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――そして、帰るべき場所へ

 さっきの地獄絵図はなかった。いいね? 


『お前の生き恥もギルド中に配信されてたわけだが』


 ピンと電気信号(コメント)を受け取って「うるせーよ」と呟く。


『いやー、まさかガルゴさんがやらかすとはなあ』

『まあ、まだ若いんだし仕方ないんじゃね?』

『ノアとギルマスはもっと若いじゃん』


 は、若い? あのガルゴのおっさんが? 

 オレは二十だし、アルフィンも二十二だから、ギルドのトップになるには若すぎるくらいだけど、あのおっさんが若いってのはないでしょ! 筋肉モリモリマッチョマンだぞ? くっそ暑苦しい鎧着て髭生やして頭の毛だって寂しいくらいなのに! 


「で、あんた何歳なの?」

「テメェ……遠慮なくなったな」


 石化していた人間を、グレイハーブという草を煎じて作った石化解除薬で復活させていきながら、おっさんが振り返った。

 まあ、オレのほうが冒険者としては格が上ですし? 当たり前と言うか? 先輩なのも間違いないというか? 


 そんな風にイキり散らしながら石毒蛇王(バジリスク)の身体を解体していく。売るにしても部位ごとに解体しておかないと街に持ち帰れないからね。こういうのは死後硬直で体が硬くなる前に解体しておかないと面倒だ。


「俺ぁ、二十六歳だよ」

「へー、やっぱりおっさ……はあ!?」


 二十六ぅ!? この顔で!? いや失礼かもしれないけどこの筋肉と体と顔と性格で二十六!? 


『いや全部じゃん』


「うっそ声に出てた!? いやいやいや、でも嘘だろ!? あんたその強面とか風格で二十六はねーよ!! オレを舐めてるからって嘘つかないでくれますぅ!? どう見てもテメェ四十超えの顔面だろうが!」


『いや失礼すぎるだろ』

『こんなんおハーブ生えますわwww』

『ハーブに草生やすな』


 勢いで思ったことを全部言い散らかしてから気がついた。

 あっ、すごい青筋浮かんでる。めっちゃビキビキしてるじゃん。これ死んだな。きゅって首締められてしめやかに爆散するやつだな。『しめ』だけに。HAHAHA!! 


「……早く終わらせんぞ」

「え!? 手を出してこない!? あの凶暴なガルゴが!? 天変地異の前触れですか!?」


『煽る煽るぅw』

『本当にお前さっきのやつと同一人物か?』

『せっかく格上だって分かって自重してるのにおっさんかわいそうwww』

『お前のその煽り芸なんなんwww』


 どうでもいいけどコメントがうるせええええ! 

 オレ、端末見てなくても地面から発せられてる電気信号だけでなに言ってるか分かっちゃうから脳の情報処理がときどき追いつかなくなりそうなんだよな。知恵熱出そう……でも、まだ密林の中だし魔物が出たら困るんだよね。


 こんな阿鼻叫喚の状態だったけど、誰も死んでないから油断せずに警戒しながら帰りたいんだよ。依頼は帰り道まで依頼です。


「外野うるせーよ。感知漏れしたらどうすんだコラ」


 テキパキ二十メートル級の蛇を解体し終わって、運びやすいようにしてから剣を振るう。あー、脂でギトギトじゃん……オレの相棒可哀想に。ちゃんと磨いてやるからな〜。


 コメントとたわむれながらそうやって作業を終えたら、ガルゴが不思議そうな顔でこっちを向いていた。


「お前、さっきからなにと喋ってんだ?」

「ぴゃっ!? なになになに!? 幽霊でもいるって!? やめてよそういうの! ゴースト系とか幽霊族ってほとんど感知に引っかからないし、剣が効かないから嫌いなの! え? え? どこにいる? オレなにと喋ってたの!?」


 幽霊って電波が乱れるから、なんとなくそこにいるのかなってのは分かるんだけど、具体的に電気信号発する体が皆無だから感知しづらいんだよね! オレが唯一感知漏れするとしたらゴースト系しかいない。あとあいつらときどき電気信号の規則制を超えて意味不明な動きするから無理! 生理的に無理なの! 大っ嫌い! 


 怯えて泣きながらガルゴの後ろに回る。

 それから周りをキョロキョロ見回していると、ガルゴの野郎に首根っこを掴まれてポイッと捨てられた。ひどくない!? あ、でもお前に接近してるのはなんか嫌だから別にいいや! 


『あれ、そういや端末投げ捨てたまんまじゃね?』

『あー、ガルゴの旦那達がピンチになって、確か冒険者端末は地面の上か』

『え? むしろノアはどうやって俺らと会話してんの?』


 あ。

 そうか、そういえばそうだったな。普通は電気信号拾ってコメントを脳内に映し出したりできないわ。そりゃコメントとお喋りしてたらガルゴのおっさんには意味不明に映るよね。ごめん、オカルトもどきなことしてたのはオレのほうだった。


「お、オレ……すごい、から……見えるっていうか……」

「幽霊が?」


 いぶかしげな顔をされた。ちがーう! 


『すごい(感知範囲だ)から(電気信号で送られてくるコメントが)見えるっていうか』


 です!! 言葉が! 足りない! 

 落ち着け落ち着け。言葉を話そう。ちゃんと話そう。言語で語り合わなければ。OK? OK! 


「……オレ、雷属性の親和性が強くて、目に見えない電気信号も拾えちゃうんだよ。だから感知範囲もすごく広くて、んで、端末のコメントって地面の下にある地下電糸網(アンダーネット)から電気信号飛ばしてる形になるから……端末を通さなくても信号をキャッチしてなにコメントされてるのか分かるんだよ」

「要するにどういうことだ?」


 ああもう! これだから電気系統に弱いおっさんはよぉ!! 


「端末に映るコメントが、直接脳内に流れ込んで来て目に見える……みたいな感じ?」


 正直目の前がうるさい。

 配信やってると絶対に集中力切れるなこれ。でも必要な情報とか端末をわざわざ見なくても拾えるから便利っちゃ便利なんだよ。


「お前……本当にすごいやつだったんだな」

「うるせーやい、褒めるなよ。気持ち悪い」

「素直に褒めたらそれかよぉ。変なやつ。ま、見捨てずにいてくれてありがとうなぁ」


 ガルゴはそう言って、豪快に笑った。

 オレは思わずキョトンとしてしまう。だって、レインボーカードに傷がつくのが嫌っていうオレの勝手で助けたのに。『オレの名誉のために死ぬな』とか思って助けたのに。モヤモヤしちまう。


 だから。


「ちげーよ、オレはね。『レインボーカード所持者』なの。SSR冒険者なの。分かる? お前よりもよーっぽど格が上なの」


 依頼達成率100%のソロSランク級冒険者。

 そんなもの、冒険者ギルドでは都市伝説か噂話にでもあがるだけで『存在しないもの』もしくは、雲の上の存在。そんな風に思われている。


 それがオレであることを明かして、眉を寄せながら苦々しく説明した。


「レインボーカードの条件のひとつに『自分の受けた依頼で死者ゼロを三年維持する』っていうのがあるから、オレは助けたわけ。よりにもよってお前が引き継ぎの書類なしでここまで来たから、お前らが誰か一人でも死んでたら全部オレの責任になるし」


 素直に褒められるとなんだか気持ち悪い。

 今まで散々オレを見下してきたくせにさ、コメントでだってすぐに手のひらを翻してオレを称賛する。それが、気持ち悪い。


「だから感謝されるいわれなんてないの。全部オレの身勝手だから。お前を助けたくて助けたんじゃない。正式に依頼の引き継ぎがされていて、オレの責任にならなかったならお前なんか助けてやるもんか」


 そうだよ。アルフィンやオレのためじゃなかったら慈悲なんてかけてやるもんか。


「……いや、お前は多分それでも助けに来たと思うぜ」

「はあ?」

「この短い間でよく分かった。お前はそういうやつだよ」

「そうやって都合の良い言葉で丸め込むつもりかよ。だからお前みたいなやつ嫌いなんだっつの」

「ま、加害者の俺がなに言っても無駄か。すまん。だが、礼くらいは言わせてくれ。受け取ってくれなくてもいいからよ。ありがとうなぁ」

「あっそう……」


 聞くだけならまあいいけど。


「早くこれ運ぶぞ。妹が街で待ってんだよ」

「ああ、例の妹な。お前がそんだけ大切にしてるとなるとすっごいいい子なんだろうなぁ」

「んだよ、絶対によそ様には嫁にやらんぞ」


 ぶすっとしながら返すと、ガルゴはこれまた豪快に笑って言う。


「なんも言ってねーだろ! で、妹さんはなんでこっちにいるんだ? お前の実家、確か山奥だろ」

「……冒険者になりたいんだってさ」

「へえ、過保護なお前が認めるってことは実力はありそうなんだよな?」

「まあな」

「じゃあ歓迎会開かねぇとな」

「そりゃどうも」


 どっちにしろ、ユラがここでオレと一緒に冒険者になるって言ったから戻るしかなかったんだけど。まあこれなら……居心地は最悪ではないだろう。


 さっきの配信は、ギルド中の連中が見ていたのだろうし。

 こうして、オレ達は大量の素材を持って帰るべき場所――ギルド【炎帝青雷】へ戻ってきたのである。


 なお、素材は切り口以外ほとんど無傷だったため、めちゃくちゃ高値で売れることになった。


 ギルドの連中が全員集まって飲み食いする宴会が三回は開けるだろう額は、ギルド総合協会から帰ってきたアルフィンが全部持って来て盛大に使うことに。


 そして、ユラの冒険者登録祝いも兼ねてギルドをあげた大宴会が始まった。

石毒蛇王バジリスク

 Bランクの大型魔物。Bランクの冒険者が複数パーティ単位で挑み、ようやく安定して倒すことのできる魔物。


 成体の体長はおよそ、十メートルから二十メートル程度。二十メートル以上で大型と分類される。


 特徴は石化の魔眼と牙から滴る猛毒。石化の魔眼はこの大蛇の魔眼を直接『見てしまう』ことで発動する。


 猛毒は魔物の中でも上から数える方が早いほど強い毒で、かすればただでは済まない。パープルハーブと聖水による解毒薬でなければ、身体麻痺などの後遺症が残るほど。


 しかし鏡などの魔眼を反射してバジリスク本人に魔眼を見せることができたならば、石化の魔眼を逆に利用して退治することも可能。


 なお、盲目になってもバジリスクの魔眼は機能するうえ、鼻先のピット器官により温度感知ができるため、鏡で反射する対処法が効かなくなり実質弱点が皆無となる。


 そのため、バジリスクの目に呪いをかけることは悪手。

 盲目のバジリスクはAランクの魔物に分類される。その中でも、特に『視覚に頼らず』対処可能と判断される冒険者にしかこの依頼は斡旋されない。


(※モンハンのガララアジャラの通常サイズが40メートル)

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえずギルドのクソども並んで土下座でもしてみよっか?
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