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カスミソウ

「んん…。」


潤った空気の中、私は目を覚ました。


こんなにも深い眠りにつけたのはいつぶりだろうか。


(よく寝た…。)


起き上がってあくびをすると、視界いっぱいにきらきらと何かが輝いているのに気が付いた。


「うわっ!!」


それが大蛇の鱗だと気付き、昨日の出来事を鮮明に思い出した。


(そうだ…。私この蛇に守ってもらって…。)


寝起きの頭で一生懸命状況整理をしていると、私の声を聴いた大蛇がするりとそのどぐろを解いた。


「あなた…。夜からずっと守っててくれたの?」


私の問いかけに、蛇はじっと私の顔を覗いたままだった。


「…ありがとう。」


ゆっくりと蛇に手を伸ばすと、蛇はそれを拒まずにただじっとしていた。


クリスタルのように透き通った鱗に触れると、手にひんやりとした感触が伝わってきた。


(何かお返しできることあるかな。)


なぜ私のことを守ってくれたのかはわからないが、自分の身を危険に晒してまで犬を追い払ってくれたこの大蛇に、何かお礼をしたかった。


しばらく考えながら蛇を撫でていると、体表から伝わってくる蛇の鼓動に少しばかり異変を感じた。


「ん?」


耳を当てて聞いてみると、どくどくと脈打つ間に、何回かリズムが狂っているところがあった。


(なんだろう?)


聞く位置を変えてみると、少しだけその振動が収まった。どうやら心臓のほうに異常があるようだ。


(…。)


静かに心臓の音に耳を澄ませてみると、何かが詰まっているような感覚があった。


(なんだろう?心臓に何かある?)


私が胸に耳を当てている間も、蛇はじっと動かずにいた。


心臓の音をよく聞こうと目を閉じていると、頭の中に何かが浮かび上がってくるのを感じた。


(これは…?)


蛇の鼓動に合わせて徐々に鮮明になってくるそれは、真っ赤なリンゴだった。


(リンゴ?)


握りこぶしほどの小さなリンゴはとてもみずみずしかったが、よく見ると、リンゴの中で何かがうごめいていた。


(ヒッ!)


私はその気色悪い小さな虫に、思わず目を開けてしまった。

すると、頭に浮かんでいたイメージはすぐに真っ白な蛇の鱗に戻った。


「なにあれ…。」


この世のものとは思えない、明らかに異形のモノに鳥肌が立ち、心臓が早鐘のように鳴っている。


「あ、あれが…あなたの胸の中にあるの…?」


蛇はゆっくりと頷いた。


恐らくあの虫は蛇の体を蝕んでいるのだろう。


(どうにかして取り出さなきゃ!)


私はトランクから魔術書を取り出し、蛇を救えるような魔法を探した。


一時間、二時間が経ち、あたりが明るくなり始めても、求める魔法や薬草は見つからなかった。

ただ一つ、全ての病・害を取り除くことが可能な魔法が紹介されていた。


しかし、その魔法を使うことは私には不可能なのだ。


それは《《聖女のみ》》が使える魔法だった。


(私は…聖女じゃないから、この子を救えないの?)


自分の非力さを痛感する。

何の役にも立たないのに異世界に呼ばれた、自分の非力さを。


「…ごめんね。今の私じゃ何も…。」


私は小さく呟いた。

自分のやるせなさに顔を上げることができない。


蛇は静かに顔を近づけてきた。

まるで「気にしないで」というように。


「絶対、また戻ってくるから。絶対あなたを助ける。」


私は顔を上げ、大蛇の白い目を見つめた。

大蛇はゆっくり瞬きをし、落ち着いた様子で森の奥へと帰っていった。


蛇の後姿が完全に見えなくなると、私はトランクを抱えて走り出した。


(村に着けば、何か方法が見つかるかもしれない!)


城からはだいぶ長い距離を移動してきた。

指輪の光も出発した日からだいぶ強くなってきているから、もうすぐ目的地に着くはずだ。


「ハアッハアッ…!」


毎日の移動と昨晩転んだのが加わり足がひどく痛む。

それに疲労のせいか、視界がかすんで意識が朦朧としてくる。


(早く、早く村につかないと!)


ほとんど歩くような形で走っていると、ぼんやりとした視界に、表札のような人工物が映った。


「ククル村」と書かれたそれを見て、私はついに目的地に着いたことを知った。


「やった…着いた…。」


私は一歩前に進み村に足を踏み入れた。

その瞬間、景色がぐにゃりと歪んだ。


(どうしたんだろう?)


先ほどまで聞こえていた一切の音が聞こえなくなる。


(あれ?)


そして、目の前が真っ暗になった。


お読みいただきありがとうございました。


カスミソウ:清らかな心・親切

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