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シャクヤク①

「わあ~すご…!」


上を向いたアイルがぽかんと口開けたまま固まっている。

もうかれこれ30秒は上を向いたままだ。


「何回か来たことあるんじゃないのか?」


叔父のスミスに扮したレオンがあきれ顔で呟いた。


「まあ、何回来ても見とれちゃう気持ちはわかる。」


私は正面にそび立つ城のような建物…魔法学院を見上げた。


王城とは違い、きらびやかというよりは堅固な印象を抱く佇まいは、不用意に立ち入る者を拒絶しているようだ。


「あいつと同じ顔になってるぞ。」


上を見上げながら動かない私たちにしびれを切らしたレオンが歩き出した。


「ま、待ってよー!」


「叔父さん!」


「叔父さん」と呼ばれたレオンは振り向いた。


ただの変装とはいえ、叔父さんと呼ばれるのは嫌なようだ。

その不機嫌そうな顔を見た私とアイルは、互いにくすくすと笑いながら門をくぐった。




「あなたが入学希望のラピスさんですね?」


葉色のローブを着た男性が書類越しにこちらを見上げてきた。


「は、はい。」


さっきまでリオンの「叔父さん」呼びをいじっていたが、いざ学園の人を前にすると緊張してくる。

自分で考案した名前とはいえ、慣れない偽名にぎこちない返事を返してしまった。


「それで、あなたがスミスさん。ラピスさんの身元保証人でしたか。」


しかし、男性は私がただ緊張しているだけだと受け取ったようで、特に気にせずにレオンの顔を確認した。


「はい。」


「あなたがご親戚のアイルーロスさんですね。」


「はい!」


元気よくアイルが返事を返す。


全員の確認を取った男性は、再度書類に目を落とした。

書類はレオンが作成したもので、もちろん書いてある情報のほとんどが嘘だ。


「―それでは、試験会場へ向かいましょう。」


書類に目を通し終えた男性が椅子から立ち上がった。

それと同時に、私は心の中でほっと溜息を洩らした。


いくらリオンが作成したとはいえ、短い時間で作成した書類にいつウソがばれるかとひやひやしていたが、どうやら書類審査は通ったようだ。


「ご親族のお二人はそこでお待ちください。」


男性は近くに据えられた椅子を示すと、私についてくるよう目くばせして歩き出した。


「は、はい。」


私はちらりと二人を振り返った。

アイルは少し不安そうな笑顔を返し、リオンは早く行けと口を動かした。


注意された私は慌てて前に向き直り、スタスタと歩いて行ってしまう男性の後をついて行った。



男性は、年月を感じさせるさび色がかったような深い灰色の廊下を迷いなく歩いていく。


歩いていく動きに合わせてはためく葉色のローブは、石造りのこの建物に調和して見えた。


一方の私は、緊張故か、この空間内では自分が非常に異質なもののように感じていた。


「着きました。」


ほどなくして、一つの扉の前で立ち止まった。


「試験の準備はできていますので、どうぞ、お入りください。」


抑揚のない声で言うと、男性は重そうな扉を開けて私を中へと通した。


(わ…)


部屋の中には淡く光る空色の花々が咲き乱れており、花の中には椅子がぽつんと置かれていた。

美しいが、室内ということもあってこの空間だけ現実から切り離されているようだ。


準備はできていると言ったにもかかわらず、しばらく待つように言われた私はおとなしくその椅子に座って待つことにした。



どれくらい時間がたっただろうか。

初めはソワソワとせわしなく視線を泳がせていたが、今では別の緊張が襲ってきていた。


いつまでこの青い花が咲き乱れる部屋に放置され続けるのだろうか。


私の不安に呼応してか、風もないのに花たちがふわりと揺れる。


(この花って確か…)


足元に咲く花をよく見ようと身をかがめた時、部屋の扉が開いて先ほどの男性ともう一人、初老の男性が入ってきた。


私は慌てて背筋を伸ばすと、二人に向き直った。


「楽にしていて結構。」


年齢に見合わずはっきりとした口調で言うと、初老の男性は私から少し離れた場所で止まった。


(濃紺のローブに、金色のバッジ…)


男性の服装に、私は事前にリオンからもらった情報を思い出した。


(この人が学院長…)


小さい頃に読んだファンタジー物語に登場する偉大な魔法使いたちの様相を思い出す。

やはり魔法使いというのは相応にこのような見た目なのだろうか。


しかし、あえて彼らと違うところを言うとするならば、この人からは寛大さや優しさといったものが何一つ感じられない。


「ふむ…」


学院長は、いかにも厳格そうな目つきで私を見つめている。


「この試験における規約を覚えてるかね?」


私から目を離さずに学院長は隣に立つあの男性に聞いた。


「はい。試験の結果は決して他言いたしません。」


男性がそう答えた時、一瞬だけ、男性の口から何か煙のようなものが見えた気がした。


「君も、試験の結果を誰にも話さないと誓いなさい。」


今度は私に向かって学院長は言った。

その口調は、決して有無を言わさないほど厳しいものだった。


「は、はい。誓います。」


「きちんと言いなさい。」


「し、試験の結果を誰にも話さないと誓います。」


その瞬間、喉の奥で何か熱いものが生まれる感覚があった。


しかし、熱いと声を発する間もなく、その感覚は消え去った。


「…君の入学を許可しよう。」


学院長はそう言うと、一人部屋を出ていった。




シャクヤク:素質


お読みいただきありがとうございました。


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