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ヘリコニア

服屋を追い出されてからから十分後、思っていたよりも早く質屋を見つけることができた。


しかし…


(なに?この店…?)


私は、いまだ質屋の中に入れずにいた。


先ほど、思っていたより早く見つけられた、と言ったが、それはこの店の風貌のおかげだった。


紫色に塗られた外装に、謎のランプやどんな動物のものかわからない頭蓋骨が並べられたショーウィンドウ。


随分おかしな店だなあと思って近づいただけだったが、まさかここが質屋だとは思ってもみなかった。


(ここかー…えーどうしよ…)


その派手な外見のせいで、質屋は完全に穏やかな町並みから浮いていた。

しかも、扉の奥からは何やら騒がしい音が聞こえてくる。


(やめとこうかなー…いやでも、服売らないと食べ物変えないし…。ええい、行っちゃえ!)


私は勇気を振り絞って扉を開けた。


ブワアッ!


ドアを開けた瞬間、真っ白い煙が外に飛び出す。


「うわ!」


突然現れた白い煙に、周りにいた通行人が驚いたようにこちらに視線を向けてきた。

目立ってはまずいと、煙の中、私はとっさに店の中に入り扉を閉めた。


あれだけの煙だったにもかかわらず、店の中には一切煙たくなかった。


しかしその代わりにシナモンを何十倍に濃くしたような、甘ったるいにおいが店中に充満していた。

それに加えてこの騒音。

気分が悪くなりそうだ。


(早いとこ売って店を出よう。)


耳をふさぎながら私は店の中を見回し店員を探したが、それらしき人物は見当たらなかった。


(奥にいるのかな?)


そう思い、雑多に置かれたガラクタの間を縫って店の奥へと進んでいくと、何やら動いている人影を見つけた。


物陰からそっと覗いてみると、とてつもなく大きな機械の前で作業をする人の姿が見えた。


どうやら騒音の原因はこれだったようだ。


「あのー。すみません。」


近くに行って声をかけるも、音が大きすぎて声はたちまちかき消されてしまう。


「あのー!すみません!」


さっきより声を大きくして言ってみるも、やはり音が大きすぎて自分で自分の声が聞こえないほどだ。


(これじゃあ音が大きすぎて聞こえない…)


私はゴーグルをつけて作業を続ける人物の真後ろに立ち一度深呼吸をすると、大きく息を吸い込み、


「あの!!すみません!!!」


と耳元で叫んだ。


「うわああ!!」


作業をしていた人物は驚いたように飛び上がると、乗っていた椅子から転げ落ちた。


「な、なんだ!?」


私は、慌てふためいてゴーグルをとったその人物を見て驚いた。

まだほんの少年ではないか。


少年は仁王立ちする私を見てその猫のような目を見開いたが、何やらこちらに向かって叫んできた。


しかし、動き続ける機械音のせいで、私には少年がただパクパクと口を動かしているようにしか見えない。


「ちょっと、これ止めてくれませんか!?」


「何!?」


少年は聞こえないというように耳に手を当てた。


「これを!止めろって言ってんのよ!!」


私はいらいらしながら、真横で騒音を出し続ける機械を指さした。


少年は理解したようにうなずくと、機械に取り付けられたレバーを下におろした。


機械はしばらく抵抗するようにうなっていたが、やがておとなしくなった。


(はあ…やっと静かになった。)


私がひとまずホッとしていると、少年がこちらに近づいてきた。


(な、なに?)


「もしかして、お客さん?」


少年はそう言うと、じろじろと物珍しそうに私を見た。


(いや、それ以外なんだっていうのよ。)


「そ、そうだけど。」


私が答えると、少年はこれ以上ないほどの笑顔になった。


「本当に!?本当にお客さんが来た!!」


ピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねると、彼はキラキラとした瞳で私の手を握った。


「お客さんが来るなんて、なんて久しぶりなんだ!わあい!!うれしいなあ!」


そう言って、少年はドン引きする私を見つめた。


(ええ、この子初対面なのに手握ってきたんですけど!)


「え、えっと、ここが質屋だって思ったんだけど…。」


「うん!そうだよ!何か買いたいの?それとも買ってほしいの!?」


(近い近い!)


「ええと…買取りのほうで…。」


私は前のめりに顔を近づけてくる少年から離れるようにして答えた。


すると、彼はたちまち笑顔になって、


「買取りですね!わかりました!!」


と言って私をカウンターまで引っ張っていった。


「それで、何の買取りをご希望でしょうか!」


私はその元気に圧倒されつつも、持ってきた麻袋をカウンターに置いた。


「これですね!ふんふん、なるほど…。」


少年は丁寧な手つきでドレスを袋から出すと、顔を近づけて鑑定していった。


ネコ顔のせいもあってか、その様子は獲物にとびかかる前の猫のようだった。


(レーザーポインターを狙う猫みたい。)


そう思うとますます猫に見えて思わず笑いが込み上げてくる。


これ以上見ると本当に笑ってしまいそうなため、少年が鑑定をしている間店を見て回ることにした。


店には色々なものが並べられていた。


シャボン玉のように柔らかく変形したガラス瓶、変な液体に浸けられた毛むくじゃらの何か、さらには「呪いの人形」なんて商品まであった。


(うわあ、なにこれ。)


天井からは腐ったキノコが吊り下げられたりもしていた。


(こんなの何に使うのよ。)


「お客さん、それほしいの?」


少年がカウンターから話しかけてきた。


「いや…いらない。」


私が答えると、少年は肩をすくめて見せた。


「そっかー。まあ、僕も使い方わかんないからそれが正解かもね。」


(じゃあなんで売ってるのよ。)


店の人間がこれでいいのかと言おうとしたが、少年はすぐに鑑定作業に戻ってしまった。


(本当に変な店だなー。)


こうして見てみると、ガラクタの中で迷子になってしまいそうだ。


それに、店に漂うあのシナモンのような匂いも、このままずっと嗅いでいたら気が変になりそうだ。


(あー早く終わんないかな。)


そう思ってカウンターのほうを振り返ると、ちょうど鑑定を終えた少年と目が合った。


「あ、お客さん終わったよ。」


カウンターのほうへ歩いていくと、彼は紙に買取金額を書いているところだった。


「ねえ…。」


私は思わず声をかけたると、少年は書いていた紙から視線を上げた。


「なに?」


「この臭い、何とかならないの?」


「え?」


「だから、この臭い。頭おかしくなりそう。」


「におい?」


少年はスンスンと鼻を動かすと、気づいたように手をポンと打った。


「ああ、この臭いね!ずっとこの中にいたから気づかなかったなあ!実験に使った薬品のふたが開きっぱなしだったみたいだ。」


「え、それ危ないんじゃ…。」


私がそう言うと、少年ははたと動きを止めた。


そして笑顔で私のほうを向くと、


「お客さん、逃げたほうがいいかも。」


と言い、笑顔のままばたりと後ろに倒れてしまった。





お読みいただきありがとうございました。


ヘリコニア:風変わりな人

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