ムシトリナデシコ
攻撃が続く中、私は魔術書を持って一階へと駆け下りた。
階段を下りながら、屋敷中に二重の結界を張る。
もしも外の結界が破られたとしても、少しは時間稼ぎになるだろう。
(簡易的だけど…ないよりはいいはず。)
そして、裏口からそっと外に出る。
結界は攻撃を受けて赤く光っている。
単純な打撃魔法だが、威力がものすごく強い。
(どうしよう。どうすれば…。)
私は物陰に隠れながら攻撃元へと向かった。
身をひそめながら様子をうかがうと、結界の特に赤く光っている部分、その下に、フードを被った人物が立っていた。
(やっぱりあの人だ。)
見ると、結界にひびが入り始めている。
(っ!ヤバい!)
私は慌てて箒へと手を伸ばした。
(屋敷から離れないと…!)
箒が手に触れた途端、私は柄をつかんで物陰から飛び出した。
全速力で庭を横切り、結界の外へ出た瞬間箒に飛び乗る。
(飛べ!)
ふわりと浮かんだ箒を操作し、私は上空からフードの人物を見下ろした。
「こっちよ!」
大声で叫ぶと、フードの人物はすぐに気付いてこっちに向かって飛んできた。
(うえぇ!飛べるのは予想外!)
慌てて方向転換し、屋敷の後方へと方向転換する。
後ろから、マントの人物がどんどん距離を縮めてきているのが分かる。
ヒュンッ
耳元を何かがかすめ、肩に鋭い痛みが走った。
「うっ!」
思わず抱えていた魔術書を放してしまった。
(ああ!)
魔術書はページをはためかせながら森へと落ちていく。
私は上半身を下へと向けて急降下した。
魔術書が森の中に隠れる寸前、片手を伸ばしてキャッチする。
「っく!」
ズグンと肩に痛みを感じ、その痛みにバランスを崩しそうになる。
その間も、頭上からいくつもの攻撃が降り注いでくる。
(森へ入ろう!)
森の中なら攻撃も当たりづらいはずだ。
私はそのまま高度を下げ、森の木々の間を縫って飛び進んだ。
(このまま逃げてるだけじゃだめだ…何とかして振りきらないと。)
ジグザグに飛んで相手を撹乱しながら森の中を進む。
生い茂る木々のおかげか、フードの人物との距離が少しあいた。
(ここに隠れよう!)
私は横に曲がると、すぐそばの大木の裏へと身を潜めた。
(もう少し…。)
視線の端に、フードの人物が映った。
(今だ!)
私のすぐ横をフードの人物が通った瞬間、私は呪文を唱えた。
バンッ!
紫色の靄が空中に広がり、それを浴びたフードの人物はドサリと地面に落ちる。
(うわっ強…)
以前見つけた、神経を麻痺させる魔法だ。
護身用に使えるかと思い覚えていたものだが、想像以上の威力だ。
フードの人物はピクリとも動かない。
(気を失ってる…?え、大丈夫かな。)
そろそろと近づいてそのフードをさっと払った私は、その顔を見て目を見開いた。
(うそでしょ!まだ子供じゃん!)
フードの中には、いたいけな少年の顔があった。
つついてみるが反応がない。
(私より、少し年下?こんな子があんなに強い魔法を?)
「どうしよう…。」
介抱するべきなのだろうか。
しかし、子供とはいえ、この少年の魔力はとても強かった。
油断はできない。
(でも、魔法かけたのは私だし…。)
少しの間考えたが、やはり同じくらいの年の子を気絶させたまま放っておくわけにはいかない。
(様子を見て、大丈夫そうだったら森に置いてこう。)
私は魔術書を開いて呪文を探すと、念のため少年の魔力を一時的に封印した。
(これで、一応は大丈夫でしょ。)
そうして少年を魔法で浮かび上がらせて箒に括り付けると、私は箒にまたがってふわりと浮かんだ。
(まだ仲間がいるかもしれない。気を付けていこう。)
警戒しながら森の中を進んだが、予想外にも屋敷へは何事もなく到着した。
結界は少し弱っているようだったが、修復は明日でも大丈夫そうだ。
(それよりも、早く手当てしないと。)
私は少年を屋敷の一部屋まで運ぶと、そっとベットに寝かした。
「本には数時間で目が覚めるって書いてあったけど、一応薬を作っておこう。」
しかし、こうして寝ているところを見ると、ますます普通の少年に見える。
とても、あのような強力な魔法を使うようには思えない。
(でも、私を攻撃してきたってことは、お城の魔法使い…ってことだよね。)
城の魔法使いのことはよく知らないが、こんな若い年齢で、というのはきっとすごいことなのだろう。
(まあ、どうでもいいか。目を覚ましたら、こんなこと止めてもらうように説得してみよ。)
魔術書をもって、薬を作りにキッチンへと向かう。
腕がズキズキと痛む。
こちらも治療が必要なようだ。
(結構深い…。どんな薬が効くんだろう。)
残念ながら、私は聖女ではないため治癒魔法は使えない。
今ある薬草で、薬を作るしかないようだ。
「すぐ治ると良いけど。」
それから私は、疲れた体を叩き起こしながら、一晩中薬づくりにいそしんだのだった。
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ムシトリナデシコ:しつこい




