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ハーデンベルギア

―まあ、すばらしい!


(所詮は農民の子でしょ?)


―君は稀代の天才だ!


(調子に乗るな。)


―将来有望ね。


(あんな廃れた村に使える奴がいたとは。)


―あなたって本当に幸せね!





「―うぅ……」


目を覚ますと、視界いっぱいに朝日が差し込んできた。


外で鳴いている鳥たちの声が聞こえてくる。


(ここは…?)


頭がぼんやりする。


目に入ってくる光に、頭痛がする。


瞼を閉じて深呼吸すると、なんだかいいにおいがしてきた。


(ああそうか、帰ってきたのか。)


起き上がろうと腕に力を籠めるが、体は石のように重く動かなかった。


(疲れがたまっているからか…?)


仕方がないが、起きるしかない。


無理やり起き上がろうとしていると、何かが近づいてくる気配がした。


(!?)


光を遮るように、薄く目を開ける。


―ここはどこだ。


目の前には、まったく見たこともない景色が広がっていた。


カタン


すぐ横で音がした。


何とか首だけ横に回すと、開いた扉から、あいつがこちらを伺っていた。





「まったく…この薬どんだけ難しいのよ。」


あの少年にかけてしまった魔法を解くための薬を作るのに、結局今の今までかかってしまった。


薬草は手元にあるもので何とか作ることができたが、ものすごく時間のかかるものだった。


今は簡単な朝食を作り終え、あの少年の様子を見に行くところだ。


少年のいる二階への階段をのぼりながら、私はこれからどうしようかと悩んでいた。


(なんて説明すれば…。)


私と皆の身を守るためモカちゃんを止めようと決意はしたものの、今の生活を守りたい気持ちもある。


とにかく私は、穏便に事を運びたかった。


(まあ、国の巫女様に復しゅ…巫女様を止めようとしていること自体穏便じゃないけど。)


自分で自分の矛盾に苦笑してしまう。


しかし、計画も何もない今は事を荒げたくない。

それにあの少年は城の魔法使いなのだから、説得を試みたところで当然私の意思など尊重してはくれないだろう。


(とりあえず、おとなしく帰ってもらおう。念のために保護魔法をかけておいたけど。効くかな。)


万が一攻撃されたときのために、部屋には保護魔法をかけておいた。


結界では、内側から攻撃された場合無防備になってしまうためだ。


これなら、多少の火や打撃くらいで部屋が傷つく心配もない。


(あの部屋、掃除しておいてよかった。)


今向かっている部屋は、客室として前に掃除しておいたものだった。


(本当は、メアリさんたちが来た用に用意したんだけど…まさか自分を追っている人のために使うとはね。)


そんなことを考えながら階段を慎重に上っていく。


昨晩肩をけがしてしまったため、うまくバランスを取って歩けないのだ。


(この薬…大分色悪いけど本当に効くのかな…。)


少年に使った神経毒と同じ紫色の、ドロドロした薬に目を向けながら二階の廊下を歩いていると、いつのまにか部屋に着いていた。


薬から目の挙げ、開いている扉から中をのぞいた。




「あ、起きてる。」


部屋の中を見た私は、寝たままの少年と目が合った。


少年は首だけを横に向けて、こちらを凝視していた。


まだ毒が回っているらしく、体は動かないようだ。


「お前…!」


少年は私の姿を見て驚いたように目を見開くと、憎々しげに睨んできた。


(やっぱりね…。)


少年の視線が、パーティーで向けられた恐怖と敵意の視線を思い起こさせる。

予想通りの反応だったが、やはり人から敵意を向けられるのは嫌なものだ。


「…。」


私は平静を装いながら少年のもとへ歩き、薬をサイドテーブルに置いた。


そして薬を香焚きにそそぐと、火をつけようとマッチを手にした。


その時、


「っ!」


強い魔力を感じ、とっさに後ろに下がる。


見ると、布団の間から少年の指がこちらに向けられていた。


(まだ身体が動かないはずなのに。)


感心している間にも、少年は次々と攻撃魔法を放ってくる。


「わ!ちょっ…なにしてんの!」


攻撃をよけながら、私は少年の腕を押さえつけた。


「危ないでしょ!まだ毒が回っているんだから安静にしててよ!」


「放せ!この魔女め!!」


少年の言葉にハッと腕を放す。


(「魔女」…。)


固まる私を、少年は睨みつけた。


純粋に私を魔女だと思い、憎んでいる目だ。


(話をするのは…無理そう。)


私は静かにベッドへと近づき、両手で少年の目を覆った。


「魔女が…!」


「ごめん。今は寝てて。」


そう言って魔法を唱えると、少年は静かになった。


少年を眠らせた私は落ちたマッチを拾い上げると、香を焚いて部屋を後にした。


薬の見た目に反して、爽やかないい香りがした。


しばらくすれば、彼は目を覚ますはずだ。


(そしたら、すぐに出て行ってもらおう。)


せっかく朝食を作ったが、もう食べる気はしなかった。


「魔女」と言われて、私はどんな顔をしていたのだろう。


彼の表情を見た時、息ができないほどの恐怖感に襲われた。


この世界での、「魔女」にとっての現実を改めて突き付けられた。


(でもあれが、世間の反応…なんだよね。)


分かってはいたけれど、やはり精神的に来るものがある。


(引っ越しの準備…した方がいいかも。)


「はあ…。」


私は深くため息をつき、一階への階段を下りた。




お読みいただきありがとうございます。


ハーデンベルギア:思いやり・運命的な出会い・奇跡的な出会い

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