死なれたらオレが困るんですけどぉ!?
そして数分後、またアルフィンから通信が入って軽率に端末を耳に当てた。
「ノアアアアア! 今すぐっ」
ブチッ。
あー、鼓膜さん。酷使してごめんなさいね。
あの女……オレも間近で叫んで鼓膜ぶち破ってやろうか。
あたたかい光で耳元が包み込まれ、鼓膜が回復する。肩の上でレビンが呆れた顔で顔を掻いていた。お前……のんきだね……オレが鼓膜破られまくってる間にさ……というかなんでお前だけ無事なの??
「ごめんなさい〜! でも今すぐにうちのギルドの配信枠見て! 至急! 至急よ! そうしたら、すぐ現場に向かって! 見れば分かるわ! 今度私にできることなら、なんでもお詫びするから! お願い! 早く!」
「言質とったからね……」
「う、うん!」
ふーん、なんでも。なんでもかあ……まあ、あいつがこんだけ焦るってことはなんかヤバイことになってんだろうなあ。
嫌だなあ……と思いながら通信を切って、ギルド『炎帝青雷』のコミュニティから配信されている動画を確認。
今はひとつだけか……って。
【ガルゴ様が行く盲目のバジリスク討伐配信】
ギルマス代理じゃん!? あいつなにやってんの!?
え、待って。さっきアルフィンが言っていた通りなら、あの代理も『盲目のバジリスク』について知らないんじゃ!?
配信画面を選択して視聴を開始。
その瞬間、オレは反射的に走り出していた。
『オラァ、見やがれ野郎ども! 大盾も剣も鎧もピッカピカに磨き上げて来たぜェ!』
『ヒュー! さすがガルゴさん! 盲目のバジリスク相手でも油断せずに対策してくるなんて、慎重派だぜー!』
『よっ! 豪傑!』
『はっはっはっ! バジリスクの魔眼を見ると石化しちまう。だが、鏡のような武器や防具を用意してりゃ問題ねぇ! やつが自滅しちまうからなァ! 今回は対象が盲目だから、もしかしたら魔眼の効果が消えてるかもしれねーが、そうしたらもっと楽勝で殺せるだろうよ!』
『さて、そろそろバジリスクの目撃情報があった湿地ですけど……』
馬鹿なの!? 死にたいの!?
バジリスクはなぁ! 視力を失っても魔眼の効果は失わないの!
「あれ、お兄ちゃん!?」
「ごめんユラ! ちょっと急用ができた! ここで待っててくれ!」
「待っ」
宿屋の階段を駆け下りて街中へ。
『お、いたいた。ほらほらこっち向けぇ』
『ははっ、これで楽に――』
『は? おい……んだよ、やっぱ魔眼は消えてないのな。馬鹿どもめぇ……おい、誰か石化を解く薬を――は!?』
『な、なんでだ!? どうしてだ!? 見えないはずなのにどうしてこっちに来るんだよ!?』
『が、ガルゴの旦那ぁ!』
『い、一旦退けー! 目を見るな!』
ほらああああ! 言わんこっちゃない!!
バジリスクは目が見えなくても鼻にあるピット器官で温度を感知してるから、見えなくてもなんにも問題なく動けるんだよ!
バジリスクの魔眼はね! 『魔眼を直接見た』相手に作用するから、鏡で対策すればいいって弱点が! 盲目状態だと完全に消えちゃうんだよ!!
冒険者側は魔眼の対策も取れない! なのに向こうは正確に位置を特定して、猛毒の牙と太い蛇の身体で襲ってくる!!
蛇だからな!! 丸飲みしてくるぞ!!
しかも今回依頼があったのは二十メートル級のくっっっそでかい蛇!! 丸太みたいな胴体をしているうえに石化の魔眼があって、その牙には猛毒すらあるわけだから完封できないなら本当にやべー相手なんだよ!!
弱点が消えたバジリスクは『目で見る以外に感知』できないと、そう!! そもそも勝負にすらならない!!
オレなら周囲に流れる目に見えない電流と、生き物なら必ず流れている身体の電気信号で目ぇ、つむってても倒せるけどな!!
ぷちん、ぷちん。雷の形をしたイヤリングをはずして足に集中。
次の瞬間、ドンッという音と一緒に高速で走り出した。青い雷が足元からバチバチと音を立てて迸り、地面に盛大にえぐれた跡を残しながら湿地帯へ!
石畳台無しにしてごめんねえええええ!?
でもこうしないと絶対間に合わないからああああ!!
あとで絶対直すから請求はギルドによろしくううううう!!
『ど、毒が!』
『ばか! やめろ目を開くな!』
『うわああああ!!』
はあああああ、キレそう!!
あいつらが弱すぎてキレそう!!
「ふざけんなあああああ!! 絶対に死ぬなよおおおおおお!?」
――せっかく今年の死亡者ゼロになりそうだったのに!!
死なせてたまるかよ!!
正直ざまぁみろだけど死なれたらっ、オレがっ!! 困るの!!
しかもオレの受けた依頼のままだから、死なれたらレインボーカードじゃなくなっちゃうし!! 最悪かよ!!
だからなあ!!
オレの名誉のために死ぬなやゴラァァァァァ!!
本日の投稿はここまで。
明日はお昼の12時辺りに投稿予定です。




