ガーベラ
(あ~やっちゃったー!もー!)
廊下を早足で進みながら、私は猛烈に反省していた。
(せっかく丸く収まりそうだったのに!)
ついつい今までの恨みを発散してしまった。
私への警戒心が高まってしまったかもしれない。
キッチンに到着し、薬の調合に取り掛かる。
しかし、集中しようとしても「なんであんなことを言っちゃったんだろう」という後悔と、今までの自分の状況への憤りが交互に押し寄せてくる。
そのせいで、4回も調合ミスをしてしまった。
(やっぱり、引っ越しの準備しておいた方がいいのかな…。)
げんなりしながら、ようやく出来上がった薬を少年のもとに運ぶ。
「お待たせ…。」
そっと扉を開いて中を伺う。
カーテンが閉められ部屋は薄暗くなっていたが、少年は頭から布団をかぶっていた。
私は魔法で陽光を完全にシャットアウトすると、部屋のあちこちに空き瓶を置き、中に明かりをと
もした。
簡易的な、魔法の照明だ。
真っ暗な部屋が、早朝と同じくらいの明るさになる。
「これ、やけどに効くから。」
そう言うと、少年はもぞもぞと布団から出てきた。
魔力を全く感じられない。
(なんでこんなに弱ってるんだろ…。)
タオルに薬湯を染みこませながら考える。
「はい。」
少年はタオルを受け取ると、顔の赤い部分にあてた。
すっかり見た目の変わった少年は私と目を合わせようとせず、うつむいて顔を背けている。
魔力が回復するまで、外には出ない方がいいだろう。
(私の魔法を使ってもいいけど、人にかけるのは苦手だしなあ…。)
最初に魔法をかけたときのことを思い出す。
あの時は雨でずぶぬれになった体を乾かそうとしただけだが、自分が干からびそうになってしまっ
た。
自分自身にかけることすら危ないのだ。
他人にかけるなんてもってのほかだ。
「ね、ねえ。」
私は話しかけた。
「なんだ。」
少年は、薄い灰色の目だけをこちらに向けた。
「さっきからあなたの魔力を全く感じないんだけど…。」
「ああ。」
少年は目を伏せた。
「分かっている。」
「だよね…。」
私は苦笑いした。
(んーー…)
言おうか言うまいか悩み、天井を仰ぐ。
「あのさ。」
覚悟を決めて、私は口を開いた。
少年が再び目を向ける。
「しばらく…ここにいる?あなたの魔力が回復するまで。」
私は、驚きで目を見開く少年の返答をじっと待った。
少年は、随分と長い間考え込んでいた。
どうしようか葛藤しているようだった。
正直言って、私にとってもこの提案は考え物だった。
誤解が解き切れていないこの状況で、できれば自分の命を狙ってきた人を家に置くなどありえな
い。
しかし、放っておくことはもっとあり得ないことだった。
それに、私には別の目的もあった。
「ただ、条件があるの。」
私は裾を握り締めた。
「今回だけ。今回だけでいい。私を城に引き渡さないでほしい。」
少年にとっては、荒唐無稽な条件だろう。
しかし、私は真剣だ。
モカちゃんを止める計画を立てる時間さえ稼げれば、今は十分だった。
だから、ここで城に引き渡されるわけにはいかない。
「…いいだろう。」
「え?」
少年の返事に思わず聞き返す。
「条件をのむ、と言ったんだ。魔力のない今、私は外に出れないからな。」
少年はぶっきらぼうに言った。
「ま、まじで?」
「何度も言わせるな。不本意だが、他に選択肢はない。」
「そ、そっか。」
拒否されたら武力行使も…と考えていた私は、思ったよりも穏便にいったことに安堵する。
「じゃあ、しばらくよろしく。私はルリ。」
「知ってる。」
(ですよねー。)
追っていたのだから当然か。
「…リオンだ。」
少年も小さな声で名乗った。
「…しばらく世話になる。」
「よろしく。」
私はリオンを見据えた。
(ひとまずは休戦ってことで。)
「じゃあとりあえず…お昼にしよっか。」
お読みいただきありがとうございました。
ガーベラ(黄):優しさ・親しみやすさ・日光




