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ノコギリソウ

「イタッ!」


頭に強い痛みを感じ、私はソファから飛び起きた。


(なんでさかさま?)


ぼんやりとする意識がだんだんはっきりしてくると、自分がたった今頭から落ちたことに気が付く。


「はあ~まったく、なんでこうも連続で寝起きが悪いんだろ。」


体を傾けて、けがをした足に気を付けながら方足も地面に下ろし、私は起き上がった。


「眠~。」


昨晩中途半端に起きたせいで、十分に疲れをとれなかった。


(これもあのバカ王子が私を探させてるからよ!)


イライラしながら服を着替え、部屋の窓を開けると、早朝の静かな太陽の光と共に爽やかな空気が部屋を満たした。


「あ~気持ちいい~。」


寝起きでイライラした心がだんだんと静まってくると、お腹がグウと言った。


「朝ご飯…はもう自分で用意しなきゃね。」


そうは言うものの、このさびれた屋敷に食べ物などあるわけなく、また山へ食糧調達をしなければいけないようだ。


「蛇さんのところへ行くついでに、朝ご飯も見つけちゃおう。」


魔導書を片手に、足を引きずりながら私は屋敷の外へと出た。


(防犯をしなくてもこんな気軽に外出できるなんて、結界は便利だな~。)


昨日は見破られてしまったが、あの人物は結界を破ってまでこの屋敷に入ろうとはしてこないだろう。

戸締りをしなくても家を空けられるのはかなりの利点だ。


日本では度々カギをかけ忘れたり窓を開けっぱなしにしていたせいで、随分と外出に手間取ったものだ。


(やっぱ魔法って便利だわ~…ってん?あれって…?)


結界から出ようとしたところ、庭の隅に何か落ちているのを発見した。


(もしかして…)


近づいてみると、ぼうぼうに生えた雑草の中から箒が出てきた。


「やっぱり!」


草をかき分け箒を手に取ると、しっかりとした木の柄が手に馴染む。

穂も随分と使われていたようだがまだ丈夫そうだ。


いかにも箒らしい箒に、私は興奮していた。


「こんなに魔女に似合う箒ってある!?これに乗れば、夢に見た魔女そのものじゃん!」


はやる気持ちを抑え、そっと箒にまたがって宙に浮かせてみる。


「おお…!」


心なしか、カカシの棒よりも安定しているように感じるし、何より棒よりよっぽど見栄えがいい。


嬉しさに目を輝かせる私の心は、もうすっかり魔女になりきっていた。


「ひっひっひ…さあ行こうかね。」


飛び切り悪い顔をしながら、私は箒を進めた。






「う~ん、て言っても、どこに行けばいいんだろ?」


近くで採ったブルーベリーのような実を食べながら、私は森の中を進んでいた。


とりあえず以前大蛇に会った場所へ向かってはいるものの、そこでもう一度会えるかどうかわからない。


(そもそも蛇さんがどこにいるのか知らない…。)


解決策が見つかったからと後先考えずに来てしまった事を後悔するも、探してみなければ分からないと自分を鼓舞させ、初めて会った時に大蛇がやってきた方向に進んでみる。


(えっとたしか、蛇って木のうろとか土の下にいるんだよね。あの大きさだと、流石に木の中には入らないだろうし。)


となると、いるとすれば洞窟くらいだろうか。


ここの森に関しては伊達に何週間も野宿していたわけではない。


(洞窟探しは得意分野よ。)


少し探してみると、自負しているだけありすぐに洞窟は見つかった。


(う~んでも、ちょっと小さいかな…。)


洞窟はそこらのものよりだいぶ大きかったが、あの大きさの蛇が入れるほどではなかった。


(他も探してみるか。)


そのあともいくつかの洞窟を周っては見たものの、どれにも大蛇はいなかった。


(そりゃ簡単に見つかるところにいるわけないか。)


半ばあきらめかけながら森の中を探していると、突然足元の空気がひんやりと冷たくなった。


「え、何?」


驚いて下を見てみると、箒に乗った私の足の周りに濃い霧が出ていた。

その白さに、足元が霞んで見えないほどだ。


気が付くと、周りの風景も少し変わって見える。

生えてる木や草は同じはずなのに、どこか神秘的な雰囲気に包まれている。


(もしかして…。)


この空気に既視感を覚えた私は、ここが大蛇のテリトリーなのだと直感した。


「もう近くに来てるのかもしれない。」


辺りは濃い霧に包まれていたが、不思議と恐怖感はなかった。

むしろ、包まれているような安心感さえ感じていた。


「あっ!」


周りに気を付けながら進んでいると、小さな湖畔に出た。


そこには、あの白蛇が鎮座していた。


湖畔にたたずむ姿はとても優雅で落ち着きがあり、不思議とこの蛇は私が来ることを知っていたのではないかと思うほどだった。


「お久しぶりです…。」


その姿に自然と敬語を使ってしまう。


私の言葉に答えるように、白蛇は頭を下げた。


「えっと、もしかしたらあなたを救える方法を思いついたかもしれなくて。」


そう言うと、大蛇はすっと姿勢を正した。


私はゆっくりと白蛇に近づき、以前と同じように蛇の胸に顔を当てて目を閉じた。


「…。」


真っ暗な中、瞼の裏の景色に集中する。

すると、この前のように頭の中にイメージが浮かんできた。




赤いリンゴだ。


しかし、以前のように鮮やかな赤色ではなく、黒ずんだ鈍い色だ。


(…うえっ)


あの気持ち悪い虫はまだリンゴに巣食っていた。

しかもより太く、より大きくなっている気がする。


(気持ち悪…。)


目を閉じたまま、両手を蛇の胸部に当てる。


頭の中のイメージを消さないよう注意しながら、昨日練習した取り出しの魔法を唱える。




ピクリと、虫が一瞬動きを止めた、その瞬間。




ビチビチビチッ!!




虫がのたうち回り始めた。あまりにもおぞましいその様子に思わず吐き気がこみあげてくる。


なんとか我慢しながら魔法を唱え続けると、ズル、ズル…と、虫が外に引きずり出されてきた。


見えない力に引っ張られる虫は、それに抵抗しようと身をくねらせている。




(うええ…)




辛抱強く呪文を唱えつつけていると、ついに虫の全貌が露になった。




「ヒッ!!」




蛇の心臓から完全に出て地面をのたうっている虫は、頭部と思われる場所に人間の頭が付いていた。


しわくちゃな老人の顔をしたその顔は、苦痛に顔を歪ませながら口を大きく開け、声にならない悲鳴を上げ続けていた。


その姿を見ていた私は、怒りがふつふつとわいてくるのを感じた。


蛇の心臓を我が物顔で蝕んでいたくせに、まるで自分が被害者であるかのような顔で苦しみもがくその姿に、嫌悪の念さえ抱いた。




(出ていけ…)


私は心の中で強く念じた。




ピタリと動きを止め、老人の顔は私を振り向いた。


目をカッと見開き、威嚇するように口を開ける。






(出ていけ!)




きえええええ!!




老人の顔は虫唾が走るような叫び声をあげ、身をよじらせて私から逃れるように動き回る。




「出て行け!!」




そう叫ぶと、虫は何かに押さえつけられているかのように身を固くした。


ギッギッギッと、顔がこちらを向いた。


その表情は、私を恐れているかのようだった。




お、の、れ…






老人の顔がゆっくりと口を動かす。


目は恐怖と怒りで血走り、悔しそうに歯ぎしりする様子は、惨めとしか言いようがなかった。




「サヨナラ。」


私がそう言うと、虫は青い炎に包まれ、苦しみ悶えながら消えていった。


最後まで、あの顔は私から目をそらすことはなかった。



お読みいただきありがとうございました。


ノコギリソウ:治療・勇敢

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