ニゲラ②
路地裏で聞いた話が心に引っかかりつつも、私はアイルとリオンが待つ質屋へと向かった。
大通りから外れた道には、祭りの明かりから隠れるように、陰気な顔をした人々がちびちびと酒を飲んでいた。
そのような人々の中で、普段であれば私はひどく浮いて見えるだろう。しかし、走ってぐちゃぐちゃにほつれた髪に、転んで擦り切れた服を着て、何よりも疲れたようにも切迫したようにも見える表情をした私は、誰よりもこの路地になじんでるように感じた。
(心がまいってる時って、自然と明るさを嫌うのかもしれない…)
土気色の顔を下に向けて酒をなめる人々を見て冷静に分析している自分に、笑いが込み上げてくる。
(自分だってあの人たちと同じじゃん。)
自分で自分の状況を笑ってしまう。
少しして、見知った看板を建物越しに見つけた私は、渋々ながら大通りに足を向けた。
大通りに出た瞬間、両脇に並ぶ出店のまぶしすぎる明かりに目がくらむ。
互いを見失わない様、手をつなぎ通り過ぎていく親子や、腕を絡めて歩く女性たちと
すれ違う度に、体の中がすっと冷えていく。
仲間の一人が少しでも怪しく感じてしまうと、こんなにも心に余裕がなくなるのかと、自分の状況に卑屈になる。
(まあ、それも仕方ないのかな。)
もしリオンが裏切れば、アイルの気が変わってしまえば、フローやメアリさんが遠くに行ってしまったのなら、私は独りぼっちになってしまうのだから。
私には、いざというときに守ってくれる家族も、後ろ盾もいない。
(改めて考えると、結構ひどい状況なんだなあ。)
一気に気が重くなる。
しかし、ここでヘタな動きをするべきでないことくらい分かっていた。
リオンが裏切っていた場合、私はすぐにつかまり、殺されるだろう。
もし、裏切り者でないなら…
(リオンの信頼は、きっと、二度と戻っては来ない…)
私はぎゅっと服をつかんだ。
結局、真実を知るまでは何もできないのだから、これまで以上に慎重に行動するほかない。
「はあ…」
楽しい祭りの真ん中で、こんなにも憂鬱そうな顔をした客がいるだろうか。
質屋の裏口に着き扉を開けると、家の中はシーンと静まり返っていた。
本来であれば絶え間なく話し続けるアイルの声や、何かしらのものにぶつかる音、機械音などがしているものだが、何の音もしない。
(アイルまだ帰って来てないのかな。)
二階へと続く階段を見上げると、明かりがついているのが分かった。
どうやら帰って来てはいるようだ。
(アイルが静かなんて、珍しい…)
そう思いかけた途端、路地裏での出来事が蘇る。
私は後ろ手で扉を閉めると、階段を駆け上がった。
(まさか…)
明かりのついている部屋に飛び込んだ。
「アイルッ!!」
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