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マンドラゴラ②

本屋の女の子の言葉に、一瞬にして全身から血の気が失せるのを感じた。


(そうか…私、魔女だと思われてるんだ…。)


私の目は、女の子が見せてくれた絵の隣のページにくぎ付けになっていた。


全身に茨を巻き付けられ、業火に包まれて泣き叫ぶ、魔女の姿。


(私も捕まれば、あんな風に…。)


火に焼かれる自分の姿が頭に浮かび、頬にたらりと冷や汗が流れる。


(殺されてしまう…!)


「お姉ちゃん?どうしたの?」


急に押し黙った私に不思議そうに声をかける女の子の声に、私はハッと意識を戻した。


「あ、ううん!何でもないの。」


急いで笑顔を作り、私は両手を振った。


「ただちょっと、その絵が怖いなって思って…。」


「あ、これね。昔悪さした魔女を処刑したのを描いているんですって。魔女は巫女様の作る浄化の火じゃないとやっつけられないのよ。巫女様のお力は、私たちに害をなす瘴気も取り払ってしまうくらいすごいんだから!」


女の子は「さすが巫女様」と鼻高々に言った。


「それじゃあこれ…実際にあったことなの…?」


私の質問に、女の子はこくりと頷いた。


「当たり前でしょ。処刑はいつも王都の広場で行われるのよ。その日はたくさんの人が来るんだから。」


ということは、以前に何度も魔女狩りが行われていたということか。


「そ、そっか。教えてくれてありがとう。じゃ、じゃあ私もう行かなきゃ…。」


私は早口に言ってその場を離れた。


一刻も早くこの場から遠くに行きたい、一人になりたかった。


さっきまで楽しそうに聞こえていた人々の話し声が、私のことを魔女だと噂している声に聞こえてならなかった。


(早く、早く帰らないと…。)


顔を伏せ、人々の間を縫って急いで町を出る。


心臓はバクバクと早鐘を打ち、息をするのが苦しい。


しかし私は早く帰りたかった。


怖い。

私の心には、この一つの感情しかなかった。


なぜ自分が追われているのかが分かってしまって怖い。


捕まったらどうなるのかが分かって怖い。


町から伸びる一本道を、私はただひたすら荷車を引いて走った。


先ほどまで当たり前のように人々と話していたことを、心の底から後悔した。


「―はあ、はあ…。」


小高い丘に差し掛かり、私はようやく立ち止まることができた。


「はあ…。」


後ろを振り返ると、町が眼下に小さく見えた。


立ち止まったことで、さっきよりかなり気持ちを落ち着けることができた。


(大丈夫…落ち着こう。)


息を整えようと、私は荷車を道の横に置いてその上に座った。


苦しかった呼吸も少しずつ落ち着き、それと同時に思考もクリアになってきた。


(大丈夫よ…まだ魔女だと思われてるかはわからないじゃない。)


そう気持ちを落ち着かせる一方で、じゃあなぜ追われているのかと問いかける自分がいる。


それに、お尋ね者の割には町には張り紙などは張られていなかった。


恐らく、城としても大ごとにしたくはないのだろう。


(まあ、こんな小娘に逃げられていると知られれば顔が立たないもんね…。)


私にとってはかえってそっちの方が好都合だ。


人々は私の顔を知らない。

つまり、城の関係者に会わなければ捕まることはないのだ。


冷静に考えると、さっきはあんなに急いで町を離れなくてもよかったのでは、という考えが浮かんでくる。


(でも、あの時はそんなこと考える余裕はなかったんだもん。)


誰に言うでもなく言い訳をしてみる。


しかし、考える余裕がなかったというのは本当だった。


あの時、魔女が処刑されている絵を見た時、私は今までにないような恐怖を感じた。

あの魔女たちの身に着けている服は、あれは、完全に《《私の世界の》》服だった。


初めは、見間違いだと思った。


しかし、見れば見るほど、それが間違いではないことが分かった。


炎に焼かれ、身もだえている少女が着ていたのは、学校の制服だった。

どこの学校のものかはわからない。

ただ一つ言えるのは…


(魔女は、私の世界から来た子たちのことだったんだ…。)


つまり、この世界を救う「巫女」とこの世界に害をなす「魔女」は、同じ世界から召喚された、私と同じ少女たちだったのだ。


(私は、「異世界から召喚された」、「強い魔法を持つ」子だから…ってことは、やっぱり私は…。)


かつて魔女として処刑された、私と同じくらいの少女たちの姿を思い出す。


(もしバレたら…。)


自分が今どんな状況に置かれているのかに気付き、私はぶるっと身震いした。


ダメだ。

このままではどんどん悪い方向に思考が向かって行ってしまう。


(もう、早く帰って寝よう。)


私は荷車の上から降り、走ったことでずれてしまった荷物を整えた。


「あ、やばっ魚買ってたんだった。」


慌てて魚の入った籐の籠を開く。

臭いをかいでみるが、まだ傷んではいないようだ。


(せっかくならお刺身で食べたいもんね。)


この世界には魚を生で食べる文化はないようだった。

以前城のメイドをしていた時に、メアリさんに魚の刺身を食べたいと言ったことがあるが、あの時のメアリさんの表情を見た瞬間に、この世界では魚は生で食べないのだと気づいた。


(もったいないな~。)


日本に住んでいるころから刺身も寿司も大好きだった身にとっては、刺身の良さを知らないのは非常にもったいないことのように感じられた。


(ま、冷凍庫とかないから仕方ないか。)


魚の保存方法の少ないこの世界では、海辺でない限り魚を生で食べるのは魔石を使ったとしてもやはり難しいらしい。


(お腹壊したくないしね…。)


私は魔法を使って籐の籠を凍らせ、屋敷まで持って帰ることにした。


「よしっ行こう。」


荷物をまとめ終え、私は再び荷車を持って歩きだした。


さっき焦って走ったせいで足がジンジンと痛い。


(魔法…使おうかな…。)


しかし、今の今で魔法を使って誰かに見られでもしたらと思うと、魔法を使うにも気が引けてしまう。


「…歩いていこう。」


「よっこいしょ」と掛け声をかけ、私はゆっくりと道を歩き始めた。


今日が涼しい日でよかった。

太陽は出ているがそんなに日差しは強くないし、それに昼も過ぎているため暑さは感じなかった。


しばらく足の痛みに耐えながら歩いていると、道の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。


「!」


私は急いで横の茂みに身を潜めた。



お読みいただきありがとうございました。

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