ニゲラ
「リオン・アリシャ。どうも、ククル村とかいう田舎から出てきたとかいう、魔法学校特待生様だよ。」
路地裏を飛び出し、人ごみをかき分けて走る私の頭に、さっきの男の言葉が何度もこだまする。
リオンは裏切者だった。
ショックで頭がうまく回らない。
楽しそうに行きかう人々であふれる祭り会場では、走っていても、進んでいないような感覚に襲われる。まるで時が止まっているかのようだ。
一体、いつから?
リオンを助けるために、蛇さんの力を借りた時だろうか。
私がモカちゃんを止める計画を打ち明けた時だろうか。
(それとも、初めからそのつもりで…?)
わざと魔力をなくすことで、私の同情を誘い、油断させる魂胆だったのだろうか。
「わっ」
あまり人通りのない道に出た途端、石畳に躓いて転倒してしまった。
「った…」
もろにぶつけた膝がジンジンと痛み、すぐには立ち上がることができない。
人に踏まれる心配もないため、半身を起こした姿勢で痛みが引くのをじっと待つ。
(…)
視界が鼓動に合わせ、グワングワンと揺れている感覚に陥る。
転んだ衝撃ではないだろう。
これまでのリオンの言葉、行動、態度から、いつ彼が裏切者になったのか必死に探し当てようと混乱する自分がいる一方で、ショックを受け混乱していると冷静に判断している自分もいる。
(……)
しかし、思い出せど思い出せど、リオンがいつから私を裏切っていたのか、まったく察しがつかない。
冷たい石畳を見つめていると、だんだんと視界の揺れが収まり、冷静な思考回路と共に、リオンと男たちの会話の記憶も戻ってきた。
あの時、リオンは私たちの詳しい居場所までは言わなかった。
報告書に書いてあることまではわからなかったが、アイルの店のことまでは書かれていないだろう。
そもそも、彼はどうして私がいる詳しい隠れ場所を言わず、情報を小出しにしているのだろうか。敵を撹乱させるためならば、もっと別の場所を言えばいいではないか。
それに、あの場所に来たリオンは、私の知るリオンとは異なる容姿をしていた。
(それさえも、嘘だったら?私たちに見せているあの姿が、本当のリオンではないのだとしたら…)
地面に座り込んだままの私に行きかう人々の視線が注がれているのを感じ、声をかけられる前に立ち去ろうとフラフラと立ち上がる。
(リオンが裏切っていたなんて…いや、でも…どうして―)
いや、決めつけるのはよくない。
彼には彼なりの事情があるのだろうと理解しようとする他方で、モクモクと湧き上がる彼への不信感を止めることができない。
私は、このまま彼を信じ続けて良いのだろうか。
(リオンが欺いているのは、一体どっちなの…)
もうすぐパレードが始まるというアナウンスが、遠くに聞こえた。
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ニゲラ:当惑・戸惑い・不屈の精神




