シャクヤク④
中庭を抜け、再び石造りの校舎を通っていると、「女子寮」と書かれた看板が見えてきた。
「ここが女子寮だ。平民向けのな。」
目の前には少し古めかしい印象を与えるシンプルな外壁が太陽の光を遮ってそびえ立っている。
「あれが上流階級向けの寮だ。」
先ほどから目の前の寮の陰に隠れるように建っている豪華の建物のことだろうか。
「聖女はあそこの最上階に住んでいる。」
リオンの言葉に、私とアイルの視線が一気に豪勢な寮に集まった。
「…。」
一目見るだけでも目の前の寮とは天と地の差があることが分かる。
「こんなに違うなんてひどくない?」
私のつぶやきに対して、リオンは首を振った。
「考えても見ろ。貴族様にこんなボロボロな寮に住まわせられるか?あの豪華な寮に平民を住まわせるわけにもいかないだろう。」
「でも…」とアイルを見ると、アイルはキョトンとした顔で私たちの会話を聞いていた。
「ルリは何が疑問なの?」
その言葉に、私はハッとさせられた。
ここでは身分制度は当たり前なのだった。
この学校は平民も学ぶことができる。だが、それは平民と貴族が同等になったということでは決してないのだ。
先ほど貴族の生徒から嫌がらせをされた時、アイルは特に何も感じていないように見えた。
あの時、彼は貴族からの行動を当然のこととして受け入れたのだ。
それだけ、この世界の身分は絶対なのだ。
(でも、それってなんだか…)
「確かに、身分によって権利は異なってくる。だが、それは義務も同じことだ。貴族には貴族の義務がある。」
リオンが言った。
不満を悟られてしまったようだ。
「それはわかってるけど…」
「お前はこれから、貴族と平民が同じ屋根の下で共存する所に入るんだ。そのように何でも顔に出していては、すぐに目を付けられるぞ。」
リオンから厳しい言葉が飛んでくる。
平民出身のリオンが言うからこそ、その言葉からは現実味が感じられた。
「…わかった。気を付ける。」
私はもやもやとした気持ちを押さえつけて頷いた。
横でアイルがホッとため息をつくのが分かった。
「それなら寮に入って部屋を見てこい。必要なものはあらかたそろっているはずだ。」
「分かった。」
「私は一度あの親子の様子を見て3日後に登校する。」
あの親子とは、この前助けた獣化してしまった女性とその父親のことだ。
リオンから無事に済むところに対っとは聞いていたが、その後元気にしているだろうか。
「会ったらまた様子を教えて。」
「僕はこれからどうすればいい?」
「お前は身元保証人としての役目を終えたから、もう帰っても大丈夫だ。」
そう言えば、先ほど寮に向かう途中に身元保証の審査について色々と聞かされていた。
学園に潜入するため、私がアイルの親戚であることを証明するよう、リオンに様々な設定を詰め込まれたそうだ。
「アイル、本当にありがとう。私、これから頑張るね。」
「え、僕ここで終わりなの!?」
ここまで付いて来てくれたことへの感謝をこめて手を差し出した私に、アイルは驚いたような顔をした。
「だって、身元保証も終わったし、私は無事に学園に潜入できたし。もう手伝ってくれなくて大丈夫だよ。」
「え、でm―」
「本当にありがとう!これまでしてくれたことは絶対に忘れないから!」
私なりに最大限の感謝を伝えたのだが、アイルは形容しがたい表情をして固まってしまった。
「登校は明日だが、私と同じで3日後に登校するのがいいだろう。それまでに予習でもしておけ。」
「初日からさぼっちゃっていいの?」
「体が弱いという設定なんだ。多少休みがちな方が今後色々と動きやすい。それに、目的は優秀な成績を取ることじゃないだろう?」
(うわあ、悪い顔してる…)
「リオンって意外と不良だよね。」
「無駄口は良いから。さっさといけ。必要な情報は後で連絡する。」
「了解。」
遠くで鐘の音が聞こえ、生徒たちが校舎内を移動し始めている。
もう就業の時間らしい。
「そろそろ生徒たちが戻ってくる。人目につく前に解散した方がいい。」
リオンの言葉に頷き、私はもう一度アイルに感謝を述べて足早に寮の中へと足を踏み入れた。
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