キョウチクトウ
「はっ。」
何か音が聞こえ、私はとっさに目を開いた。
(うそでしょ…外で何かが動いている音がする。)
結界を張ってはいるが、恐る恐る窓から顔を覗かせる。
「!」
外を見た私は目を見開いた。
結界のすぐそばを、城の兵士たちが歩いていた。
(こっちに気づいてる?いやでも、結界を張っているからこの屋敷さえ見えていないはず…。)
兵士たちは、何か厳しい顔で話し合っている。
私はいけないとはわかっていながらも魔術書を抱きかかえながら外へ出、兵士たちの話を聞こうと忍び足で近づいた。
「おい、本当にこっちで合っているのか。何もないじゃないか。」
結界を隔てて、目と鼻の先にすぐ兵士たちが立っている。
屋敷の周りに張り巡らせた結界のおかげで、彼らはこちらまでは入ってこられない。
「しかし、犬たちはこの方向だと示しております。」
私は「しまった」ととっさに退いた。
逃げるのに精いっぱいで、犬のことを忘れていた。
犬たちは、道中にしっかりついた私の匂いを追ってここまで来たのだろう。
(まずい…このままじゃ結界のことまでバレるかもしれない。)
私は静かに魔術書をめくると、小さな声で呪文を唱えた。
その途端、少し離れたところにいた犬たちが騒ぎ始めた。
「な、何事だ!」
兵士たちは慌てて犬たちの元へと戻っていく。
兵たちがいさめるにもかかわらず、犬たちはますます狂ったように吠えまくる。
「おい、静かにさせろ!」
(それは無理ですよ~フフフ…。)
私は不敵な笑みを浮かべ、走り出す犬を慌てて追いかけていく兵士たちを見送った。
私が犬にかけた魔法は、対象者に幻覚を見せる魔法だ。
この魔法は、対象者の知能に合わせて効果が左右されるという。
それゆえ、雑念や疑いの心を持つ人間にはあまり効きにくいが、犬などの動物には効きやすい。
(あの犬たちは蛇さんに恐怖心を抱いているから、効果てき面ね。)
ぱたりと本を閉じ、私は屋敷へと戻ろうと兵士たちの慌てふためく声に背を向けた。
その時、
後ろの茂みから視線を感じた。
バッ
背筋が凍るような視線に振り向いた私は、木の陰から、じっとこちらを見つめる人影と目が合った。
まるでこちらが見えているかのように私を凝視するその人物は、明らかに他の兵士たちとは違った。
(あの人、私のことを見ている…?)
フードからその鋭い目だけをのぞかせ、その人物はしばらくこちらを見ていたが、ふっと靄のように消え失せてしまった。
力が抜けた私はその場にへたり込んだ。
バクバクと心臓が早なり、手足が冷たくなっている。
まるで、睨まれたカエルのように身動き一つとれなかった。
確かに結界は正常に機能していたはずだ。
兵士たちはこの屋敷の存在も、そもそも結界が張られていること自体気づいてはいなかった。
だが、あの人物の目は確実に私をとらえていた。
(それほどまでに強い魔力を持っているってこと?)
あの視線からは私への悪意などは感じられなかった。
恐らく、あれは警告だろう。
「見張っているぞ」と、私を牽制するための。
(でも、あの人が城に雇われたのなら、どうしてあの時兵士たちに知らせなかったの?)
私に気づいていたのなら、あの時兵士たちに言えばよかったのではないか。
結界を見破れるほどの魔力があるのなら、私をとらえるなど造作もないはずだ。
「もしかして、何か他の目的が…?」
しかし一体何が目的なのかが分からない。
もやもやした気持ちが残るが、こちらに害を与える気がないのならば今のところ心配はいらないだろう。
派手に動いたりしない限り身の危険はないはずだ。
(言われなくても、もともと静かに生きていく予定ですー。)
緊張がほぐれたと同時に、再び眠気が襲ってくる。
「ふわ~あ、もう寝よう…。」
屋敷の中に戻り、ソファにごろりと横になった私は、考え事をする間もなく目を閉じた。
お読みいただきありがとうございました。
キョウチクトウ:危険・注意・用心




