんでアルフィンの言うこときいて飼い主のオレを電気で焼こうとしたの!?
「レビイイイン! お前オレのペットだろ!? なんでオレを殺そうとするの!?」
「おハよー、ノア」
「あ、おはよう……っじゃなくってさあ!?」
ぎゃーぎゃーわめきつつ、テーブルの上で逃げ回る黄色い蜘蛛を掴もうとする。けど華麗に逃げ回るレビンは全部回避し、ついにはオレの髪の後ろにくっついて、髪飾りモードに戻りやがった!
「くそっ、取れない……!」
「おマえ、体硬イよナぁ」
「うるせええええ! 余計なお世話だこんちくしょう!」
あっ、素になってた! と思ったらユラがいない!? なんで!?
「そうそう、言い忘れていたことがあるのよ」
「アルフィン! ぜってー許さねーからな!?」
「あら、ユラちゃんにお兄ちゃんの汚い叫び声を聞かせるのはよくないと思って、わざわざ別室に移動させて消音までしてあげたのにそんなことを私に言っていいのかしら?」
「ありがとうございます!!!!」
めっちゃ配慮してくれてた!?
そういうところは本当に助かるよ!! よっ、有能幼馴染み!!!!
「それはそれとして、ユラちゃんを待たせているから手短に言うけれど……ノア。あなたに頼みたいことがあるの」
「オレにぃ? また面倒な依頼とかだったらやめろよ。しばらくは神経使うようなやつしたくないんだよ」
休暇もなしでアレコレ言いつけられてるからな。このクソ上司め。デレたら許されると思うなよ???
「あのね、今回みたいに地下電糸網を利用した犯罪が増えているのよ。あのリリンちゃんも、そしてガルゴも匿名の言葉に踊らされてあなたの疑いを深めたらしいわ。リリンちゃんは、旅に出ちゃったみたいだから本人から聞けてはいないのだけれど」
ん、リリン? って、確かあの……爆乳で旅の魔法使いだとかなんとか名乗って滞在してた子だよな。闇属性魔法の使い手で、結構有能だった覚えがある。
「あー、確か、オレが宿屋にいるときに東門から出て行ってたな。記帳していったみたいだから、多分国外行きかな? あの子も気まぐれなもんだ。猫みてー」
「そうね、彼女の旅の無事は祈るしかないけれど……今までも旅の魔法使いを続けていたのなら大丈夫でしょう。で、本題なのだけれど」
アルフィンから提示されたのは、オレに冒険者兼、研究室の一部門に所属してほしいというお願いだった。
いやいやいや、どっちもやるとか無理じゃんって言ったら、研究室のほうはオレ専用の部屋と部門を設けてコミュ力は必要ないとかなんとか。
研究室の連中も、最近は新人が入っているようだから、昔の顔馴染みはまだいるかも分からないし、そんな中で働くよりは一人きりの部門のほうが確かに楽だ。
「で、仕事内容はなんなの?」
「これはね、あなたにしかできないことなの。今、国中……いえ、世界中がネットで便利になった代わりに、匿名性を利用した犯罪が増加傾向にあるのよ。だから、あなたにはネット上の掲示板や配信の監視と管理、禁止ワードの設定なんかをしてもらいたいの」
ふうん、魔法陣を構築するようなもんだし、そういう研究は楽しいから別に構わない。要するに、過激思想に分類される言葉とかを設定しておいて、それだけ検出されるようにしておけばやべーやつを逆探知してブラックリストにぶち込んでおけるわけだ。
やべーやつらの取り締まり。
遊びながらでもできるし、危険な魔物退治に駆り出されるより遥かに楽しめそう。オレの得意分野なわけだしな。
「それと、追放案件も増えて来ているからそちらの監視も。追放されてスレ立て……とか、追放した側がスレ立てしたり、配信することもあるから、それをキャッチして解決に導いてほしいのよ。追放された子の保護も、それなら迅速にできるもの」
なるほどなるほど。
いや、え?
「やること増えてないですか??? まあいいけど。あ、でもおっさんはしばらく謹慎処分なんだろ? ちょっと借りていい? やっぱりこういうのって人手がほしいし。あとアルフィン、お前も顔出してくれ。おっさんと二人きりは無理」
「はぁ!? なんで巻き込まれた俺が文句を言われなきゃなんねぇんだ!」
おっさんに関しては実戦に制限が入るし、こういう案件に関わってちゃんと考えることを覚えてくれないとね。あとは男同士二人っきりは無理なので早急に女の子を増やしたいところ。アルフィンはギルマスの仕事があるからずっとはいれねーし。
ユラ? ユラに叫びっぱなしのオレを見せられるとでも???
「ユラの最初の冒険とかにはオレが保護者としてついていくよ。教えんのはオレがやる。まあ、パパッと魔法陣構築して自動で必要そうな案件だけ出せるようにしとくから、あとは人材の確保かなぁ」
「あなた……簡単そうに言うけれど、それって普通の研究者なら年単位で構築する魔法術式だからね? 分かっているのかしら……それに、せっかく一人でできる環境をあげたのに」
「いや、過労で死ぬからね??? 人材に関しては自分でどうにか探すけど、そっちでも見繕うのをよろしく。あと、術式に引っかかったやつへの嫌がらせ方法とか組んでおくわ」
「はいはい、いろいろと言いたいことはあるけれど……分かったわ」
さて、これからは掲示板と配信の監視か。
まー、ちょちょっと楽ーにやりましょうね。命の危険がなくて遊びながらできる仕事って最高! 万歳!
まずは、オレを嵌めたのがどこぞの野郎か先に過去スレ漁って逆探知だなぁ。
……
…………
………………
あれ、このIDってリリンちゃん……?
あー、まあ、アルフィン達に伝えるようなことではないかな。知らないほうが世の中幸せなことってあるだろうし。
お、冒険者ギルドの怖い話とかあるんだ。ちょっと覗きながら仕事しよっと。
おばけは無理だけど、他人の怖い話見る分には好きだからね。仕方ないね。
オレほどになれば端末なんてなくても、いくつものスレを監視することが可能である。だから片方で遊びつつ術式を構築して張り巡らすのも簡単よ!
そうして、イヤリングなしで電糸の世界へ意識を沈めていったのだった。
次の投稿は夜8時。
次でラストです! ひとまず次で完結にしておいて、続きが思い浮かんだら、また書きためて投稿〜ってしていこうと思います。




