マーガレット⑤
「おい、もういいぞ。」
二人が出て言ってしばらくし、リオンがそう言った。
「…本当?」
私はあたりを伺いながら魔法を解いた。
「…壁が消えた」
老人がぽつりとつぶやいた。
「大丈夫ですか?」
私は抱き寄せるようにして肩を支えていた人物に声をかけた。
隊員たちが部屋に入ってくる前に、この人物と私の前に壁があるように幻覚を見せる魔法をかけていたのだ。
「ウウ…」
手を放すと、その人物をすっぽりと覆っていたシーツがはらりと落ちた。
「あっ」
「見逃して下せえ!」
私が目を見開くと同時に、老人が床に頭をこすりつけるように土下座した。
「見逃して下せえ!お願いします!」
「あなたは…」
目の前にうずくまっていたのは、やせ衰えて毛が抜けかかった、人の形をした獣だった。
「ミ、見ないで…」
低いうなり声と共に発せられたのは、女性の声だった。
女性は、自分の体を隠すように身を縮こませた。
「リオン…」
リオンの方を見ると、リオンは無表情で女性を見つめていた。
「瘴気にあてられるとこうなる。あなた方は隣の国から来たのでしょう?」
僧うと、老人は震えながらこくりと頷いた。
「隣の国って…確か瘴気が蔓延しかけてるって…」
「まだ一部だ。しかし深刻な問題になっている。人間が瘴気に当たり続けると、この女性のように姿が変わってしまう。」
「そうなの…」
私はブルブルと震える女性の手を取った。
女性はビクッと体を縮めた。
「安心してください。このことを誰かに言うつもりはありません。」
「ほ、本当?」
女性は恐る恐る顔をあげた。
人間のような、動物のような顔には、涙をいっぱいに浮かべた瞳があった。
(きれいな目だな)
不謹慎にも、ついそう考えてしまう。
「私が怖くないの?」
「え、なんでですか?」
「瘴気に当てられ姿を変えた者は、そのうち自我をなくし狂暴化すると言われている。前例がずっと昔のことで確かなことはわからないが。でも、変身した人達が見つかればただでは済まないのはどこの国でも同じだ。」
不思議に思う私に、リオンが説明した。
「そう言うことか…」
だからこの老人はあんな必死になっていたのだろう。
「でも、そしたらこれからどうしよう。いつまでも隠れているわけにはいかないよね。」
「ああそうだろうな。今回の騒ぎも加わって、見つかるのも時間の問題でしょう。」
「そ、そんな!」
老人の顔が青ざめる。
女性は少し考えた後、決心したように
「お二人とも、お願いです。この人を、父をどこか別の所へ逃がしてください。」
と言って頭を下げた。
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