シャクヤク②
「…君の入学を許可しよう。」
学院長はそう言うと、一人部屋を出ていった。
試験の部屋を出た後も、私はもやもやとした気持ちを抑えられずにいた。
さっきのが試験だったというのだろうか。あの椅子に座っているだけの時間が?
疑問が腫れないままリオンたちが待つ場所へと戻ってきた私は、椅子に腰かけずに待っていた二人に出迎えられた。
なんだかんだ言って、二人とも不安だったようだ。
「学校に必要なものは全て寮の部屋に届けさせました。入学おめでとうございます。」
二人に見向きもせず事務的にそう伝えると、男性はもう用はないというようにその場を立ち去ってしまった。
「…受かったか。」
男性の言葉に、リオンは安堵の表情を見せた。
アイルはなんだかポカンとした顔で男性を見送っていた。
魔法学院の試験というから、もっと仰々しいものだと思っていたのだろう。
私だって、試験がこんなにあっけなく終わるとは思っていなかった。
「え、受かったってことだよね…?」
「さっきそう言われただろ。」
不安そうに聞くアイルにそっけなく返すと、リオンはこちらに向き直った。
「もうすぐ使いが来る。ここで待っていよう。」
「使いって?」
そう聞いた時、私の目の前に一匹の鳥が現れた。
羊皮紙のような紙で織られた、折り紙の鳥だ。
その鳥はついてくるように私の周りを一周すると、先ほどの試験の部屋と同じ方向へ廊下を飛んでいった。
「行こう。」
私たち三人は、鳥の案内に従って廊下を進んだ。
「ねえラピス。試験って、なにしたの?」
歩きながら、アイルが小声で話しかけてきた。
「特になにも…あの部屋の中で…」
「椅子に座っただけ」と言おうとした途端、喉に焼けるような痛みが走った。
「ゔっ!」
その痛みに言葉が続けられなくなった。
「大丈夫!?」
突然しゃがみこんだ私に、アイルが驚いたように言った。
幸い一瞬で痛みは引いたが、目に涙が浮かぶ。
「う、うん…なんか急に喉が熱くなって。」
アイルに立たせてもらうが、何事もなかったかのように言葉を発せられるようになったことに驚く。
「試験の結果は他言無用だと言われなかったのか?試験を受けた者は全員契約の魔法をかけられるんだよ。」
「そんな!何の説明もなくひどくない!?」
リオンの言葉に、思わず憤慨する。
「仕方ないだろ。誰も試験の内容を他人に言うことはできない。部屋に何があって、どんなことが起きたか、自分と試験官以外は知ることができないんだ。」
「へ~なんか、徹底しているんだね。」
アイルは感心したように言うと、私が試験を受けた部屋の扉をしげしげと眺めた。
「なんか、こう見ると普通の部屋にみえるけど。」
そう言って扉を開く。
「え、ちょっと!勝手に開けたらまずいんじゃないの!?」
制止しようとしたが、アイルはいとも簡単に扉を開いてしまった。
「え、開いちゃった…」
試験の部屋の扉がこんなにも簡単に開くと思っていなかったのか、開けた本人も驚いている。
三人で恐る恐る中を覗くと、そこには私の時と同じく部屋一面に咲き乱れる花と、一脚の椅子が置いてあった。
ただ、私の時と違うのは、花の色が青色ではなく、眩いばかりの黄色だったということだ。
よく見ると、花の形も違っている。
(きれい…)
部屋には光源がないはずだが、まるで部屋の中に太陽があるかのようだ。
「私の時と違う」と口を開きかけて、慌てて口を閉じる。
先ほどのような痛みは一度で十分だ。
リオンも驚いているようで、何も言わずに部屋の中を凝視している。
「…これ、閉じたほうが良くない?」
「そ、そうだね…」
アイルは静かに扉を閉め、私たちはしばらくその場に固まって顔を見合わせた。
「なんか、まずいことしちゃった感じ…かな?」
「た、多分?」
まさかこんなにもあっさり試験の部屋が開くとは夢にも思わなかった。
パタパタ…
その場に留まっていると、しびれを切らしたのか、案内役の鳥が戻ってきた。
「あ、行かなきゃだ。」
再び廊下を歩きだすが、入学云々よりもはるかに気になるものができてしまった。
「ねえ、僕もこのことは言わない方がいいよね?」
アイルが小声で聞く。
そういえば、私たちと違って、アイルは他の人に言わないように契約の魔法がかけられていない。
つまり、意図せずに、アイルはあの部屋のことを他に話せる唯一の人材となったのだ。
「その方がいいだろうな。」
リオンも先ほどの部屋について考えているようだ。
結局、あの部屋は何だったのだろうか。
私の時は青く、アイルの時は黄色く咲いていたあの花は何だったのだろう。
疑問は色々と残るが、私たちは案内について行くしかなかった。
お読みいただきありがとうございました。




