クリスマスカクタス
「ここか…。」
山の中を浮かんで進みながら何とか山の上にたどり着いた私は、目の前にそびえ立つ屋敷を見上げた。
「大きいなぁ。」
山の上にあるというからこぢんまりしているものだと思っていたが、普通の家の三倍はあるだろう。
レンガ造りでとても重厚な雰囲気だ。
(門はなくて、入り口も空いてない…と。)
屋敷は山のぽっかりと空いた部分に立っているため、少し場違いな雰囲気があった。
(そうじゃなくて、まずは結界を張らないと!)
近衛兵がここまで探しに来ても大丈夫なように、結界は張っておいた方がいいだろう。
結界の種類は、前に張ったことのある、範囲内の対象物を外方見えにくくする結界だ。
私は魔術書を片手に屋敷のあたりをぐるりと一周周った。
辺りには様々な植物が生い茂っており、外壁も手入れがされておらずひどいものだった。
(夜に来なくてよかった…。暗いときに見たらまんまお化け屋敷だわ。)
などと呑気なことを考えていると、建物へ入れそうな裏口を見つけた。
(あ、ここから入れそう。)
入れそうな場所を記憶し、一周周り終えると、私は再びそこから屋敷の中に入った。
結界を張り終えるには、範囲の中心にいかなければならない。
私が入ったところは、どうやら書斎のようだ。
(はあ…。範囲が広いと大変だな。)
外から見た感じだと、屋敷はだいぶ傷んでいるように見えたが、中はそうでもなかった。
ほこりやクモの巣はひどいが、床板や壁は割と新しいようだ。
(本がそのままだ…。)
周りの本棚や中央の机の上には多くの本が積まれていた。
住人はこれらを持って行かなかったのだろうか。
どんな本なのか気になるのはやまやまだが、今はまず屋敷の中心にいかなければいけない。
(中心っていえば、やっぱりホールとかになるのかな…?)
働いていた城では、舞踏会用のホール、つまり私が糾弾されたところだが、あそこを中心に設計されていたが、この世界ではそれが当たり前なのだろうか。
(とりあえず行ってみるか。)
「この書斎は屋敷の後ろの方だったから、前側に進めばいいよね。」
私は書斎を出て右に向かった。カーテンの閉められた薄暗い廊下で、棒を支えにして歩く自分の足音がコツコツと反響する。
(本当に夜に来なくてよかった…。)
しばらく道なりに進んでいると、開けた空間に出た。
ここは玄関ホールのようだ。
「広~。」
見渡してみると、玄関の戸が開かないわけが分かった。
入り口の前に椅子やタンスなど、様々なものが積まれてあるのだ。
(まるで誰かが入ってくるのを防いでいたみたい。)
さっきの本と言い、この入り口と言い、この屋敷では過去に何かあったのかもしれない。
(いわくつき…?幽霊が出たらどうしよう。)
背筋にぞくっと寒気が走る。
怖いものは好きだが、あれは見る側だから面白いのであって、当事者になってはたまったものではない。
(お祓いの魔法もかけとこ…。)
しかし、この場所は屋敷の中心ではないようだ。
(もう少し後ろの方かな。)
振り返ってみると、玄関ホールには入り口の扉と向かい合うように大きな扉があった。
(お。この先かも)
重い木の一枚扉を開けると、思惑は外れダンスホールではなかったが、談話室のような部屋が広がっていた。
(おお!豪華!)
床に敷かれた深紅のカーベットは落ち着いた暗めの色合いで、空間を落ち着いたものとするとともに、周りの調度品の木の色を引き立たせていた。
「は~おしゃれだな~。」
ほこりまみれでカーテンの閉まった暗い部屋でもよくわかるほど、上品で温かみのある部屋だ。
「はっ、見とれてる場合じゃない!早く結界張らなきゃ。」
しばらくぼーっと部屋を眺めていた私は慌てて我に返ると、中央に据えられたソファを少しずらし、スペースを開けてそこに立った。
「……よし。」
呪文を唱え終わると、一回目と同じように中心から透明な靄が広がっていき、屋敷はスノードームのようなものに覆われた。
これで、外から見えることはないだろう。
「はあ~疲れた…。」
多くの魔法を使ったことと、今朝からバタバタしていたせいで疲れた私は、結界を張ったということの安心感で思わずソファに座り込んだ。
その瞬間、真っ白いほこりが一気に舞い上がる。
「うっ、ゲホッゲホッ!」
急いで立ち上がり、袖で口を覆う。
(忘れてた…ここ、ほこりまみれなんだった。)
とりあえず空気中の誇りだけでも外に出そうと、部屋の大きな窓を開け放った。
すっかり日も傾き始めているが、朝と同じさわやかな風が部屋に入ってくる。
(換気だけはしておこう。)
しかし、この部屋の窓は、どれも一人で開けられないほど大きい。
今開けた窓だって、この部屋の中では一番小さいが、それでも普通のスライドする窓とは違って二枚のガラスを内側に引いて開けるタイプのため、大きければ大きいほど力がいる。
(魔法でやりたいけど…間違えて壊しちゃってもまずいし。)
仕方がない。人力でやるしかないようだ。
「よいっ…しょ!」
私は一つ一つ窓を開けていき、長い時間かかってようやく部屋のすべての窓を開け終えた。
「ふー。まったく、この家の人はどうやって開けてたんだか。」
ただ、窓を開けて換気をしたはいいものの、部屋にはまだ多くのほこりが積もったままだ。
(うーん、今日のところはこの部屋で寝ることになりそうだから、せめてソファくらいはきれいにしたいな。)
そう思いながら魔術書をめくってみる。
「たしかこの辺に…あ、あった。」
内側に隠されたものを取り出す魔法。
(きっとこのソファは洗ったらダメな奴だよね…。それなら、中にあるクッションを取り出して洗えばいいんだ。)
おそらく、この魔法はこんな掃除のために使うような魔法ではないのだろうが、私は気にせず手をソファに付けた。
呪文を唱えると、ズズっとソファの表面を突き抜けて、中の綿が出てきた。
(うわ…ちょっとグロい…。)
表面を一切傷つけずに綿が出てくる様子は、まだ綿だったからよかったものの、これが他のものだと思うとぞっとする。
(拷問用の魔法とか書かれてるページにあったから、きっと内蔵とか取り出すのに使うんだろうなあ。)
「あーー!!」
そこまで考えた私は、自分でもびっくりする位の声量で叫んだ。
「そうだよ…。なんで気が付かなかったんだろう。これを使えば、蛇さんの中にいるあのへんな虫を取り出せるかもしれない!」
大蛇を治そうと考えるあまり、人を傷つけるための魔法のページを見ていなかった。
この魔法を使えば、大蛇を救えるかもしれない。
(よし!そしたらこの魔法を完璧に使えるようにしよう。明日が来たら、すぐに出発しなくちゃ!)
その後、私は時間も忘れてすべてのソファやいすの綿を取り出した。
始めは一つのソファだけをきれいにする予定だったが、気が付けば、暖炉の炎に照らされる中、大広間中の椅子という椅子が新品同様きれいになっていた。
「わー、やりすぎちゃったかな。」
ふと窓の外を見ると、外には大きな月が輝いていた。
(やばっ明日は朝早く出るのに!)
私は部屋の窓もそのままに、ぽふりとソファに横たわった。
(ハア…疲れたなあ。)
チラチラと天井に移る暖炉の火の影を見ているうちに、私は夢の中へと落ちていった。
お読みいただきありがとうございました。
クリスマスカクタス:冒険心




