アンズ③
(直接付いていくよりも…)
私は手を包むように合わせ、声に出さずに呪文を念じた。
そっと手を開くと、手の上に小さなネズミが乗っていた。
(私の代わりに、お願いね。)
手の上から地面に下ろすと、ネズミは二人の近くにすっと走っていった。
(上手くいくかな。)
私は誰にも見えないよう、物陰にしゃがみ込んで目を閉じた。
意識を向け、ネズミから情報を得ようとするも、初めて使う魔法だからか、耳から聞こえる情報だけで、視覚情報が入ってこない。
(しょうがない。会話からだけでも何かわかれば…。)
二人が再び歩き出し、路地裏を歩くコツコツという音と、その後を追うネズミの足音が聞こえてくる。
かすかに入ってくる表通りの祭りの音のせいか、なぜか異様な緊張感が漂う。
雑音を立てないようにしばらく物陰で身を固くしていると、唯一聞こえていた足音が止み、それと同時にネズミの動きも止まったことが分かった。
(止まった)
音が一切入ってこなくなったせいで、なにも状況が分からなくなってしまった。
(目的地に着いた?つけてたのがバレた?わからない)
焦った私は視覚情報も得ようと、意識を集中させた。
(早く早く…!)
ぎゅっと目をつぶっていると、徐々に何かが見えてきた。
床だ。
瞼の裏には、ネズミを通して見た、路地裏の床がぼんやりと映っていた。
(成功した!)
見回してみると、そこは、心ばかりのランプが照らすだけの、暗い場所だった。どうやらどこかの店の裏口らしい。
先ほどの二人はその明かりに照らされるように並んで立っていた。
(よし。まだバレてないっぽい。)
そう安心していると、真後ろからコツコツコツと、もう一つ足音が聞こえてきた。
慌てて目を開き振り向くと、薄暗い裏口の様子が消え、そこには路地裏の隙間から見える祭りの様子が映し出された。
どうやら、足音は私の後ろではなく、ネズミの後ろから聞こえていたようだ。
(焦った…)
再びネズミの方に意識を向け、音がする方を向かせる。
やってきたのは、目深にフードをかぶった人物だった。下から見上げる形では、よく顔が見えない。
「遅かったな。」
男性が相手に呼びかけた。
「そちらがいきなり場所を変えたからでしょう。」
フードの人物は少し若い男性の声でそう答えた。聞いたことのない声だ。
「念には念を、ということだ。」
「…。」
しばらくの間、沈黙が流れる。
「一体何の用ですか。」
若い男性が突然切り出した。
「王家の隊員の方々が、こんな小さな町まで。」
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