ビビるなら追放? なら今からお前ら全員オレの妹な!(自己暗示)
「お、お前……ノア……か?」
背後でギルマス代理が呟く。
目は瞑っているけど、イヤリングは取ってるし、この場にある電波状況――なんなら地面から放たれる電気信号に乗せられた『コメント』さえ、オレの暗闇の視界の中で文字列として認識できるくらいだ。
そんなオレに向けられて伝わってくる、ギルマス代理の電気信号。その全てが『驚き』とわずかな『希望』、そして『希望』から転じて『落胆』を表している。
って、いや失礼だなこの野郎!?
確かにオレは頼りないかもしれないけどさぁ! 舐められてるのは分かってるけどさぁ! こんなに格好良く助けてるのにそういう認識されちゃうとか普通に嫌なんですけどおおおお!!
「いいからおっさんは黙って下がってくれない!? それにあいつらも解放してやんなきゃいけないし!」
「いや、お前が来たとしてもなぁ」
「やかましいいいわああああ!! さっきの見たでしょ!? とりあえずオレがあいつを引き離すから捕まってる奴ら救出してくださいっての!」
なお、目を瞑ったまましてる会話である。
バジリスクが片目を貫かれて悶え苦しんでいる間にさっさと退場してほしいんですけど!!
あいつ悶えてるくせに尻尾で囲いこんだ獲物は逃さないようにガッチリガードしてやがるから、さっさとどうにかしないと捕まえた獲物食い始めるかもしれないんですよ!
「あのねぇ! 盲目のバジリスクは魔眼はなくならないし、鼻先にあるピット器官ってやつでオレ達の温度が見えてるの! だから盲目でも正確に追尾してくるわけ! 目が見えなくても周囲を『視る』力がないと対処不可能なの! 分かる!? 理解できる!? お前にそれができるわけ!?」
捲したてるように言ってやると、ギルマス代理は目を白黒させてオレを見上げる。さっきの死ぬかもしれない状況で失禁してないだけすげーと思うけどさあ! 泣きながら特攻していかないといけないオレを労って! お願いだから!
「あとついでに言っておくけどさあ! ギルマスからの忠告を聞かないとかお前どんだけ偉くなったの!? ちゃんとギルマスは危ない依頼は危ないって言うよね!? しかも懇切丁寧に説明もしてくれるのに! そんなギルマスがオレにしか対処できないからって寄越してきた依頼をさあああ! 勝手に始めるとかなんなの!?」
ここぞとばかりに喚き散らしてロングソードに雷を纏う。
お前らも鼓膜を破られる苦しみを味わいやがれ!
「ギルマス代理のくせに依頼の引き継ぎ処理もなしに勝手にバジリスク討伐しに来るとかどういうこと!? あのねぇ!! お前らが一人でも死んだらオレの責任になるんだよぶぁぁぁぁぁぁか!!」
この事実にコメントがざわつきはじめるのが手に取るように分かった。
地面から端末に集まってくる電気信号が脳内で言葉として浮かび上がる。
そのほとんどは、ろくに引き継ぎ作業をしていなかったギルマス代理への純粋な非難。こいつら手のひらくるっくるだな!?
あとはオレに任せていいのかと不安視する言葉が複数。
いやさっきの格好いい登場見てなかったの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?
「うへえええ、バジリスクがこっち睨んでるうううう。こわ! こっわ! 毒まで滴ってるよ怖いよマジで! 当たったら死ぬうううう!」
「いやそんなこと言ってるからテメェのことを信用できねぇんじゃねえか!」
「うるせえええええ! 実力があっても怖いもんは怖いんだよばああああか!」
蛇がでかい図体を伸ばしてオレを丸飲みにしようとしてくる。
落ちてくる毒液は地面を溶かすし、オレが咄嗟に蹴り転がしたガルゴのおっさんは呆然としていて役には立たない。
ここにいる人はオレを守ってくれるような人達じゃない。
オレが守らないといけないような人達だ。
でも、こいつらはオレを追い出そうとした悪いやつだ。
アルフィンのことだって内心馬鹿にしてるし、オレのことはもっと馬鹿にしてる。
こんなやつら、守らなくてもよくない?
そんな気持ちが湧き上がってくる。
だってオレに嫌なこと言う奴らだよ?
死んでくれたほうがすごくスッとするかもしれない。
……んなわけないじゃん!
目の前で死なれたらグロいしエグいし、依頼は失敗扱いで死者も出るからオレのレインボーカードに傷がつく!
でもそれ以上に!
さっき見ちゃったからな。
ガルゴのおっさんが、部下を必死に守ろうとするところ。
確かにさ、あそこで部下を見殺しにするような真性のクズだったら、オレも少しは痛ぶられとけよって思うかもしれない。
でもさ! こいつ、根本的に馬鹿で頭の中身が足りないだけで部下を守ろうと思う優しさはあるわけだよ! オレを追放しようとしたのだって、結局はネット上の詐欺師に踊らされただけって可能性が高いんだし!
というかオレだって、ろくに仕事しないで泣き叫んでばっかのやつがいたら「お前冒険者向いてないよ。危ないから帰んな」ってなると思うし!
つまりはだ。
今、現在進行形でもってオレは怖くて怖くて怖くて膝も震えるくらいだけど、実力的にはオレしかこの場に対処できない。
オレしか守ってあげられない!
だから。
『でもビビってんじゃん』
『いやでもさ、無能って言われてたのになんかすごいよね』
『膝が震えてますが……』
『もしかしたら助かるかもしれないんだよ!? 応援してあげようよ!』
『実力あるならお願い……助けてあげて』
『俺も悪かったよ。お願い、ガルゴさんには恩があるんだ! 次に会うのが死体か遺品だったら泣いちまうよ!』
「分かってるよ、無能のくせにって思ってるでしょ? 分かってるんだよそんなの! なら、なら無能でもビビリでもないところを見せてやるよ! オレって本当は格好いいんだぜ!?」
妹の前だけだけどな!
だからね?
「ビビるなら追放? 上等だよぶぁぁぁぁぁぁか! 今からすごいところ見せてやるよ! だから今からお前ら全員オレの妹な!」
「は?」
この場にいる全員妹のユラだと思えば格好良く決められるよね?
はい、自己暗示のお時間です!
玉飴鳩が雷矢食らったような顔してるおっさん共はここにいない! 全員!! 妹!! はい!! パラダイス!! はい!! 頭おかしい!!
あ、やべ正気に戻っちゃダメだ。
集中しろ集中!
「は?」
「うるせええええええ!」←お前がうるさい定期。




