フジ
夕方近くになり日が完全に沈むと、リオンが一階に降りてきた。
私はちょうどキッチンで薬草を作っていたところだったが、彼が本を読みたいというので、書斎に案内することになった。
(書斎って言っても、あんまり本ないんだよね。)
がっかりさせてしまうだろうかと思い、屋根裏を見せようかという考えが一瞬頭をよぎるが、すぐに却下する。
(危ない危ない。お客様じゃないんだから。)
屋敷に人が来たのは初めてのことのため、どうしてもおもてなし精神が出てしまう。
(あくまで交換条件。気を許すのはよくない。)
私は気を引き締めなおすと、静かに廊下を進んだ。
リオンも黙ってついてきた。
「ここだよ。」
書斎の扉を開けると、正面の窓から、雲に隠れた少し早い月が顔を覗かせた。
「月が…。」
そう言いかけて、慌てて口を閉じる。
(あっぶな!これは誤解を招くわ。)
リオンは「月」と言った霧黙り込んだ私をいぶかしげに思っているようだったが、私はそれを無視してランプに火をつけた。
カーテンは開けたままにすることにした。
「あまり多くはないけど…。」
「かまわない。」
リオンはそう言うと、早速手近な本棚を探し始めた。
(ああそうだ。この国について書かれた本があったはず。)
ついでにと、私も本を探すことにする。
こうして本棚を見上げていると、城で働いていた時のことを思い出す。
皆の計らいで図書室の仕事についていた私は、仕事を早く終わらせからよくこうして本棚を眺めていたものだった。
(司書さんがすごく優しかったっけ。あの人に魔術書も貰ったんだったな。)
魔術書がなければ、私は今頃どうなっていただろう。
司書さんには感謝してもし足りない。
(あ、あった。)
そんなことを考えていると、探していた内容の本を見つけた。
(客間で読もう。)
本を取り出し、私はふと後ろを振り返った。
リオンは本棚を凝視してまだ本を選んでいるようだ。
(声は…かけなくていいか。)
私は邪魔をしないように静かに部屋を後にすると、客間へと向かった。
お読みいただきありがとうございます。
フジ:佳客




