ビナンカズラ
(メアリさんが来てくれてたなんて!どうしよう!)
私はうれしさと興奮のあまり屋敷中を右往左往していた。
(この前作ったケーキとジャムを持っていこう!ああ、まって、屋根裏で見つけたあの本も、メアリさんきっと好きだよね…。)
一体いつ、あのリボンは結ばれたのだろう。
すぐにいかないともう城に戻ってしまうかもしれない。
(もう、なんでもっと早く気が付かなかったんだろう!)
バタバタと忙しく屋敷を駆け回り、急いで支度を整える。
(クローゼットで見つけた新しいスカートをはいていこう。)
辛子色のスカートに、灰色がかったブラウスを合わせる。
前に町へ行ったときに、町娘たちは皆こんな感じの色味の服を着ていたはずだ。
(今の髪色に合ってるな。)
私は自分のこげ茶色になった髪に触れた。
相変わらず適当に結ばれたポニーテールだと、鮮やかな服に比べてなんだか素っ気ないように思えた。
「何か飾りでもつけようかな…。」
何か髪飾りになるものはないかと探していると、城のパーティーの日にフローに貸してもらった髪飾りのことを思い出した。
「あ、そうだ。フローに髪飾り借りたままなんだった…。メアリさんに代わりに返してもらわないと。」
可愛らしい白い花の髪飾りを丁寧にハンカチにくるみ、バスケットの中にそっとしまった。
「うーん、もういいや!」
私は髪飾りを探すのをあきらめ、いつも通りのポニーテールに髪を結んだ。
「支度完了。」
バスケットを持ち上げ、一階へと降りる。
「よっし、行こう!」
楽しみに胸を膨らませながら、私は久しぶりのククル村へと向かった。
(メアリさん、どこかな…?)
近くの茂みに身を潜め、私は村の中をうかがっていた。
(兵士の姿は見えないけれど、慎重にいかなくちゃ。)
以前のことで、村の人たち全員が私のことをよく思っているとは限らない。
見つかって通報、なんてことがあればメアリさんたちに迷惑が掛かってしまう。
(…でも、どこにいるんだろう?メアリさん、全然見えないや…。)
村はいつもと変わらないよう様子で、久しぶりに仲間が帰省してきたようには見えない。
(あれ、私の勘違いだったかな…?でも、あの目印にはメアリさんの名前が刺繍されてたし…。)
楽しみに膨らませていた気持ちが、空気を抜かれた風船のように徐々にしぼんでいく。
(なんだー。勘違いしちゃったのかな。まあメアリっていう名前はそう珍しい者じゃないし…。あれは落とし物か何かだったのかも。)
がっかりして帰ろうとしたとき、ある一軒の家から何人かの笑い声が聞こえてきた。
(なんだろ?)
耳を澄ませてみると、どうやら子供たちの笑い声のようだ。
(そういえば、みんなに最後まで字を教えられてなかったな…。)
少し寂しさを感じながらも、久しぶりの元気いっぱいの笑い声に耳を傾ける。
「あははー!おもしろーい!」
「なにそれー!」
(フフ…。みんな元気そうだな。)
「ルリってけっこうドジなんだねー!」
(え、私の話!?)
まさか私の話で盛り上がっていたとは。
(しかもなんか、「ドジ」って聞こえたんですけど…。)
一体何の話をしているのだろう。
この村に来てからは、特に変なことをした覚えはないけれど…。
「馬にあげるためのニンジンをたべちゃうなんてー!へんなのー!」
家の中から子供たちの大爆笑が聞こえ、恥ずかしさに思わず顔を伏せる。
(うわああぁ…恥ずかしい~…あれ、でもそれって、この村での話じゃ…。)
私はハッと顔を上げた。
そうだ、この話はククル村での出来事ではない。
…城での話だ。
この話を知っているのは、一人だけ…。
(メアリさん!)
さっきまでしぼんでいた心に一気に張りが戻る。
(やっぱり来てたんだ!勘違いじゃなかった!)
私はうれしさでいっぱいになり、茂みから飛び出した。
はやる気持ちを抑えようとしながらも、家に向かう足は走るのをやめなかった。
バンッ!
勢い良く、私は家の扉を開けた。
お読みいただきありがとうございます。
ビナンカズラ:再会・また会いましょう




