パセリ②
ほこりのふさふさした手触りの中で、何かがコツン指に当たった。
「あった!」
つかんだ瞬間、緊張が緩んで一瞬棚から気がそれた。
ぐわんと棚が揺れる。
「ルリ!」
(やば!)
慌ててよけるも、足がもつれ半ば転ぶような形で後退した。
ドン!と嫌な音を立てて棚が着地した反動で、床にたまっていたほこりが一気に舞う。
「危な~」
「大丈夫!?」
アイルが叫んだ。
部屋中に舞うほこりのせいで目を開けにくいが、機械はまだ暴走しているようだ。
音のする方にコントローラーを向けるが、ボタンがたくさんあってどれを押せばよいのかわからない。
「えぇっとー…どのボタン!?」
「赤!赤いやつ!」
コントローラーを見ると、左右の赤いボタンが付いていた。
「二個あるけど!?」
「え、なんで!」
ほこりの向こうからアイルの当惑した声が聞こえてくる。
「どっち!」
「わかんない―!!」
ガクッと思わずよろけた。
(もう、なんだっていいや!)
正しい方が作動してくれることを信じ、私は両ボタンを同時に押した。
その瞬間、さっきまであれほど騒音を奏でていた機械がぴたりと動くのをやめ、ほこりが舞う部屋の中はシンと静まり返った。
(止まった?)
手で口を覆いながら、私はゆっくりと立ち上がった。
「ゲホッゲホッ」
宙に漂う誇りをかき分けながらアイルが近づいてきた。まともにほこりを吸ったせいか、目が赤くなっている。
「はあ、はあ…ありがとう。平気?」
「とりあえずは…」
私は窓を開けると、風を送ってほこりを外へと追いやった。
部屋の中の視界が良好になり始めると、床に伸びたままの二つの物体が見えてきた。
「…持ち上げずに棚の下に空気を送り込めばよかっただろ。」
肩で息をしながらリオンが文句を言った。顔の周りにバリアらしきものが張られている。ほこりは吸い込まなかったようだ。
「だったらリオンがやればよかったじゃん。」
小さな声でそう呟くと、リオンに睨まれてしまった。
「あの状況で手が離せたわけないだろうが。」
「はいはい、そーですか。それで、このロボットは何なの?」
私は床に転がっている機械を指さした。
ちょうどシンバルモンキーのような形で固まったままの機械は、足がなく、代わりにローラーが付いていた。
「えっと、これはね…自動シンバル機だよ。」
機械を床から起こしながら、アイルは照れくさそうに言った。
「今日のパレードに出す予定なんだ。」
「パレードに?」
「うん。街の楽団員が演奏しながら街中を練り歩くんだ。そこにこれを出そうと思って。店の宣伝にもなるし…」
起こされた自動シンバル機を見ると、頭に刺さった旗にこの店のマークが描かれている。
両手に持っている鉄の板はシンバルらしい。
「試運転ついでにリオンにも見せてあげようかなって…」
「そしたらこいつが、リモコンをあの下に蹴飛ばしたんだ。」
リオンの言葉に、アイルは申し訳なさそうに頭をかいた。
「それで暴走しちゃったんだ。」
「うん…僕の発明品じゃないし、もう何十年も前のものだから。」
たしかに、シンバル機の体は所々錆びついていた。
「アイルにも直せないの?」
「これはじいちゃ…先代の店長が作ったものなんだけど、すごく独特な構造をしてるんだ。設計図とか、あればよかったんだけれど―先代の店長は設計図作らない主義だから…」
「じいちゃん」とはあの写真に写っていた男性のことだろうか。
「その人は今どこにいるの?」
「発明家として遠くの国に呼ばれてるんだ。たまに手紙とか、いろいろ送られてくるよ。」
「すごい人なんだね。」
「じいちゃんはすごいよ!いろんなものをすぐに作っちゃうんだ。」
そう言って、アイルは誇らしげに胸を張った。
しかし、リオンはどこか不満げな表情を残していた。




