ダリア②
「できたー!」
白蛇の住みかの周りに結界を張り終わった後、私は蛇のもとに降り立った。
範囲は広かったものの、屋敷に結界を張ったときよりは幾分か短い時間で済んだ。
大蛇は感謝の気持ちを伝えるようにお辞儀をすると、洞窟の奥へスルスルと引っ込んでいった。
しばらく待っていると、蛇は小さな枯れ枝をくわえて奥から出てきた。
(なんだろう?)
蛇は少し力を入れて枝を噛むと、枯れ枝はみずみずしい若枝へと変わり、青々とした葉が芽吹き始めた。
「うわあ~すごい!」
白蛇に差し出されたその枝を手に取ると、ずっしりとした心地よい感触が手になじんだ。
「これ、くれるの?」
白蛇は瞬きをすると、その顔を私に近づけた。
「ありがとう。大事にするね。」
頭をなでると、蛇は嬉しそうに目を細めた。
その様子に、私までも安らかな気持ちになる。
独りぼっちだったこの世界で、誰かと触れ合えて初めてこんなふうに素直にうれしいと思えた気がする。
それは、私を傷つけるようなことを言わない、純粋な白蛇だったからこそなのかもしれない。
「それじゃあ、帰るね。」
木の枝を大事に手に持ち、箒にまたがった私は蛇のほうを振り返って言った。
「また来てもいい?」
そう聞くと、蛇は嬉しそうに舌を出した。
「じゃあね。」
木の枝を持った手を振り、私は地面を蹴って蛇の住みかを出発した。
大蛇は、その姿が見えなくなるまで私が飛び去るのを見送ってくれた。
「今日は大仕事だったな~。」
いつもより少し高い位置を飛びながら、私は屋敷に向かって森の木々の上を飛んだ。
風のない穏やかな空にはオレンジ色の夕日が浮かび、空を飛ぶ私をオレンジ色に染めた。
「きれいだな~」
私は美しい景色に魅入った。
(この世界に来てよかったことは、自然がきれいなことね。)
しみじみと夕焼けを眺めながら、穏やかな感傷に浸る。
その間にも、片手に握る枝には若葉が芽吹き、花を咲かせ、今では可愛らしい黄色い実を結んでいた。
「…ほんとにすごいな~。」
私は枝を夕日にかざして見た。
夕焼けに反射した実は、金の宝石がたわわに実っているようだった。
確かにこの力を見れば、美しさを第一に考える人なら喉から手が出るほど欲しいと思うだろう。
(なんだかなあ~。)
そんな感想しか出てこなかった。
記憶を見た直後は人間の身勝手さに怒りが込み上げてきたけれど、今は怒りよりも言葉の通り「なんだかなあ」という気持ちしかなかった。
素直に怒れないのは、私も人間だからかもしれない。
でも、今この美しい景色を前にして、そんな無粋なことを考えるのは野暮だと思った。
「この枝、庭に植えてみようかな…。」
話題を変えるようにつぶやくと、私は屋敷へ戻るスピードを速めた。
お読みいただきありがとうございました。




