ベンジャミン②
しばらくの間、二人は何も言わずに森の中を進んだ。
私は、虫の鳴き声と、時たま吹く風に木々が揺れる音に耳を傾けた。
(そろそろだと思うけれど…。)
そう思いながら歩いていると、ヒヤリと、足元が冷たくなった。
空気が水を帯びたように一気に重くなり、黒かった視界が白く霧がかる。
(着いた!)
胸を躍らせる私の横で、警戒するリオン。
どうやら白蛇は、リオンに会ってくれるようだ。
(あとはこのまま歩いていれば…。)
虫たちの鳴き声が消え、辺りに静けさが訪れる中、私たちはそれぞれ違った緊張感をもって歩いた。
「!」
一匹の蛍が私の前を横切った途端、霧がすっと横にはけた。
いきなり視界が腫れた目の前には、無数の蛍が飛び交う、木々に囲まれた草地が広がっていた。
草地を縫うようにしていくつもの小川が流れている様子は、小さな島がぽこぽこと浮かんでいるようにも見える。
そしてその中央に、真っ白な蛇が一匹、こちらをじっと見つめて佇んでいた。
隣で、リオンがハッと息をのむのが聞こえた。
「蛇さん!」
私はそう言って白蛇に駆け寄ると、その大きな体の前で立ち止まった。
「久しぶり!」
思わず目頭が熱くなる。
大蛇は目を細めると、頭を私へと近づけた。
その頭に触れると、今までの緊張が一気にほどけ、私はぎゅっと抱き着いた。
「ありえない…。」
不意に後ろから声がし、振り返ると、リオンがこちらを見て固まっていた。
「希少種がこんなところに…?しかも、人に触れている?」
「別に怖くないよ。」
手招きすると、リオンはそろそろと近づいてきた。
「お前…今どういう状況かわかっているのか?この大蛇は、伝説と言われるくらいの希少種で―。」
混乱したように話すリオンは、私の表情を見て口を閉じた。
「リオン、こちらは蛇さんだよ。蛇さん、こっちはリオン。」
白蛇はじっとリオンを見つめると、こくりと頷いた。
「それじゃあ早速なんだけど、リオンの魔力がいきなりなくなっちゃって…。」
そこまで言うと、蛇はぬっと顔をリオンに近づけた。
「うおっ。」
リオンは驚いたように一歩下がった。
「な、なんだ…?」
「頭に触れてみて。」
私が言うと、リオンは恐る恐る手を伸ばして白蛇の頭に触れた。
白蛇は静かに目を閉じ、リオンもそれにならった。
私はその横で、そのままじっとしている二人を見ていた。
辺りを飛ぶ蛍の光に照らされて、白い鱗が琥珀色に輝く。
リオンの白い髪も、タンポポ色に染まった。
(きれいだな~。)
隠れ家のような薄暗いこの場所に、真っ白い二つの彫像だけが朝日を帯びたように淡く輝いている。
本の中の美しい挿絵のような二人に、思わず見とれてしまう。
(…長いな。)
随分と長い間、二人は黙ってじっとしていた。
そんなに大変なことが、リオンの身に起きているのだろうか。
心配が募っていく中、不意に白蛇が目を開けた。
「?」
二人とも訳が分からないまま横並びになると、白蛇が私のカバンを指し示した。
(なんだろ?)
カバンを開けて中を探ると、今朝、庭で拾ったあのモミジに似た枝が手に触れた。
「もしかして、これのこと?」
カバンから取り出して見せると、白蛇はうんうんと頷いた。
「これは…どういう意味だ?」
リオンが混乱したように言った。
「わかんない…。」
その先の行動を仰ぐも、白蛇は私を見つめたまま動かない。
「リオン…これ知ってる?」
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