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ヤリクサ

「うう…ルリ、なんか緊張してきちゃったよ…」


部屋の中をぐるぐると回りながら、アイルは今日何度目になるかわからない言葉を口にした。


「もう、アイル、大丈夫だって言ってるでしょ。」


私は鏡の奥で歩き回るアイルに声をかけた。


しかし、やはりまだ心配なのか、アイルは祈るように両手を握りしめている。


「でもさ…もし失敗しちゃったらどうしよう。この店の顔に泥を塗っちゃうよ!」


「もー大丈夫だって。ちゃんと直したし、リオンに洗浄魔法をかけてもらったんでしょ?」


鏡を見ながら髪に手を当て、呪文を唱える。

髪色が薄いヘーゼル色に変わった。

同じ要領で目の色も変えておく。


念のためだ。


「そうだけどさ~」


アイルは髪をグシグシとかき乱しながらまだ不安を口にしている。


「もう…」

ため息をつき、私は窓辺に寄って通りを見下ろした。


すっかり夜に包まれた通りには、まぶしいほどのランタンが色とりどりの旗を煌めかせていた。

その明かりの中を歩く人たちの表情も、これから行われる祭りを心待ちにしているようだった。


「リオンがちゃんと見てくれたんだから大丈夫。」


私はアイルの方を振り返って落ち着かせるようにそう言った。


シンバル機が暴走した後、パレードに出すために大急ぎで補修が行われた。


時間がないということで、リオンのシンバル機洗浄と並行で修理をするのは大変だった。


私は洗浄するリオンの水魔法が機械内に入り込まないように細かくバリアを張る係だったが、これが本当に神経を使う作業だった。

機械の中が想像以上に複雑で、バリアの形をその都度変形させる必要があったのだ。


(間に合わないから早くしないといけなかったし、リオンは指示が細かくてうるさいし…)


私は窓辺にぐったりと体を持たれかけた。思い出すだけで疲れが蘇ってくる。


「それにしても…リオン、遅いねえ。」


部屋の中を動き回るのをようやくやめたアイルが、私の後ろから窓の下を覗きこんだ。


「確かにそうだね。もうそろそろ帰って来てもいいころだと思うけど。」


私もアイルと一緒に窓の下の町を見下ろした。


パレードは町中を練り歩くため、出し物は全て街の端っこ一か所に集められるらしい。


(アイルじゃ心配だし、私は方向音痴だからリオンが行くことになったけど、段々心配になってきた。)


一応アイルから簡単な地図を書いてもらっていたが、あんな簡素な地図で辿り着けるのだろうか。

私は絶対に迷う自信があるけど。


「もしかして、リオンも本当は地図音痴だったんじゃ…」


「そりゃ大変だ!すぐに助けに行かないと!」


ぼそりと呟いた言葉を聞いて、慌ててドアに駆け寄るアイル。しかし、その瞬間、部屋の扉が開き真正面から衝突した。


「ぎゃ!」


顔面を抑えながら後ろに倒れるアイル。


「ったぁーー」


「だ、だいじょぶ…?」


「あ、ぁあ、平気平気…」


そう言いながら、地面に伸びたままだ。


(全然平気そうじゃないけど…)


「誰が地図音痴だ。」


仏頂面で入ってきたリオンは、顔を抑えて悶絶するアイルをまたいで部屋に入ってきた。


「遅かったね。」


「少し人ごみに手間取っただけだ。」


私の言葉に仏頂面のまま返したリオンは、窓の外をじっと覗き込んだ。




お読みいただきありがとうございます。


ヤリクサ:楽しい時間

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