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クレマチス②

(ふう…。)


読み終わった本を閉じ、私は一息ついた。


店員さんのお気に入りの本ということで、最後まで読んでみたものの、やはり伝記というのはその人の偉業を誇示するためのもののように思えて、あまり好きにはなれなかった。


唯一分かったのは、この伝記の人物は王都を襲った魔獣を倒し、その後いかにして魔法使いのトップに上り詰めたのかということだった。


(でも、途中で止めづらいし…。)


私はちらりとカウンターを盗み見ると、ニコニコした店員さんと目が合った。


あの店員さんは、自分のお気に入りの本を読んでもらうことがよほどうれしかったのか、本を読む私をさっきのような笑顔で見つめてくるのだ。


(うわ~これ絶対感想とか言わなきゃいけないやつだ。)


私は苦笑いして返すと、本を元に戻して席から立ちあがった。


「あら、もう帰るの?」


お金を払おうと布袋を分ける私に、店員さんが残念そうに聞いた。


「はい。今日はお使いを頼まれているので。」


「そう。あの本は面白かった?」


「はい。ええと、王都に侵略してきた魔獣を倒すところとか面白かったです。」


「ああ、あそこね!私もあの場面大好きなのよ!」


店員さんは嬉しそうに目を輝かせると、


「本当に素敵よね~この町の英雄だもの。そうだ、町の真ん中にある噴水広場に像があるから、時間があればぜひ行ってみて。」


と言って、町の中心の方向を指した。


「わかりました。行ってみます。」


私は代金を支払うと、厨房の人においしかったです、と声をかけた。


「また来てね。いつでも待ってますよ。」


「はい。ごちそうさまでした。」


店員さんはにこりと笑い、ドアを開けてくれた。


「ありがとうございました~。」


私は最後にぺこりと会釈をしてカフェを後にした。








(う~ん、ちょっとお金足りなくなっちゃったかなあ。)


一度荷車を駐車した場所に戻りながら、私は久しぶりのちゃんとしたご飯といえども、思わぬ出費になってしまったことを嘆いていた。


(やっぱりあの後追加でチョコケーキも食べるんじゃなかった。)


欲望に勝てなかった自分を悔やみながら、荷車にかけていた防犯魔法を解き、私は荷車に乗せていた大きな麻袋を手に取った。


(本当はもしものときように持ってきたんだけど…)


私は袋を担ぐと、再び窃盗防止の魔法をかけた。


(持ってきておいてよかった。)


袋の中をのぞくと、そこには私が屋敷で見つけたドレスや洋服がぎっしり詰まっていた。


(これくらいだと大体いくらになるんだろう。)


お金が足りなくなったら売ろうと思って一応持ってきていたのだが、まさかこんなにも早く売ることになるとは予想していなかった。


(この世界にリサイクルショップは…あるはずないか。)


確かここまで来る途中に服屋があったから、そこで買ってもらえるかもしれない。


私は頭の中でおおよその相場をつけながら服屋へと向かった。




「ダメダメ!こんな古めかしい服なんて、うちじゃ買えないよ!」


服屋の店主は、袋の中の服を見た途端そう言い切った。


(そ、そんな…。)


「だいたいなんだこれは!流行遅れにもほどがあるよ!一体何百年前の服だ?」


ひどい言われようだ。


(私はその何百年前の服を今着てるんですけど?)


しかし、食い下がったところで買い取ってはもらえなさそうだ。


「じゃあ、どこでなら買い取ってもらえますか?」


そう言うと、服屋の主人はフンッと鼻で笑い、


「こんな服じゃあ、質屋くらいしか買い取ってもらえないだろうね。」


と馬鹿にしたように言い放った。


「…わかりました。」


私はそう言って店の外に出た。


(なによ。あそこまで言うことないじゃない。)


なんだか嫌な気持ちにさせられた。


(質屋…そこに行けば買い取ってもらえるんだ。)


しかしこの町に質屋などあるのだろうか。

ここまで来る間には見かけなかったが。


(いやいや、探して見なくちゃわからないよね。)


私はとりあえず来た道とは反対方向へと進むことにした。



お読みいただきありがとうございました。

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