間話 詐欺師の国外逃亡
「ああ、もう! どうして見つからないのよぉ!」
一人の女性魔法使いがバタバタと地面を踏み鳴らし、怒鳴り声をあげる。
普段の彼女――リリンを知る人物ならばひどく驚き、そしてその形相に恐れ慄いただろう。鬼の面でも被っているかのような、今にも人をとって食ってしまいそうな鬼女のごとき表情。
ギリギリと歯を鳴らす彼女は、普段の可憐で甘えたがりな姿とは似ても似つかない。しかし、暗い路地裏での行為は誰も見ていない。彼女も場所を選んで怒りを露わにしているため、それは幸いなことだった。
そんな魔法使いリリン。
「ノアくん、どこにいったのかしらぁ? 街道で右往左往しているか、街中で途方に暮れてると思ってたのになぁ……? 本当に帰っちゃったのかしら」
いや、詐欺師リリンは獲物として見定めていた『ノア・レルヴィン』を見失い、困っていた。
「もう! あのおっさん共のせいね! あー気持ち悪い……ギルマス代理はまだ若いほうだから我慢できるけど、太もも触ってきたやつ〜! お金ふんだくってくればよかったわぁ! テメェの女じゃねーっての!」
そう、ガルゴらに媚を売ってノアを陥れるように誘導していた彼女は、彼らが上機嫌で会話をして引き留めてくるため、席を立つのが遅くなってしまったのだ。
「こうなるんだったら、すぐに出てくるんだった! あーん、ワタシの宝石代が〜! ……でも、いないんじゃしょうがないわね。追跡魔法はワタシ使えないしぃ」
彼女は頭を抱えて爪を噛む。よほど不満だったらしい。
「でも掲示板で証拠を捏造したり、嘘の噂をばら撒いてノアくんを追い詰めちゃったわけだし、バレるのも時間の問題かしら〜? また移動しないと!」
そしてリリンは路地裏から出ると、真っ直ぐと東の大門まで歩いて行く。
もうこの街にいる必要はない。そう考えて。
彼女の頭にある言葉は『国外逃亡』それだけである。
こうして、リリンは街の門で国外へ出ると記帳して出て行った。
ノアが宿屋で見た場面はこのときのことである。
「ここから近い国は〜、やっぱりアレミアス水晶洞窟から出るのが一番ね〜?」
そして『ソロ』で彼女は水晶洞窟へと向かう。
そこになにが待ち受けているかも知らずに。
その後、詐欺師リリンを見たものは……誰もいないという。
水晶洞窟にはなにがいましたっけ^^




