ミヤコワスレ
「それじゃあ、また来るよ。」
「ああ。体に気を付けるんだよ。」
宴の日の翌朝、私が起きてすぐ一階へ降りると、シエナさんとメアリさんが話しているところだった。
「おはようございます。」
「「ああ、おはよう。ルリ。」」
二人は同時にこちらを向き、同時に同じ言葉を言って、はにかむように笑った。
「よく寝れたかい?」
メアリさんの言葉に、私は「とても」と答えた。
実際、宴での疲れと、久しぶりに皆に合えたことでの安心感で実にぐっすり眠れた。
「それはよかった。もう出発しそうだったから、今起こしに行こうと思っていたんだよ。」
確かに、メアリさんはもう荷物を手にしている。
「ああ。もう行こうと思ってたんだが…フローがいなくてね。」
メアリさんの言葉に、クスリと笑いだすシエナさん。
どうやら心当たりがあるようだ。
「あの可愛らしい子かい?あの子は皆に見送られてるよ。」
シエナさんの指さす方を見ると、窓の外に、たくさんの人に囲まれて困っているフローの姿が見えた。
「最も、ほとんどが男だけどね。」
シエナさんは少し驚いているようだったが、見慣れている私たちは苦笑いするしかなかった。
「まったく…。仕方ないねぇ。」
「私呼んできますね。」
私は外へ出ると、フローの周りの人だかりへと近づいた。
「フロー。」
「あ、ルリ~!」
私を見た途端、フローがぱっと顔を輝かせた。
「メアリさんが呼んでるよ。一緒に行こう。」
そう言って、私はフローの手を取った。
「ちょっと道開けて。」
「ま、まってくれ。」
「せめて名前だけでも言わせてくれ…。」
「この手紙を渡したい…!」
私は別れを惜しむ男子たちの間をさっそうと通り抜け、フローを人だかりの外へと連れ出した。
(お、男前…!)
その場にいる誰もが思った。
「もうっ!フローが困ってるじゃない!」
プンプン怒る私に、フローがクスリと笑った。
「なによー。」
「ううんー。ただ、ルリが一番イケメンだなぁって。」
「なにそれ。どういう意味よー。」
くすくすと笑うフローは、むくれる私の手をぎゅっと握り返した。
「ああフロー。やっと来たね。」
フローを連れて戻ると、メアリさんが待ちくたびれたように言った。
「ごめんごめん~。この村の人たちは、みんな友達思いなんだねぇ。」
のほほんと答えるフローに、頭を抱えるメアリさん。
シエナさんも困ったように笑っている。
「でも、一番の友達思いはルリだね~。」
フローはつないだ手をぎゅっと握り返した。
「え、私?」
「ふふっ」
首をかしげる私ににこりと笑いかけると、フローは自分の荷物を取りに行った。
「まったく…。」
メアリさんはそうため息をつくと、椅子から立ち上がった。
「もう、行くんですね…。」
「そう気を落とすんじゃないよ。また会えるんだから。」
メアリさんは、落ち込む私の方をポンと叩いた。
「メアリさん…。」
「メアリの言う通りさ。それに、あんたにはあたしたちがついてるしね。」
「シエナさん…。」
私は泣きそうな顔で二人の顔を見つめた。
「はは。そんなに寂しがってくれると、あたしも帰ってきたかいがあったね。」
メアリさんは嬉しそうな、寂しそうな顔をして笑った。
「おやおや、メアリもまんざらじゃあなさそうだねえ。」
「姉さん!」
メアリさんが顔を赤くした。
「お待たせ~。」
そうしていると、バスケットやら手提げやらなんやら、たくさんの荷物を抱えたフローがやってきた。
「フロー…。なんか荷物が増えてないかい?」
「うん~。みんながお土産持たせてくれたのー。」
ニコニコと嬉しそうに抱えているも、さすがに王都まで運べるのだろうか。
「荷車を使うかい?」
「城には、あたしらみたいな下っ端の荷車を置く場所はないからねぇ。いくつかは置いていかないといけないね。」
「えぇ~全部持って行けないの?」
フローは残念そうにお土産を抱きしめた。
「仕方ないだろ。」
「うぅ…。」
フローは不満そうに荷物を置いた。
それを見て、私はピンとひらめいた。
「あ、そうだフロー。いいアイデアがあるよ。シエナさん。何か棒とかありますか?」
「棒…かい?」
いぶかしげな顔をしながらも、シエナさんは一度家の外へ出て、そして長い木の棒を持って戻ってきた。
「この前壊れたカカシの棒なんだけどね。これでいいかい?」
「ばっちりです。フロー、その荷物、この棒にかけれる?」
「うん。やってみる~。」
フローは持ち手のついていないお土産は手提げなどにまとめ、全部木の棒に引っ掛けた。
「それで、どうするんだい?」
「ウフフ…。見ててください。」
私は木の棒に手を当てると、ごにょごにょと魔法を唱えた。
すると、木の棒はまるで重さがないようにふわふわと浮き上がった。
「うわぁ~すごいー。」
フローはパチパチと手を叩き、シエナさんたちは「ほう」と目を見張った。
「浮いてるね。」
「ああ。浮いてる。」
「これで王都まで楽に運べるのではないでしょうか。王都に着いたら、肩にでも乗っけてくれれば、一応運んでいるようには見えますよ。」
「すごいすごーい!さすがルリだねぇ!魔法のステッキだあ。」
フローは感激したように言って私に抱き着いた。
「これで全部持って帰れるよ~!」
「よかったね、フロー。」
「うん!」
フローは嬉しそうに笑った。
「そうだフロー、私これ返さなきゃと思ってたの。」
「ん~?」
私はフローに花の髪飾りを返した。
「パーティーの時に借りたやつ。あのまま持って行っちゃったから。」
「ありがと~。気にしなくてよかったのにー。」
フローはそう言って受け取ると、ポケットの中にしまった。
「あ、私も渡すものがあるんだった~。」
フローは思い出したように言うと、小さな包みを取り出した。
開いてみると、中にはリボンが入っていた。
「これは…?」
「城の皆で作ったの~。ルリに似合うと思って~。」
リボンを手に取ると、銀の縁取りがなされているリボンには、カモミールの小さな花の刺繍が施されていた。
「これをみんなで?すごい…!」
その繊細な刺繍に思わず息をのむ。
「みんなルリに会いたがってたよー。」
それを聞いて、涙がこぼれ落ちそうになる。
「私も…みんなに会いたいよ…っ!」
「よしよしー。」
フローは優しく私を抱きしめた。
「また会おうね~。」
私はフローの目をまっすぐ見つめた。
「うん。また会おう!」
今度はちゃんと、私が会いに行くから―。
お読みいただきありがとうございました。
ミヤコワスレ:しばしの慰め・別れ




