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ベルフラワー

店の中をきれいにながらしばらく待っていると、薬屋から戻ったアイルが息を切らして戻ってきた。


「ごめんっ…遅くなって…」


苦しそうに肩で息をしながら、アイルはこちらに寄ってきた。


「どれがいいのかわからなかったから、やけどに効くやつ全部買ってきたんだ…」


そう言って、アイルはカウンターに薬の入った袋をどさっと置いた。


中を見てみると、塗り薬や飲み薬など様々な薬が何十個も入っていた。


「ええ!?こんなに買ってきたの…?」


この店の利益では、そんなに買うお金などないだろうに。


びっくりして私が言うと、アイルは疲れた顔でニコッと笑った。


「いや…僕のせいでこうなっちゃったんだから、当然だよ。」


こんなことなら一緒に薬屋へ行けばよかったと、私は申し訳ない気持ちになった。


(別に私が勝手に判断してやったことだし…。)


「うわっ!これどうしたの!?」


なんと返せばいいのかわからず、ただ袋の中身を見ていると、アイルがカウンターに積み上げられた金貨を見て仰天したように言った。


さっきのあの二人組に払わせたお金だ。


「あ、うんえーっとね、あなたのいない間にお客さんが来たから…。」


私は目をそらしながらもごもごと濁した。


(本当のことなんて言えるわけないし…。)


するとアイルはますます仰天して、


「ええ!?僕が留守のときに?いつもなら盗まれるのに…。」


と呟いた。


(盗まれてるって自覚あったの!?)


そっちの方が驚きだ。


ならアイルは商品が盗まれるとわかりながら、私のために店を留守にしてまで薬を買いに行ってくれたのか。


(それをいいことにあの二人は…!)


あの二人に対しての怒りがまた湧き上がってくる。


(財布ごと払ってもらえばよかった!)


しかし、何度も盗まれたことがあるということは、何回も店を開けっぱなしのまま外出していたということなのだろうか。


「鍵はしてないの?」


「鍵は壊れてるんだ。直さなきゃとは思ってるんだけど…。」


そう言ってアイルは店のドアへ近づき、


「ロック!」


と扉に向かって大声で言った。


しかし、扉は全く反応を示さない。


「…ほらね。先代の店長がいたときはちゃんと動いてたんだ。いつか修理に出そうとはしてるんだけど…。」


アイルは困ったようにそう言った。


「あなたは直せないの?」


店の奥にある機械を作れるくらいなのだから、鍵穴くらいお手のものだろう。


「この鍵は魔法で作られてるんだ。魔法使いに頼めばいいのはわかってるけど。高くて払えないんだ。」


確かに、結界などの類の保護魔法は、魔力の少ない人には中々できることではない。ならば魔力の高い人物に頼めばいいのだろうが、そういった需要のあるものはお金がかかるのだろう。


「それに、僕は全く魔力がないんだ。」


「え?」


アイルの言葉に、私は耳を疑った。


この世界では、差はあるもののすべての人間が魔力を持っているはずだ。

たとえそれがどんなに貧しいものでも、どんなに身分が低くても、物を少し動かすくらいの魔力は持っている。


(別の世界から来た私でさえ、魔法を使えるのに?)


それが、今私の目の前にいる少年には全くないというのか。


(そんなことってあるの?)


私が驚きで言葉をなくしていると、アイルは悲しそうに笑った。


「…やっぱり、魔力がないなんておかしいよね。」


小さく呟くと、アイルは代金を取りに店の奥へと引っ込んでいった。


アイルの話を信じられないでいた私は、先ほどまで彼がいた扉の前まで近づいた。


目をつむって、周りの魔力を感じられるか試してみる。


(空間内の魔力を探せば、彼の魔力も感じられるはず…。)


しかし、いくら集中しても、扉の前ではみじんも魔力を感じられなかった。


まるで、彼の周りの空間だけぽっかり穴が開いているみたいだ。


(本当に魔力がないんだ…。)


呆然としていると、アイルが代金を持って戻ってきた。


「お待たせ。はいこれ、売ってもらった分のお金だよ。」


明らかにしょげているのが目に見えてわかる。


「ありがとう。」


お金を受け取ると、アイルは薬屋から持ってきた薬を私に差し出した。


「これも、持って行って。」


「ええ、こんなに悪いもん。受け取れないよ。」


「いいのいいの。お詫びだと思って。」


アイルは顔を背けてそう言った。

自分に魔力が全くないと言ってしまったことで、私の表情を見るのが怖いようだった。


(そっか…だからあの二人はアイルのこと馬鹿にしてたのね。)


今まで魔力についていろいろと嫌な思いをしてきたのだろう。


私は、大量のやけど薬の入った袋を静かに受け取った。


「…ありがとう。」


慰めの言葉が何も思い浮かばないまま、私はアイルに背を向けた。


歩いてドアへと向かうが、なんだか後ろ髪を引かれる。


(何か私にできることはあるかな…?)


できること?いや、あるではないか。


今私にしかできないことが。


「アイル!」


私は振り返って、奥へ戻ろうとしていたアイルを呼び止めた。


驚いたようにこちらを見るアイルに近づき、私は彼の顔を正面から見据えた。


「薬のお礼に、私に鍵を直させてくれない?」


するとアイルは猫のような目を大きく見開いた。


「え、直すって、君が?」


信じられないという顔だ。


しかし私は大きくうなずくと、


「そうだよ!」


と大きく胸を張った。



お読みいただきありがとうございました。


ベルフラワー:誠実・感謝・楽しいおしゃべり

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