ホタルブクロ
しばらくカウンターに寄りかかってぼーっとしていると、一人のぽっちゃりした男性と、ガタイのいい男性が二人店に入ってきた。
太っている男性はアイルを待っている私を見ると、隣の男性を肘で小突いた。
「おい、本当にいるぞ。」
「おやおや、珍しいこともあるんじゃねえか。」
そして、まるで面白そうなものでも見るかのような目で私に近づいてきた。
「おい、嬢ちゃん。」
私は面倒くさいことに絡まれたと思いながらも、二人のほうを向いた。
「なあ、嬢ちゃんは何でここにいるんだ?こんな、変ちくりんな場所によお?」
「もしかして、嬢ちゃんもこの町一番の変人野郎に会いに来たのか?」
へっへっへと意地悪く二人は笑うと、店の中を物色し始めた。
「いやー、外からあの変人以外の人影が見えたからまさかとは思って来てみたが、本当に客がいるなんてなあ!」
「しかも店長さんは呑気にお出かけってわけか?つぶれる寸前だってのに相変わらず変わったガキだぜ。」
「違えねえ!」
「お、これなんて金になりそうじゃないか?」
ガタイのいい男性が、商品棚から金色の時計を取り出した。
「いいねえ!ほんっと、ここは良い収入源だなあ!」
大声で笑いあう二人に、我慢ならずに私は声をかけた。
「あの、それ泥棒ですよね?」
男性はこちらに顔を向けると、「は?」と言って近づいてきた。
「なんだよ嬢ちゃんよお?ケチつけんのか?大体店開けっ放しにして出ていくあいつが悪いんだろうが。」
そう言うと、男性は自身のポケットに時計を滑り込ませた。
「…返してください。」
「あ?」
「返してくださいと言ったんです。それともお金を払っていかれるのですか?」
「へえ…?」
男性はそう言って振り返ると、ニヤニヤしながらこちらを見る太った男性と顔を見合わせた。
「おい、この嬢ちゃんはどうやらあいつのお仲間らしいぞ。」
「はっはっは!そいつも頭がおかしいと来た!」
「おいお前、あんまなめた口きいてんじゃねえぞ?その顔ぶん殴られたくなかったらな。」
「いや、別にぶん殴られたところで大差ないだろ。」
二人は下品な笑い声をあげ、店から出ていこうと扉へと近づいた。
「…なめた口きいてるのはどっちなんだか。」
私はくいっと指を曲げると、バタンと大きな音を立て、男たちの目の前で扉が閉まった。
「お、おいなんだ!?」
二人は慌てたように扉を押すが、扉はびくとも動かない。
「おいお前!これお前がやったんだろう!?今すぐ開けろ!」
ガタイのいい方が私に向かってズンズンと近づいてきた。
「近づかないで。」
私は男の足元に手を向けた。
「うお!?」
足元をすくわれた男は背中を派手に地面に打ち付けた。
「このガキ!!」
しかし、起き上がろうとする男の体はピクリとも動かない。
「おい!なんなんだ!くそ、動かねえ!」
男は首だけを動かしながら、何とか起き上がろうと必死にもがいている。
(うるさ…。)
私は最後に、うるさく喚き散らす男の顔の真上から大量の水をぶっかけた。
「グボッ!?っは、げほっげほ…くそ…このクソガキが…!」
「え、なんですか?」
私はもう一度男の顔に水をぶっかけた。
「…げほっ!くそ、やめろ!」
「あれ、まだうるさい声が聞こえますね。」
再び水をかける。
「この野郎…!俺たちは客だぞ!こんなふうに扱って許されると思ってんのか!?」
顔中びしょぬれになりながら男は叫んだ。
私は男を見下ろすと、
「金も払ってないやつが偉そうに言ってんじゃねえよ。」
と言って、これまでよりはるかに大きな水泡をお見舞いした。
(あちゃ、ちょっとやりすぎたかな…。)
最後の水の衝撃で、さっきの男は気絶してしまった。
私はドアを開けようと店の玄関へと歩くと、ドアの前で腰の抜けた太った男性は、私が近づくとおびえたように後ずさった。
「あの、」
話しかけると、男性はビクッと肩を震わせた。
「お金、払ってもらえます?」
「お、お金…?」
「はい。だってお客様なんでしょう?品物を持っているんだから払ってください。」
私が手を出すと、男は慌てて懐から財布を出し、震える手で金貨三枚を差し出してきた。
(あの時計どれくらいするんだろう?値段もついてなかったし…まあ、これくらいかな。)
「あ、ちょっと、」
私は財布をしまおうとする男を引き留めた。
「ま、まだ何かございますでしょうか…。」
男は完全に縮み上がっているようだった。
「さっき言ってましたよね。ここは良い収入源だって。盗んだのこれが初めてじゃないですよね?」
「い、いやそれは…」
「全額払ってください。それとも、お友達みたいになりたいですか?」
私は床に無残に伸びている男を指さした。
「は、払いますとも!!」
太った男は何十枚もの金貨を置いた。
(こんなに盗んで…)
一体どれだけの商品を盗んでいったのかとあきれつつも、私は店のドアを開けた。
「…出てってください。そして二度とこないでください。」
「か、かしこまりましたあ!!」
太った男は地面に伸びた仲間を担ぐと、重そうに体を引きずりながら逃げ帰っていった。
(あ~あ、やっちゃったなー。)
あれだけ目立たないようにとしてきたのに、結局変なことに首を突っ込んでしまった。
(これで絶対顔覚えられたよなあ…。)
「はあ~~~…。」
私は深いため息とともにびちょびちょに濡れた床の水を乾かした。
「せっかく地味に生きるって決めたのに…。」
散らかったところを片付けながら、私はもう二度と余計なことに首は突っ込まないと心に決めた。
お読みいただきありがとうございました。
ホタルブクロ:正義・忠実




