パセリ③
床から起こされた自動シンバル機を見ると、頭に刺さった旗にこの店のマークが描かれている。
両手に持っている鉄の板はシンバルらしい。
「試運転ついでにリオンにも見せてあげようかなって…」
「そしたらこいつが、リモコンをあの下に蹴飛ばしたんだ。」
リオンの言葉に、アイルは申し訳なさそうに頭をかいた。
「それで暴走しちゃったんだ。」
「うん…僕の発明品じゃないし、もう何十年も前のものだから。」
たしかに、シンバル機の体は所々錆びついていた。
「アイルにも直せないの?」
「これはじいちゃ…先代の店長が作ったものなんだけど、すごく独特な構造をしてるんだ。設計図とか、あればよかったんだけれど―先代の店長は設計図作らない主義だから…」
「じいちゃん」とはあの写真に写っていた男性のことだろうか。
「その人は今どこにいるの?」
「発明家として遠くの国に呼ばれてるんだ。たまに手紙とか、いろいろ送られてくるよ。」
「すごい人なんだね。」
「じいちゃんはすごいよ!いろんなものをすぐに作っちゃうんだ。」
アイルは誇らしげに胸を張った。
「他国に呼ばれるくらいだ。よほど才能がなければそうならない。」
息を整え終えたリオンが感心したように言った。
「しかし…それほどの発明家ならこの国でも待遇は良いだろう?なぜわざわざ遠い国なんて行く必要があったのか?」
すると、アイルの表情が少し陰った。
「実はじいちゃん、あまりこの国に良い思い出がないみたいで…」
もごもごというアイルに、私も思わずうなずく。
「なら、なおさらお前を置いていく必要がないだろう?」
「一緒に行こうって言ってくれたけど、僕はこの店が好きだし…なくしたくなかったから無理言って残ってるんだ。」
なるほど。
この店が売り上げがなくてもやっていけているのは「じいちゃん」が仕送りなどしているためだろう。
そういえば、以前店を訪れた時にアイルから先代店長について少し話を聞いた気がする。
(お店のドアに防犯の魔法をかけたんだっけ…。じゃあ、かなり魔法を使うのが得意なのかな。)
機械も作れて、高度な魔法も使うことができるならば、どこの国からも引っ張りだこになるのも納得できる。
「無理言って残ったから、この店が繁盛するように僕も頑張らないとね。」
アイルはそう言うと、大切そうにシンバル機の頭をなでた。
「そのために、今日のパレードにこの子を出すんだ!」
「だったらその錆を何とかするのがいいだろうな。ただの鉄の塊が歩いているようにしか見えないぞ。」
意気揚々と話すアイルに、リオンがくぎを刺した。
「う…」
アイルはしょんぼりとうなだれてしまった。
(言い方!)
キッとリオンをにらみつけると、
「洗浄魔法をかけてやる。」
と彼はそっぽを向きながらぼそりと呟いた。
「え?」
アイルがぱっと顔を上げた。
「まさか、今から手作業で洗浄するわけではないだろう?」
リオンはあきれたようにそう言い、
「ほら、いくぞ。」
と踵を返し、さっさと部屋から出て行ってしまった。
(まったく、素直じゃないなぁ)
その後ろ姿を、私は生暖かい目で見守ったのだった。




