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サラセニア

「はあ~~。」


掃除を終えて見違えるほどきれいになったバスルームで、湯船につかった私は深いため息をついた。


本当に久しぶりのお風呂だ。


足を延ばしても余るほどの広い湯船の中、熱い湯がこれまで蓄積されてきた疲れをほぐしていく。


(しかも猫足バスタブ。あこがれだよね~。)


まるで自分がセレブになったような気持ちになり、フフフフ…と自然に笑いが込み上げてくる。


窓から見える空はすっかり日が暮れ、山の木々を包み込んでいた。


薄暗いバスルーム内に、ランタンの光がぼんやりと浮かび上がっていてとてもロマンチックだ。


「最高だー!」


体の疲れに良い薬草を入れたお風呂から、さわやかな木々の香りがしてくる。


心身ともにリラックスできた私は、ウトウトと寝そうになるまで、そのあと三十分くらいゆっくりとお風呂につかっていた。


お風呂から上がり、寝間着に着替えた私はバスルームを後にした。


バスルームへ行くには部屋を一つ通過しなければいけないのだが、ここはまだ部屋の換気しか終わっていない。


そろそろちゃんとしたベッドで寝たいものだが、仕方ない。

今日のところは引き続き応接間で寝るしかなさそうだ。


「部屋はやっぱりここがいいかな~。」


掃除は終わっていないものの、洗練されたデザインで作られたベッドや調度品からはそのセンスの良さがうかがえる。


「早くこの部屋使いたいな。」


楽しみな気持ちを抱きながら、一度一階に戻った私は、そのままキッチンへと向かった。


新品同様きれいになったキッチンには、今朝採った植物や木の実しか置いていないが、これからどんどん増やしていこう。


(あの棚にはお菓子を入れて、あ、ジャムを並べるのもきれいかも。それでこっちには香草を並べて…。)


自分の好きなように部屋をカスタマイズできるというのは、なんてワクワクするのだろう。


これからこの屋敷がどんなふうにデザインされていくのか楽しみだ。


私はオレンジのような果実を一つとあぶったキノコをいくつか皿に盛り、再びバスルームへと戻った。


夕食を持ったまま天井を外して屋根裏部屋へと上がり、先ほどの本のところへ向かった。


散らかった書類をわきに寄せて夕食の乗った皿を置いた私は、あの本をきちんと読んでみようと椅子に座った。


一度本を閉じて表紙をなぞると、布表紙のさらさらとした手触りが心地よかった。


「あれ、タイトルがないな。」


表紙を見てみるも、幾何学的な模様が描かれているばかりでタイトルはおろか作者名すら書かれていなかった。


表紙をめくってみても中表紙はなく、白紙の一枚の次はすぐに魔法の解析に入っている。


いくつか書いてある魔法を見てみるが、そのどれも魔術書では見たことのない魔法ばかりだ。


(作者が作った魔法なのかな?)


度の魔法の説明も、丁寧な字から走り書きのような字体まで色々な字体で書かれており、どうやらこの本は人に見せるというより、作者自身の発見を書き留めておくための本のようだ。


(見れば見るほど不思議な本だなあ。)


夕食を食べながらしばらく本を読み、一時間ほど読み進めたところで今日はもう引き上げることにした。






「ふう~。」


ソファに深く身を沈める私は、読んでいた魔術書をぱたりと閉じた。


「この魔術書はすごく読みやすいんだけどなあ。」


屋根裏で見つけた魔法の本と、もともと持っていた魔術書を比べてみると、やはりあの本は人に見せるために書かれたわけではないのがよく分かった。


そうすると、あの本に関してはいくつかの謎が残る。

何のためにあの本は作られたのか。

なぜあのような場所で隠れるように書いていたのか。

なぜ途中で止まっていたのか…。


考えても答えは出ず、私は暖炉で燃える火をただぼーっと見つめた。


いずれにしろ、こんな大きな屋敷を持っていたほどだ。きっと作者は魔法の使える貴族層の人間だったのだろう。


以前働いていた城にもいたが、神殿の管理者や専属魔法使いとして働いていた可能性は十分にあり得る。


(わざわざこんな山奥に住んでたってことは、何か事情があったんだろうな。)


ここら一体の事情に詳しい村の人なら、誰が住んでいたか知っているかもしれないが、私のせいで迷惑をかけてしまった手前、なかなか会いに行きづらい。


「まあ、誰が住んでても関係ないか。」


そう開き直った私は、魔術書をそばのテーブルに置き、今日のところはもう寝ることにした。


「お休み…。」


誰に言うでもなく呟き、私は目を閉じた。

お読みいただきありがとうございました。


サラセニア:憩い・休息


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