バーベナ
「あ、おねえちゃん!もう歩けるの?」
「ちょっとだけねー。」
ひょこひょこと足を引きずりながら外に出ると、シエナさんから隠れていた子供たちが走ってきた。
「おてつだいしてあげる。」
何人かが手を取って歩くのを支えてくれる。
「ありがとう。」
私は小屋の前の石に腰かけると、近くの棒を拾った。
「お外ならたくさん文字が書けるでしょ?」
そう言って、私は地面に木の枝で「こんにちは」と書いてみせた。
「はい、これは何て読むの?」
「こんにちはー。」
「正解。」
と、こんな感じでゆるく文字を教えていく。
「今日は「桃太郎」だよ。」
土に桃太郎のキャラクターと、その下に名前を書いていく。
前の世界での物語は、さすが長く語られてきただけあって、この世界でも人気だった。
「-その時桃太郎は鬼に言いました。」
ちらりと目線を上げると、子供たちが真剣な顔で私を凝視していた。
三つ編みの子など、両手を固く握りしめている。
「「もう悪さをしないなら、みんなで仲良く暮らそう」と。」
私は地面に描いた桃太郎と鬼の顔を笑顔にした。
「そしてみんなは仲良く暮らしましたとさ。」
私は笑顔で付け足すと、地面に「仲良く」と書いた。
子供たちは安心したようにため息をつくと、緊張でこわばった表情を解いた。
(だいぶ話改変しちゃったけど、これでいいかな。)
「今日もおもしろかったよ!」
「また話してねー!」
話すのに集中していたら、いつの間にかお昼の時間になっていたようだ。
「うん。またね。」
私は自分たちの家に帰っていく子供たちに手を振ると、ゆっくりと立ち上がった。
「ふう…。」
足に巻いたハンカチを解くと、さすが魔法で作られたおかげか、氷は全く解けていなかった。
「ちょっと散歩でもしようかな。」
あたりを見渡すと、村人たちは皆昼食を食べるために家に戻っていたため、外は人気が少なかった。
私は再びハンカチをきつく結び直すと、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。
こうして村を歩いてみると、この村は人口は少ないが、広大な土地を持っているようだということが分かった。
居住区から少し歩いたところには、小麦などの穀物を育てている畑や、野菜を育てている畑など、色々な種類の農作物が植えられていた。
(すごい広いなー。)
畑の間にある細い川には、小さいながらも水車が設置されおり、一定のリズムで水を運んでいた。
(わざわざ川の水を引いているんだ。)
私は水車のわきに立って川を覗き込んだ。
人工的に掘られた小川には、ちょろちょろと水が流れていた。
「それにしても、平和なところだな。」
私は心地よく頬を撫でる風の中、うーんと大きく伸びをした。
城で働いていたときは、こんなふうに外の風にあたることは少なかったように思う。
(いや、日本でもそうだったような…。)
しばらく水車をぼーっと眺めていると、おなかがグウウと鳴った。
「お腹すいたな。」
体勢を戻し、元来た道へと戻る…はずだったが、だいぶ遠くまで来てしまっていたらしい。
どの道も同じに見えて、来た道を見失ってしまった。
「やば…。」
いわゆる迷子だ。
(高校生にもなって迷子とか…。)
久しぶりに歩いたせいか、足がジンジンと痛み出してくる。
(どうしよう?このまま待つ?でも、ここに人が来るとは限らないし…。)
私は道端にしゃがんで、足を休めながら考えた。
「せめて村の位置が分かれば…。」
メアリさんにもらった指輪はベットのわきに置いてあるし、魔術書はトランクの中だ。
魔法を使おうにも、今の私は道案内をしてくれるような呪文は持ち合わせていない。
(えーどうしよ。ちょっと高いところに上がれないかな…。)
あたりを見渡すも、周りには広大な畑が広がっているだけで、高さのあるものなどなかった。
一つ方法があるとすれば、私の体を飾の魔法で空中に浮かすことぐらいだろうか。
(でも、そんなところを村の人に見られたら騒ぎになりそう。)
魔法の世界とはいえ、村人たちは魔法を見る機会など滅多にないだろう。
(私が魔法を使えるって知れれば、今まで通りに接してもらえるかどうか…。)
しかしその前に、迷子のこの状態のほうを何とかしなければ。
(畑のど真ん中で餓死とか、冗談になんないわよ。ええい、もういいや!)
もし村人に見られても、見間違えだとシラを切ろう。
「よし。」
私は両手を地面に向けると、呪文を唱えて体を浮き上がらせた。
「ムズ…。」
しかし、高く上がるのは意外と難しく、すぐにバランスを崩してしまう。
「やっぱり足を怪我してるからかな。何か安定させるものがあれば…。」
そう思い、何かあるかと周りを見てみると、畑に刺さったカカシのようなものを見つけた。
(あ、これとかいいかも。)
カカシと言っても、それは太い木の棒に布を被せただけのもので、これなら少し借りるのに持って来いだった。
「お借りします。」
そう言って棒を抜き取り、被せてあった布を道に畳んで置いた。
「へへ、なんだか魔女みたい。」
土で服が汚れない様に気を付けながらまたがると、私はもう一度呪文を唱えた。
ふわりとした浮遊感の中に、いくらかの安定感を感じた。
「あ、あった!」
視線の先にちょこんと村が小さく見えた。
だいぶ高いところに上がって見ると、だいぶ遠いところに来てしまったということがわかる。
(今度はもっと気を付けよう。)
私はゆっくり地面に近づくと、棒から降りようと足を延ばした―が、
「わ!」
思ったより地面が遠く、私は棒から転げ落ちてしまった。
「イッタ~。」
せっかく治りかけた足をまたくじいてしまった。
(うわ~最悪。)
仕方ないが、またこの棒にお世話になるしかないようだ。
「もう少しお借りします…。」
誰に言うともなくそう呟くと、私は再び棒にまたがり、超低空飛行で村へと向かうことにした。
「まさかこんな風に魔女みたいになる日が来るとは…。」
足さえ痛めなければ、この状況は喜ぶべきことなのだが、今の私は反省一色だった。
(調子に乗らない、油断しない!今日から教訓にしよ…。)
うなだれながら、私は村に向かって地面スレスレを進むのだった。
お読みいただきありがとうございました。
紫のバーベナ:魔力




